
中途採用市場においては、20代から30代前半までは現場第一線のプレイヤーとしての力量が問われ、35歳を超えると、マネジメント候補としての人材補強の意味合いが強まってきます。30代後半以降、年齢階層が上がるごとに採用の壁は確かに高くなりますが、企業が求める人材要件を想定することで対策は講じやすくなります。今回は「成果の再現性」という観点で、転職の成否を分けるポイントを考えてみたいと思います。
間違いだらけの自己PR
転職活動のサポートをしている中で、面接を控えた人に、模擬面接を行うことがあります。実際に口に出してロールプレイングをすると、その人ならではの癖や傾向がはっきり浮かび上がってきます。声の出し方や姿勢、視線など、話し方の癖とは別に、特に自己PRで話す内容には、自分の価値観や仕事への向き合い方がにじみ出るものです。
少し修正するだけで印象が大きく変わるのに、と思ういくつかの例をご紹介します。
・過去の実績自慢パターン
自己PRで自分の強みを伝えようと思うあまり、過去の成功体験ばかり自慢話のように話し過ぎてしまうケースです。高い営業目標の達成経験やメンバー育成やプロジェクトの成功など、確かにその体験の中に強みが含まれているのですが、それがいかにも自分だけの成果であるように語ってしまったり、自分軸で満足度が高いだけの事例だったりすると、やや冷静さが感じられない結果になってしまうかもしれません。できるだけ「客観的事実」や「起承転結」を意識して、筋道立てて話すだけで、印象が大きく変わるかもしれません。
・見当違いなPRパターン
「目指す企業が求めているスキルや能力は何か」を冷静に見極めずに、自分の中での成功体験にフォーカスしてしまうと、洞察力がない人だと見られてしまうことになります。採用の実務経験を求めている会社に対して、キャリアコンサルタントや労務の資格や経験をアピールしても、相手には響きません。「その実績はすごいが、売り込み先はうちではないのでは?」となってしまいかねません。もしも「募集要項で求めているスキルと自分の持っているスキルが合わないが、ぜひ働きたい」という会社の場合は、率直に足りない部分があることを伝えた上で、その不足を、どうやって補っていくつもりなのか、自分なりの考えをしっかり伝えることが必要です。
・「あれもこれも」アピールパターン
「私は〇〇ができます。また、××の経験もたくさんあります。もし必要なら、△△にも興味があるのでやってみたいと思っています」というように、少しでも相手のニーズに合う接点を作ろうとするあまり、「なんでもできるアピール」をしてしまい、逆に信用を失うパターンです。たとえ事実であっても、自分自身の核となるメインキャリアに絞って、エピソードを交えて強みを語ったほうが、安定感は伝わりやすくなると思います。
ほかにも、スキルや実績で自分の強みを語れないときに、苦し紛れに自分の意気込みや姿勢だけを強調するのは、社会人経験が長い人にとってはマイナスのほうが大きいかもしれません。また、自己PRの内容と志望動機や退職理由が一致していないときなども、面接官は違和感を覚えることが多いようです。熟練した面接官ほど、人物像を正しく理解するために矛盾点を深く掘り下げてくるので、終始一貫したメッセージを伝えられるよう、多様な角度で準備しておくことをお勧めします。
自分独自の工夫と成果の相関を語らなければ伝わらない
採用選考を勝ち残るための基本は、あくまでも面接官ファーストであることです。
「自己PRとは、自分がアピールしたいことを伝えるためのもの」ではなく、「面接官が知りたいであろうことを伝えるための時間です。では、企業の経営者や人事部長、採用担当者など、面接官が知りたいこととはどんなことだと思いますか?
答えは至ってシンプルです。「その人を採用したら、仲間として、会社や組織にメリットをもたらしてくれる人か?」という点に尽きます。そして、そこで求められるメリットとは、多くの場合、売り上げや履歴などの数字で表されるものです。
つまり、すべての自己PRは「それがその会社にとってどう役立つのか?」というロジックで語り続けることが原則だと思います。
「私の強みは」と語り始めるのではなく、「御社の課題に対して私が貢献できる点は」という文脈で話を進めていくと、社内で必要とされる度合いは確実に高まっていくはずです。
また、成果を説明する際にもう一つ気を付けたいことは、「成果を生み出すために、自分が工夫したこと」と「それが成果にどのような影響を及ぼしたか」を論理的に説明することです。合わせて、大きな仕事になればなるほど、成果を生み出すために関わった人の数が増えるので、「成果に対する自分自身の関与度」の客観的な説明も重要です。
・自己PRの基本的構文
(1)もともとの課題
(2)目標
(3)目標の達成度(=成果)
(4)チームの中での自分の役割・ミッション
(5)成果を生み出すために自分が行った創意工夫
(6)その創意工夫が、成果にどんな寄与をしたのか
この構文に沿って説明できると、相手にもあなたの力量が具体的に伝わりやすくなります。数字や固有名詞を組み込むことで、より客観的で率直に伝えることが可能になります。大げさなアピールでないことが伝わると、誠実な印象を持ってもらうことにもつながります。
また、自分の強みをアピールする際の観点として、具体的なプロジェクトが成功するまでの「ビフォア・アフター」が強い印象を生むことは間違いないのですが、下記のポータブルスキルの観点=「課題を明らかにする力」「計画を立てる力」「実行する力」「人との関わり方」などで、エピソードを抽出する方法もあります。アピールするネタに困ったら、ぜひこのような観点も参考にしてください。
面接は「成果の再現性」が発揮できるかを確認する場
面接は、選考する企業が自社に合う人材を見きわめる場であることは間違いありません。しかし、逆に、応募する個人側がその会社で自分が貢献できるかどうかを確認する場でもあります。
また、具体的に会社の方針や仕事の中身を聞くことは、意欲を感じさせる側面もあります。
「今後の経営戦略では、どんな優位性を磨いていこうとしておられるのでしょうか?」
「配属先の部署における課題はどんなものがありますか?」
「もし配属されたら自分が最初に任せられるミッションはどんなものが考えられるか?」
「仕事の進め方について、留意しておくべきことを教えてください」
「いま活躍している方はどんな強みを持っている人が多いのでしょうか?」
組織の中で働くことを具体的にイメージした質問をすればするほど、前のめりな姿勢が伝わる可能性が高まります。決して外部のお客様ではなく、社内の人間であるかのようなテンションで、自分が働く姿をイメージするために聞けることはどんどん聞いて、確認していったほうがいいと思います。
最後に、面接を担当する人事担当者が、どんな観点で選考に臨んでいるのか、のヒントを共有します。選考の方法論の一つに、たとえば、「コンピテンシー面接」という考え方があります。
コンピテンシーとは、ある成果を生み出すために、その人を取り巻く環境の中で、自分が持つ能力的な資源(知識、スキル、経験など)を、どのような工夫を加えながら活用することが最も効果的かを考え、それを実行する力のことを言います。
コンピテンシー面接のポイントとして、深掘りされるのは「単に知識を持っているだけでなく、行動化しているかどうか」「行動化において、成果を最も効果的に創出できるための工夫があるかどうか」の2点です。
たとえば、「あなたの一番の強みは何ですか?」などの質問に対する回答の中に、「本人が工夫を加えながら発揮した行動事実」が含まれていない場合、追加で深堀りした質問を受けることになります。その質問とは、「なぜ?」ではなく、「たとえば?」という問いかけです。
強みについて質問したときに、「リーダーシップです」という回答が返ってきたとします。この回答には「いつ、どこで、どのような効果的なリーダーシップ的行動をとったのか」という具体的な行動事実が含まれていません。
そういう場合はすかさず「たとえば、その強みであるリーダーシップを発揮したエピソードを聞かせてください。いつ、どこで、誰に、どのようなリーダーシップを発揮されましたか?」というような質問が追加されるでしょう。こういう質問を繰り返し聞いていくことで、対象者が経験したいろいろな場面におけるコンピテンシー発揮の事実情報を集めていくことができます。
あらかじめそういう質問に答える準備をしておくこと、もっと言えば、聞かれる前に事実をもとにした自己PRができるように準備しておくだけで、あなたへの印象はまったく違うものになるかもしれません。

黒田真行
[NIKKEI STYLE キャリア 2021年07月23日 掲載]