金融へ転職、年収2500万円超えも 中高年層も活発化

A.T.カーニー 筒井慎介シニアパートナー

金融・保険業の転職はほぼ全年齢層で年収が増加(写真はイメージ=PIXTA)
金融・保険業の転職はほぼ全年齢層で年収が増加(写真はイメージ=PIXTA)

転職と年収変化の業界別動向を考察してみます。今回は2010年と19年のどちらも3割以上の年収増加率が最も高い金融・保険業について、統計データからどのような傾向が見られるかをA.T.カーニーの筒井慎介シニアパートナーに聞きました。

図1 転職による年収3割以上増加率の全産業平均との比較 出所:厚生労働省 雇用動向調査より、KEARNEY作成
図1 転職による年収3割以上増加率の全産業平均との比較 出所:厚生労働省 雇用動向調査より、KEARNEY作成

金融・保険業の年代別の年収増減を見てみると、ほぼ全年齢層で同程度に年収が増加しています。さらに、10年から19年にかけては24歳以下の若手層および45~54歳の中高年層で年収が3割以上増加した率が大きく伸びており、金融・保険業への転職による年収増加率の伸びを支えていることが分かります(図1参照)。

図2 金融・保険業における年代別の転職による年収増減(2010年、19年) 出所:厚生労働省 雇用動向調査より、KEARNEY作成
図2 金融・保険業における年代別の転職による年収増減(2010年、19年) 出所:厚生労働省 雇用動向調査より、KEARNEY作成

金融・保険業界の年収水準はもともと、他業界に比べ高いため(図3参照)、他業界からの転職は年収水準が上がりやすい側面もあると考えられます。しかし、若手層および中高年層の年収増加率の大幅な増加はそれだけでは説明が付かず、年収水準が高い他業界との差も説明できません。

デジタル・金融技術を優遇

金融・保険業は昨今のデジタル化の中でも、いち早く金融とIT(情報技術)が融合した「フィンテック」という言葉が飛び交い、デジタルを活用した既存業務の効率化やBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)のようなデジタルトランスフォーメーション(DX)1.0だけでなく、新しいサービスやビジネスモデル自体を刷新するDX2.0の変化に早くからさらされた業界でもあります。そうした中で、多様なスキルや経験を持った人材の中途採用に力を入れていたのではないかと想像されます。必ずしも金融の経験は無くとも、デジタル技術に精通した若手層や、デジタルリテラシー(知識)と金融リテラシーを併せ持った中高年層を優遇し、採用するといったことがあっても不思議ではありません。

金融・保険業のボリュームゾーンは年収600~700万円と高く

国税庁の民間給与実態統計調査による1年未満勤続者(新卒入社者も含まれ得るが、年収水準が上がるほど転職者を指すものと想定される)の年収分布を見ると、年収が比較的低い層では全業界平均が500万~600万円がボリュームゾーンであるのに対し、金融・保険業は600万~700万円がボリュームゾーンになっています。年収の高い層では1000万~1500万円、さらに2500万円超の出現率が高くなっています。若手層だけでなく、高い年収を得る中高年層の転職も活発に行われているように見られます。

図3 一般労働者(25~64歳)の業界別年収 出所:厚生労働省 賃金構造基本統計調査より、KEARNEY作成
図3 一般労働者(25~64歳)の業界別年収 出所:厚生労働省 賃金構造基本統計調査より、KEARNEY作成

一方、年収上位5業種の中でも対照的なのが電気・ガスなどです。年収水準は最も高い水準ですが、転職者の高年収の出現率が低く、若手層を除いて中途入社が少ないことが見て取れます。恐らく転職者は低年齢層が中心で、専門性を生かした採用というより一般的なポテンシャルを評価して採用した結果、年収水準は現状維持程度となり、転職による年収増の比率は平均よりも低く出ているという解釈ができそうです。

図4 1年未満勤続者の年収分布 出所:国税庁 民間給与実態統計調査より、KEARNEY作成 注:年収500万円未満は新卒労働者の含有率が高いと想定し、年収500万円以上のみで集計
図4 1年未満勤続者の年収分布 出所:国税庁 民間給与実態統計調査より、KEARNEY作成 注:年収500万円未満は新卒労働者の含有率が高いと想定し、年収500万円以上のみで集計

では、こうした転職者はどのようなバックグラウンドを持っているのでしょうか。転職者に占める同業からの転職率を見てみると、金融・保険業は他業界とは異なる特徴がありました(図5参照)。全業種平均で見てみると、同業からの転職率は年齢層によらず13~15%とほぼ同水準で推移します。6~7人に1人くらいが同業からで、後は他業種からの転職ということになります。

これを業界別に見てみると、金融・保険業は若手層では同業からの転職率が低いものの、年齢層が上がるにつれて同業からの転職率が上昇していき、最終的には全業種の中でも同業からの転職率が最も高くなります。これは他業界には見られない特徴です。若手層には金融・保険の知見を求めず、ポテンシャル(場合によってはネットワーク)を期待し、門戸が広く開かれているものの、年齢層が上がるにつれて金融・保険の専門性を問われるのではないかと考えられます。

これらを踏まえると、金融・保険業はそもそも年収水準が高い業界で、転職による年収増が期待でき、特に若手層は金融・保険の経験が無くてもチャレンジできる業界であろうと思われます。これに対し、中高年層は他業界と比較して3割程度とはいえ同業からの転職比率が高くなるため、一定の金融・保険業の専門性が問われるのではないかと想定されます。個別企業ごとの違いはあるにせよ、年収水準がある程度同じと想定される同業からの転職であっても、年収増加率が高い(10年から19年にかけて増加率が上昇している)ということは知見やマネジメント力だけでなく、プラスαが求められることも想定されます。

図5 年齢層別同業からの転職率 出所:厚生労働省 雇用動向調査より、KEARNEY作成
図5 年齢層別同業からの転職率 出所:厚生労働省 雇用動向調査より、KEARNEY作成

商業銀行も人材流動性の可能性

金融・保険業で人材流動性が特に高いのは保険業で、次いで貸金・クレジットカード業のようです。銀行や共同組織金融はそこまで人材流動性が高まっていないようです。ただ、商業銀行は保険業や貸金・クレジットカード業などと同様にリテール(個人向け)金融を持っており、既にフィンテックによる変化にさらされている業界だろうと考えられます。伝統的な大手企業が多く、その動きが必ずしも早くなかったかもしれませんが、今後は商業銀行でも人材流動性が高まる可能性があり、金融の世界で新たにキャリア構築や自己実現を考える方にとっては今後さらにチャンスが広がるのではないかと考えられます。

筒井 慎介
2000年、東京大学工学部卒。ジェーシービーを経て、A.T. カーニーに入社。エネルギー、電力、都市ガス、通信業界を中心に、事業戦略、M&A戦略、新規事業立案、シナリオプランニングなどを支援。2013~14年に経済産業省資源エネルギー庁電力改革推進室(課長補佐)に出向。14~16年度まで京都大学 大学院経済学研究科 特任准教授。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年06月09日 掲載]

ピックアップ

注目企業

転職成功アンケートご協力のお願い
日経転職版を通じて転職が決まった方に、アンケートのご協力をお願いいたします。