年収1000万円とやりがいのてんびん 転職失敗者に学ぶ

sfidaM代表 小沢松彦氏

セカンドキャリアで大事な条件は何か(写真はイメージ=PIXTA)
セカンドキャリアで大事な条件は何か(写真はイメージ=PIXTA)

セカンドキャリアでの大事な条件として、まず何を考えますか。収入、やりがい、勤務地……。いくつかの視点があると思いますが、どれも大切ですね。老後の時間が長くなった今、退職金と年金だけで30年近い時間を賄うことは普通の人には簡単ではありません。そう考えると、やはり収入が一番気になる人が多いと思います。セカンドキャリアとの向き合い方について、sfidaM(スフィーダム)代表の小沢松彦氏がアドバイスします。

セカンドキャリアといえども、できる限り年収を高くしたいと思うのは当然です。しかし、それに固執しすぎることも危険です。ある相談者のケースです。この方は年収900万円くらいの会社に勤めていました。ただ、どうしても年収1000万円の大台に乗せたいという思いが強く、それを目的として転職活動をし、希望通りの条件の会社への転職を果たしました。ところが、この方が私のところに相談に来たのはこの転職の後だったのです。

転職から僅か半年後に相談

「転職が成功したばかりなのに、どうしたのですか」と聞く私に、彼は「実は転職の相談に来ました」と言います。それは彼が転職してから半年後ぐらいのこと。それなのにまた転職の相談に来るとはどういうことなのだろうかと訳を聞いてみると、「確かに年収は希望通りの1000万円台になりました。ただ、しばらく働いてみて、やりがいを感じないことに気づいたのです。そんな思いを抱いたまま会社に居続けることもつらく、改めて転職できないかと思ったのです」。この方はとにかく年収を1000万円台にというこだわりがあったようです。そこにはいわゆる「大台」と言うイメージや、ひょっとしたら、見栄(みえ)もあったかもしれません。

いずれにせよ、仕事の選択基準をお金だけで考えていたのです。希望通りの報酬であれば、やりがいは後からついてくると思っていたけれど、いざ転職してみたら、やりがいの方がもっと大事だったと気づいてしまったのです。でも、それは後の祭り。転職先をたった半年で辞め、すぐに別の転職先を同じような好条件で見つけることは簡単ではありません。何か問題があったのではという印象を持たれやすいですし、特にセカンドキャリアの場合、どうしても年齢の壁があるのでなおさらです。

手取りで月約4万円の差をどう考えるか

確かに年収1000万円と聞くと、響きが良いですよね。でも実際に手元に残るお金として考えてみるとどうでしょうか。実際の年収は家族構成などをはじめとした家庭ごとの個別条件によって異なるので、あくまで概算ですが一般的に年収1000万円の人の手取り額は700万円程度。年収900円の人の手取り額は650万円程度といわれます。年間で約50万円の差。これを月で割ってみると、月々4万2000円弱です。もちろん4万2000円という金額をバカにするわけではありませんが、このくらいの年収の方にとって月々の生活の見直しで捻出できない金額ではないとも言えます。やりがいを感じて長く勤めてきた会社を辞め、全く未知の環境に身を投じる対価として、この金額が果たして妥当なのか、という視点から考えていたら、年収1000万円にこだわる考えも変わってきていたことでしょう。

年収1000万円と900万円の手取り額の差は月約4万2000円
年収1000万円と900万円の手取り額の差は月約4万2000円

この方は転職して環境や仕事の中身が変わるまで、やりがいというものについて改めて考えたことがなかったのかもしれません。 会社員の場合、長く勤めていると、そこで自然と身に付いた知見、スキルなどを改めて見直すこともなく時が過ぎていきます。「そもそも自分にとってのやりがいとは何か」を考えておくことは大事です。ひょっとしたら、その会社で身に付けてきたことがあるからこそ、そこでのやりがいを感じることができているのかもしれません。

あるいは会社のネームバリューやポジション、評価ゆえのやりがいなのかもしれません。それらが無かったとしても、個人として感じるやりがいとは何なのか、環境がリセットされる転職の際には、それをしっかりと考えておくことが必要です。新しい環境では気心が知れた仲間はいません。一緒に愚痴を言い合えるようになるまでには時間がかかります。そのような中でゼロから働くのですから、そこに自分が移る意義を見いだせなければ、気持ちを維持し続けることも大変でしょう。もし、そうしたやりがいや意義を見つけられそうもないなら、無理に転職することは勧められません。

一方、定年を間近に迎えた相談者に多いのは「これからは人の役に立ちたい。報酬よりもやりがいが大事だ」と言う方たちです。このような方には何人も会いました。ほとんどが以下のような会話のパターンになります。

「では、どんな仕事に就きたいですか」

「NPOとか、社会に貢献する仕事に就きたいです」

「社会貢献は大事な視点ですよね。例えば、具体的に言うとどういう仕事ですか」

「だからNPOとか」

「NPOでもいろいろな種類がありますよね。そもそもあなたが今まで働いてきた会社の仕事は社会に貢献していなかったんですか」

「社会に役立つ=NPO」は短絡的

このあたりから相手の言葉が詰まり始めます。第二の人生は社会の役に立ちたいという理想自体は良いのですが、社会に貢献するという言葉に酔い、そこで思考がストップしまっているのです。「社会の役に立つ仕事=NPO」と短絡的に考えてしまっています。さらに、そこで得られる報酬がいくらぐらいなのか、それは第二の人生に十分なものなのかということも考えていないケースがほとんどです。

年収とやりがいのどちらを取るか
年収とやりがいのどちらを取るか

お金とやりがいはどちらも大事です。でも、まずはそれが自分にとってどういう意味を持つのか、どのようにバランスをさせるのか。そこをしっかりと考えることから始めましょう。

小沢松彦
1962年名古屋市生まれ。85年早稲田大学卒業後、博報堂入社。営業部長や広報部長などを歴任し、2014年に早期退職。セカンドキャリア支援の一般社団法人、社会人材学舎の起業に参加し、後に自身で主に中小企業のバリュー開発・社員教育を手掛ける会社「sfidaM(スフィーダム)」、企業戦略の伴走支援ユニット「Halumni(ハルムナイ)」を設立。現在は経済同友会と兼業。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年07月21日 掲載]

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