「横並び賃上げ 戻らず」エン・ジャパン鈴木社長

月曜経済観測 コロナ後の人材市場

新型コロナウイルス危機で在宅勤務や非接触サービスが広がり、働き方も様変わりした。危機後の人材市場はどうなるのか。転職サイト大手、エン・ジャパンの鈴木孝二社長に聞いた。

――コロナ下で人材需要はどう変化しましたか。

エン・ジャパンの鈴木孝二社長
エン・ジャパンの鈴木孝二社長

「最初に緊急事態宣言が出た20年4~5月は求人数が半分まで落ち込み、そこから、ゆるやかに回復している。今後はワクチン接種のスピード次第。接種率が高まれば日常生活が戻るとの見方から企業は秋入社に向けて募集に動いている。全体の求人需要は上向き、21年10月以降はコロナ前の19年の水準に戻るだろう」

「業種別に見ると企業のデジタル化でIT(情報技術)技術者の需要は伸びている。サービス業は巣ごもり需要で配送・倉庫など物流関連の人材需要が旺盛だ。製造業は一度落ち込んだ後、回復した。介護や看護はコロナ前から底堅い」

――雇用の流動化は進みますか。

「コロナ禍で打撃を受けたサービス・流通系の職種からの20年度の転職者は19年度比2割増えた。転職サイトへの登録も増えている。接客スキルや人材管理など前職の経験を生かせるコールセンター、インサイドセールスなど(クラウド経由でソフトを提供する)SaaS関連への転職が多い」

「コロナ収束後も異業種への転職はある程度続くだろう。企業が人工知能(AI)などの技術で人手不足を補う動きは定着し、必要な人手総数がコロナ前より減る。失業なき労働移動を支援する人材業の役割は重くなる」

――人材市場の変化でコロナ後も定着するのは。

「2つある。1つはフリーランスや副業など働き方の多様化だ。以前は企業の情報管理の都合で出社せざるを得なかったが、コロナでリモート勤務の環境が整ったことでフリーランスとして働きやすくなった。特にIT関連は人材の2割がフリーランスとの調査もある。同様の動きは他業種にも広がっていくだろう」

「もう1つはリモート勤務の定着で管理職の役割が変わる。毎日、顔を合わせる職場とリモートでは情報伝達方法も異なり、管理職に求められるスキルが違う。対面でないと無理という管理職は淘汰されるだろう」

――コロナ前の職場には戻りませんか。

「企業はリモート勤務に向いた業務を仕分け、出社と組み合わせる形に落ち着く。集中力が必要な仕事はリモートに向く一方、新入社員の育成やチームでの議論は対面の方が生産性が高い。一時は約100%リモートにした当社も仕分けを経て現在の出社率は1~2割。今後も大きく変えるつもりはない。自社で蓄えた知見は顧客企業の事業支援につなげる」

――賃金は上がりますか。

「業種や職種により差が広がる。IT技術者など専門人材の賃金はすでに上がっている。今はどんなスキルを持てば、どのくらいの評価かネット上で求職者から見える。中途だけでなく新卒も高スキル人材は高報酬で採用する時代。全体のベースアップで賃金が上がる世界には戻らない」

「従来型の職種も長期的な人手不足は続くため処遇が大幅に下がることはない。ただ、コロナ下で事務など定型業務の一部をAIや技術で置き換える流れは加速しており、求人自体が減る。必要な人材に絞って採用し賃金を上げていくだろう」

(聞き手は編集委員=吉田ありさ)

すずき・たかつぐ 分社独立後の主力事業をけん引し37歳で社長に。50歳

[日経電子版 2021年08月02日 掲載]

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