テレワーク実施率3割届かず、五輪・宣言下でも頭打ち

中小、環境整備なお課題

東京五輪に合わせた在宅勤務の奨励、4回目の緊急事態宣言にもかかわらず、7~8月のテレワーク実施率は正社員の27.5%にとどまった。昨年4月の初回の宣言下と同水準だった。大企業を中心にテレワークのための通信環境・制度が整いつつあるものの、中小企業や現場職では手つかずのままだ。新型コロナウイルスの感染が再拡大するなか、テレワーク導入の限界が浮き彫りになった。

パーソル総合研究所が7~8月、全国の2万人を対象に行った調査では、全国の正社員のテレワーク実施率は27.5%だった。昨年11月の前回調査(24.7%)よりは増えたが、同4月の27.9%と比べ微減にとどまった。非正規社員の実施率は17.6%だった。

足元では多くの企業がテレワーク拡大の動きをみせる。IHIは8月から出社率上限3割の対象を、東京都内から全国の事業所へと拡大させた。出社率2割を目標に掲げるNTTでは2週間程度の夏季休暇を取得するよう社員に奨励。日産自動車では宣言対象の地域で出社率3割以下、それ以外の地域で5割以下とし、対象拡大に合わせて対応を強化する。

ただ、大企業と中小企業では依然として対応に差がある。パーソルの調査では従業員1万人以上の大企業ではテレワーク実施率が45.5%に達しているのに対し、100人未満の中小企業は15.2%。昨年4月よりもその差は広がっている。半導体装置向け部品製造を手がける松浦製作所(東京・大田)では全員が出社する。松浦貴之代表は「出社しないと作業ができない」と話す。

業種別の差も埋まらない。テレワークの導入が比較的容易な情報通信業は60%、専門・技術サービス業では40.9%に達する一方、現場作業が欠かせない医療・介護・福祉で5.4%、運輸・郵便業で11.1%にとどまった。

感染再拡大の動きを受け、政府は企業にテレワーク拡大を要請している。パーソルの今回の調査では、「テレワーク制度が整備されていない」との回答は31.4%と昨年4月比で7.5ポイント減。「ICT環境が整備されていない」は同8ポイント減の11.9%と、テレワーク導入のための環境整備は徐々に進んではいる。

それにもかかわらずテレワークの実施率が大きく伸びないのはなぜか。

パーソルの小林祐児上席主任研究員は「休校措置が取られ、商業施設や公的機関も一斉休業するなどビジネスが全面的に止まらざるを得なかった初回の宣言と、今回では状況が違う」と指摘する。今回は経済活動の制限が一部の業種や地域にとどまり、多くの業種では通常営業を続けながらテレワークを取り入れたため、全体の実施率は大きく伸びなかった。

欧米など主要国では職務内容をあらかじめ細かく定めたジョブ型雇用が一般的。テレワークに切り替わっても、仕事の進め方に大きな差は生まれない。一方、日本で標準的なメンバーシップ型雇用では職務内容を細かく規定していない。上司が継続的に指示を与える「マイクロマネジメント」で、出社を前提にした働き方になっている。

小林氏は「水平的なコミュニケーションを通じて柔軟に仕事を調整できることは日本企業の強みでもあったが、テレワークでは難しい」と分析。業界団体や国が環境整備に乗り出さない限り、テレワークは今以上に広がらないとみる。

[日経電子版 2021年08月17日 掲載]

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