変わる仕事と役割 ベテランが考えたい4つの貢献領域

KPMGコンサルティング 油布顕史プリンシパル

自分のキャリアを自律的に準備していくことが必要だ(写真はイメージ=PIXTA)
自分のキャリアを自律的に準備していくことが必要だ(写真はイメージ=PIXTA)

これからは組織での役割・職務・ポジションと報酬がセットになり、それに見合う能力・経験を有する人材を配置するような「適所適材」の仕組みにシフトしていきます。このため、会社に寄りかかる姿勢を変え、自分のキャリアを自律的に準備していくことが必要です。40歳以上のベテラン人材が組織に貢献できる領域について、KPMGコンサルティングで組織・人事分野を手がける油布顕史プリンシパルに聞きました。

ベテラン社員が組織に貢献できる領域は?

下の図はベテラン人材が組織に貢献できる領域を複数のグループに分類したものです。まず仕事の領域を「未来志向の業務」か「日常業務」に分類します。次に役割領域として「リード(主導的)要素の大きい役割」か「コーディネート・サポート要素の大きい役割」に分類します。それらのかけ合わせで、貢献領域を4つのグループに分類します。

●マネジメント(未来志向の業務×リード的要素の大きい役割)
会社や部門といった組織の目標や目指す姿に向け、組織に必要な要素を分析・管理し、実行計画に基づき配下メンバーの能力を最大化させ、集団活動を維持・促進する業務(組織に属するメンバーの管理・規則や秩序の順守、戦略立案など)。
●アドバイザー(未来志向の業務×コーディネート的要素の大きい役割)
これまで培ってきたマーケットの社外人脈を通じて会社間の新しい関係を創出したり、シニアマーケットの拡大に応じてマーケティング領域で新たな価値を演出したりする業務。
●既存業務リーダー(日常寄りの業務×リード的要素の大きい役割)
知識や技術、ノウハウの伝承を通じて、既存業務の安定的な運営に責任を負う業務。
●実務担当/サポート(日常寄りの業務×フォロー・サポート的要素の大きい役割)
限定的な業務範囲で、能力を問わない定型業務。

ポイントは4つのタイプによって会社への貢献度が異なるため、報酬も変わるということです。今後の自分の家族や生活環境を考慮しつつ、どの領域で貢献したいか、できそうかを考えておくことが重要になります。

4つのタイプによって会社への貢献度が異なる
4つのタイプによって会社への貢献度が異なる

かつての名プレーヤーはリーダーになれない

これに関連し、リーダーシップの変化についても触れておきたいと思います。組織で働くリーダーは日ごろ、リーダーシップとマネジメントを組み合わせながら仕事をしています。まず、リーダーシップとマネジメントの違いを理解することで、リーダーとしての行動をより明確にしておきましょう。

マネジメントは目標を成し遂げるための手段や方法を考え、管理する能力です。注力する視点は「今」で、ミッションは「計画に基づく職場の維持」といえます。一方、リーダーシップは目標達成に向かってメンバーや組織を導く行動力です。視点は「将来」で、ミッションは「創造的破壊(スクラップ・アンド・ビルド)」です。

これまでのリーダーは時代の変化のスピードが現在より遅かったこともあり、豊富な現場経験をベースに配下のメンバーを束ね、率先垂範できる人材がリーダーとして選ばれてきました。仕事の進め方や人づき合いといった経験を重ね、会社特有の職務を円滑に遂行する能力を早く身に付けた人が出世し、報酬の高いポジションに就いていました。

人材教育も個人の特性に合わせた個別指導は必要なく、OJT(職場内訓練)による日常指導を通じて習得の早い人材を引き上げればよかったわけです。部門責任者(上司)の考えをいち早く理解し、対応してくれる使いやすい部下が重宝された結果、部門責任者による優秀人材の抱え込みが起こり、組織のサイロ化・硬直化が進み、自分の部門しか知らない優秀人材が育ちます。つまり、これまでの日本企業の「タレントマネジメント(優秀人材の育成)」は部門責任者任せであり、計画的に視野の広いタレント人材を育てる環境としては不十分だったといえます。逆に、部門責任者が扱いづらい人材が部門をまたぐ異動を繰り返した結果、会社全体の課題を誰よりも知っているということはよくある話です。

現在はビジネスの複雑性に加え、変化のスピードが速いため、これまでの名プレーヤー型リーダーの視野や能力では限界があります。これからのリーダーは配下のメンバーを「同一集団」として捉えるのではなく、異なる価値観・能力を持った「個人」と捉えた上で、個々のメンバーが気持ちよく働ける環境を与えながら、メンバーのやりがい・モチベーションを向上させることが求められます。そのためには、部下の悩みを聞き、示唆に富む意見を提供し、メンバーのセルフマネジメントを促進させられるカウンセリングスキルが重要になります。また、正社員のみならず契約社員や派遣社員に加え、テクノロジーの活用といった人的労働力以外の労働力もミックスし、ベストな業務体制を検討できるアサインメント能力(仕事への割り当てや配置を考える力)も不可欠です。

ジョブ型雇用がキャリア形成に及ぼす影響

今後の日本の雇用は職種や職務(仕事)の価値に値段をつけ、それに見合った経験・スキルを有する人材を配置し、処遇する仕組み(ジョブ型雇用)へとシフトすることを説明しました。ここでは、ジョブ型雇用がキャリア形成に及ぼす影響を考えてみましょう。ジョブ型雇用は職務と給与をひも付けるので、自分の仕事のレベルを上げ、しかるべきグレード(職位や職階)に就かなければ給与は上がりません。これまでの職能型雇用では社内に限定したゼネラリストとしての経験的な蓄積があれば、異動によって職務を変更しても給与は変わりませんが、ジョブ型雇用ではそうではなくなります。これからは、キャリア(仕事に取り組む中で身に付ける技術・知識・経験と自分自身の生き方)に対し、より主体的かつ自律的な姿勢(自律的なキャリア形成)が強く求められます。

しかし、日本では欧米と異なり、キャリア形成が当人の自己責任的な自己啓発に強く依存しています。なぜなら、企業横断的な職業能力資格や教育制度も十分整備されていないからです。これからは企業側にも積極的に従業員の自律的なキャリア形成をサポートすることが求められます。例えば、ある一定の業務経験を積んだ社員は、半年から1年程度のスキルアップ休暇を取得させることで、能力開発を行えるような仕組みを設けることがあってもよいと思います。そのためには長期休暇を取得しやすい企業カルチャーの変革が欠かせません。会社側が従業員の能力開発への選択肢を拡大していくことが重要になります。

年齢にこだわらない持続的なスキル研さんの必要性

ここまで述べてきたように、仕事の価値で報酬が決まる時代は、会社に振り回されないキャリアを積める可能性が高まります。50歳代はもちろん60歳代になっても第一線で仕事ができるため、常に新しい技術や知識を身に付け、仕事能力を維持できるような意識を持つことが必要となります。前述したベテラン人材の4つの貢献領域の中で、自分の貢献領域を考えながら自律的なキャリア形成を継続することが、10年後の姿を決めます。例えば、会社以外でもっとキャリア領域を広げようと考えている人は負担の少ない実務サポートの方が良いかもしれませんし、後進の指導を通じて会社に貢献したい人は実務リーダーが適しているかもしれません。いずれにしても、これまで培ってきた能力・スキルだけで逃げ切れる時代ではないことを認識しておきましょう。

油布顕史
組織・人材マネジメント領域で20年以上のコンサルティング経験を有する。大手金融機関・製造業・サービス業界の人事改革支援に従事。事業会社、会計系コンサルティングファームを経て現職。組織人事にまつわる変革支援-組織設計、人事戦略、人事制度(評価、報酬、タレントマネジメント)の導入・定着支援、働き方改革、組織風土改革、チェンジマネジメントの領域において数多くのプロジェクトを推進。企業向けの講演多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年05月19日 掲載]

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