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「文系人間」でもDX人材に カギは仲間と3ステップ

企業はDX人材の確保が課題(写真はイメージ=PIXTA)
企業はDX人材の確保が課題(写真はイメージ=PIXTA)

日本の大手企業はいずれもデジタルトランスフォーメーション(DX)への対応に力を入れている。しかし、問題はデジタルをフル活用し、ビジネスモデルの変革を担うDX人材をどう確保するかだ。これまで営業や事務職などを担ってきた「文系人間」でもDX人材になれるのか。IT(情報技術)のオンライン教育サービスを手掛けるアイデミーの社長兼最高経営責任者(CEO)の石川聡彦さんに聞いた。

エンジニアは理系優位 リーダーは事業の改革者

「基本は文系出身者でもDX人材になれる。ただ、一言でDX人材といっても2つのタイプに大きく分かれる」と石川さんは話す。人工知能(AI)技術を駆使してシステム対応を担うエンジニア系の人材とプロジェクトのまとめ役となるDX事業推進のリーダー的な人材だ。

エンジニア系の人材になるには理系出身者の方が優位だ。統計学など数学的な知識をベースに「Python(パイソン)」と呼ぶAI向けプログラム言語を学ばなくてはいけないからだ。デジタルに疎い文系出身者が転換するのは容易ではない。しかし、企業が最も求めているのはプロジェクトの推進者。DXの成否を握るのはこの人材だ。文系も理系も関係ない。大前提として、経営全般に明るく、会社の各事業や将来の方向性を十分に理解している人物が適任と言えそうだ。

単純に「DX人材=デジタル人材」というわけではない。営業部門に顧客管理ツール「セールスフォース」を導入し、データを見える化したとしても、それは本当の意味でのDXとは呼ばない。データ解析した結果、従来の販売モデルを改め、サブスクリプション(定額課金)型などのモデルに変えた方が利益の最大化につながると判断し、実行するのが真のDX人材だという。デジタルツールよりも現状の事業の課題を把握し、改革する力こそが必要なのだ。

ゼロワン型の協力者が不可欠

そのためには「まず社内から仲間、協力者を募ることです。DXに強い関心を持ち、新規事業の立ち上げに意欲を燃やす『ゼロワン型』の協力者が必要。大手企業がDX化を推し進める過程で、カニバリズム(食い合い)が起きる懸念があるからです。そのためにも突破力のある仲間が大事になります」と石川さんは語る。DX推進役はゼロワン型などの人材を集めたチームをつくり上げた方がいいという。

大手企業の場合は既存事業がある。例えば、インターネット通販事業を始めようと考えても、既存の営業部門が卸や小売業者などのパートナーと濃厚な関係を構築している場合、既存部門からの抵抗は不可避だ。最終的には経営陣が企業としての最適解を意思決定することになるが、DX推進役は既存事業の担当者や経営陣を説得するだけの知識や能力が求められる。

やはりDX人材になるにはかなりハードルが高そうだ。しかし、石川さんは「3段階に分けて知識を取得すれば、それほど壁は厚くない」と強調する。成功への3段階とは以下の通りだ。

デジタル、業界、社内と3段階の知識を取得

(1) DX関連のデジタルの基礎知識を身につける。といってもプログラミングまで覚える必要はなく、迅速に柔軟にソフト開発を進める「アジャイル」など今のエンジニアの思考や文化を理解しておけばいい。そしてDX導入の成功事例などを分かりやすくまとめたビジネス書を2~3冊読めば十分。おすすめの本は「文系AI人材になる」(野口竜司著)と「両利きの経営」(チャールズ・オライリー、マイケル・タッシュマン)。いずれも専門用語は少なく、誰にでも読みやすい良書。この2冊なら10時間もあれば、読み込める。

(2) 次に必要なのが業界内のDX動向を知ることだ。競合他社のDX導入の事例を調べ、比較研究することが不可欠。この知識は社内を説得するのに有効になる。自動車業界の自動運転技術は知られているが、化学業界では膨大な材料データをAI解析する「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」を活用した革新的な新素材開発が進んでいる。業界ごとにDX化の状況や課題は異なる。

(3) 最後に社内でどのようにDX化を進めたらいいか、情報収集して知識を取得する。その後、調査・検討の結果、各部門の中でDX化を優先する部門を抽出する。大手メーカーの場合、研究開発、調達、製造、物流、マーケティング・営業、そしてコーポレートの経営企画や人事、総務など多岐の部門から構成される。一斉に全部門をDX化するのは至難の業。もっともDX化しやすく、明確な効果を出せる部門からスタートし、知見やノウハウを横展開していくのが効果的。例えば、製造部門の最終検査工程に人手がかかっているが、ここにAI画像システムを導入すれば、省力化できるとかそんなやり方だ。

石川さんは「私も大学は文系だったが、理転してゼロからAIを学んだ。やる気と素養のあるビジネスパーソンなら、DX人材になることは可能です。しかし、まず仲間を募り、焦らず、この3つの階段を順番に上っていくことが大事」という。

石川さんはゼロからAIを学んだ
石川さんはゼロからAIを学んだ

欧米の先進企業に比べて日本の企業は総じてDX対応に出遅れている。経済産業省はDX化の遅れにより、2025年には最大で年間12兆円の経済損失が発生する可能性があると予測している。エンジニア不足以上に深刻なのがDX推進役の存在だ。DXの崖を越えられるか、この人材の有無が企業の未来を左右することになりそうだ。

(代慶達也)

石川聡彦
1992年生まれ。小学生までは歌舞伎の子役として活躍した。サレジオ学院中学・高校を経て東京大学文科3類に入学。理転し、工学部在学中の2014年に創業。17年に社名を変更、AIプログラミング学習サービス「Aidemy」の提供を開始。著書に「投資対効果を最大化するAI導入7つのルール」などがある。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年07月11日 掲載]

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