あしたのマイキャリア

転職で約4割が年収アップ 意外に多い「準備ゼロ」派

「日経転職版」特別セミナーから

転職先では即戦力が期待される(写真はイメージ) =PIXTA
転職先では即戦力が期待される(写真はイメージ) =PIXTA

転職をするビジネスパーソンが再び増えている。転職サイト「日経転職版」は特別セミナー「プロが語る、これからのキャリアのあり方とは?」を開催した。転職エージェントのアクシス(東京・渋谷)の末永雄大社長に、誰にとっても応用が効く転職の基礎知識とその使い方について話を聞いた。

――昨今の転職マーケットはどのようになっているのでしょうか。

新卒の市場との比較でお話しすると、まず転職活動は、新卒と比べて孤独な戦いだと言えます。新卒のときの就職活動では同期が50~60万人くらいいるような状況ですが、転職活動は人それぞれ自分のタイミングで開始することが多いので、相談できる相手がいなかったり、受け身でいると情報が入ってこなかったりします。

新卒は基本的にポテンシャル採用ですが、転職時の中途採用では即戦力が求められます。思った以上に経験値や即戦力が重視されることに戸惑う人も多いです。

中途採用では新卒2、3年目の人もいれば、社会人10年目の人もいます。様々な年齢の人、経験を持った人が競争相手となり、1つの席を奪い合う状況になります。まず、そのようなマーケット環境であることを、冷静に把握しておいたほうがいいかもしれません。

――年齢の違う人たちが席を奪い合うということは、年齢が重要になるということでしょうか。

転職における年齢のインパクトは、正直言ってあると思います。最近では、「コロナ禍の今、転職をすべきなのか?」「もう少し時期を待ったほうがいいのではないか?」という相談を受けることが増えました。「不況か、好況か」ということ以上に、年齢のほうが実際には影響があります。好況になるまで待っていると、年齢的にさらに不利になってしまう場合が多いです。

法律上は「年齢制限を設けてはいけない」とされていますが、1つの席を2人で奪い合う状況になったときには、年齢相応のスキルがあるかどうかという観点で見られると思っておいたほうがいいです。

転職前に欠かせない「自己分析」

――転職活動の事前準備のキーポイントを教えていただけますか。

転職活動で大事なことは「準備」です。当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、準備をしない人がとても多いです。現職の仕事をしながら転職を考える人がほとんどなので、今の仕事が忙しくて準備がままならないというのが1つの理由です。

アクシスの末永雄大社長(特別セミナー「プロが語る、これからのキャリアのあり方とは?」の画面)
アクシスの末永雄大社長(特別セミナー「プロが語る、これからのキャリアのあり方とは?」の画面)

転職は現職への不満や苦痛などのネガティブな感情から考え始める人が多いので、感情的になって焦ってしまい、「現状から逃避したい」「いち早く転職したい」となってしまって準備不足になる場合もあります。

しっかりと準備をしないまま、求人サイトを見て会社選びを始めたり、エージェントに登録して紹介された会社にすぐに選考に向かってしまったり。そういう人が非常に多いです。しかし、準備こそが大事なのです。そして、ここで言う準備とは、「自己分析」のことです。

――自己分析のポイントを教えてもらえますか。

新卒の就職活動のときも、自己分析が大事だと言われて、取り組んだと思いますが、転職における自己分析は新卒時とは異なります。内定をもらうためのコンテンツを作るようなものではなく、「自分の適職を見つける、自己実現する、入社後に定着・活躍する」ための、言語化の作業だと思ってください。

具体的に何を言語化するかというと、仕事における「やりがい・苦痛・得意・不得意」の4項目です。例えば、転職活動をネガティブな理由からスタートしている人は、「苦痛」だけを主張する人が多いものですが、「やりがい」を感じた仕事もあったはずです。それをきちんと発見してください。

この4項目をできるだけ洗い出ししてから、自分は「なぜやりがいを感じたのか」「なぜ苦痛を感じたのか」など、抽象化していきます。自問自答を繰り返して深掘りしていくと、本質的に自分は何が好きだったのか、何が嫌だったのか、一貫したものが見えてくると思います。

この作業をすることが、転職のステップとして最も重要な「準備」になります。

転職後の年収を巡る現実

――自己分析の次のステップとしては、何をすればいいのでしょうか。

自己分析の結果、自分の「やりがい・苦痛・得意・不得意」が把握できたら、次に挙げるような求人を見つけていきましょう。

・やりがいの再現性が高く、頻度も高い仕事

・苦痛が少ない仕事

・得意が生かせる仕事

・不得意な業務が少ない仕事

このような求人を見つけていけば、入社後に定着・活躍できる可能性が高いということになります。

――転職するときの目的として、年収をアップさせることは、どの程度重視したほうがいいのでしょうか。

仕事選びにおいて年収は重要なテーマだと思いますが、厚生労働省が毎年出しているデータを見てみると、転職を通して年収が上がった人は全体の4割程度です。6割の人は現状維持か年収ダウンしています。これが事実なんです。

年収を下げてまで転職をするかどうかについては、「自分にとって何が一番重要か」を、自己分析で明確にしておくことです。損しかないと思うと、身動きがとれなくなってしまうと思います。

――人それぞれ、自分なりの働き方と幸せのあり方があると思いますが、キャリア形成についてどう考えれば幸せに近づけると思いますか。

「成功」と「幸せ」は分けて考えるといいと思います。市場の中で自分の価値を高めて成功をつかむためには、到達点が明確なので、論理的に逆算してどんなスキルや経験を積み上げればいいかを考えればいいと思います。一方、「幸せ」は主観の話なので、「これをやりたい」「ここにこだわりたい」と自分が思うことを選べるかどうかです。

「幸せ」の切符として、最低限の「成功」を積んでいたほうが、自分の望むことを選べる権利を得やすいということだと思います。

――最後に、キャリアについて真剣に考えている人に応援メッセージをお願いします。

変化の時代の中、多くの人はその変化に瞬発的に対応することは難しいと感じていると思います。自己責任の時代だと言われて、不安になっている人もいるかもしれません。しかし、捉え方によってはチャンスだと思います。たとえば、大企業にはこれまで、終身雇用の代わりに強力な人事権があり、いきなりの転勤・ジョブローテーションとかで、働く人はしばられていた面もあったと思います。これからは、自分の人生は「自分で選べる」「自分で決められる」時代になります。そのような視点で、ぜひ前向きにキャリアを考えてみていただきたいと思っています。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年07月24日 掲載]

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