次世代リーダーの転職学

猛烈営業マンはもう限界 科学的に捉え、創造型仕事に

エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子

電話やネットを駆使するインサイドセールスは営業の新たな軸に(写真はイメージ) =PIXTA
電話やネットを駆使するインサイドセールスは営業の新たな軸に(写真はイメージ) =PIXTA

世の中の景況にかかわらず、企業の売り上げ拡大を担う「営業」人材は常にニーズがあります。特に未曽有の状況の中では、さらに強く求められます。そして営業職の求人において、近年、傾向に変化が見られます。端的に言えば、「よりクリエーティビティーが求められている」「営業スタイルの幅が広がっている」という状況です。

つまり、旧来のスタイルで営業活動を行ってきた人にとっては、過去の成功体験が通用しなくなるかもしれない。その一方で、異職種から営業職へのキャリアチェンジのチャンスが広がっている、と言えます。詳しくお伝えしていきましょう。

「ビジネスプロデュース」の要素が強くなってきた

一昔前の営業活動と言えば、「体力(フットワーク)勝負」「数打てば当たる」式が主流でした。「電話がけ」「飛び込み」による新規開拓アプローチ、既存顧客に対しては「足しげく通ってコミュニケーション量を増やす」といった営業スタイルが多く見られました。

しかし近年、セキュリティーや情報管理が厳しくなり、顧客との対話のテーブルに就くまでに時間と労力を要するようになってきました。ましてやコロナ禍の中、会うことさえもままならない状況に。従来のやり方では非効率とみなされるようになりました。

そうした中、マーケティング活動を自動化するMA(マーケティングオートメーション)ツールが多様化。比較的安価な中小企業向けのサービスも増え、多くの企業が手軽に導入できるようになっています。

マーケティングが科学され、「ナーチャリング」――潜在顧客にアプローチし、情報提供などによって「見込み客」へ育て、購入意欲を喚起していくプロセスが効率化されました。そのおかげで、営業職は最も重要な「企画・提案」に集中しやすくなったのです。

これにより、営業職採用で求められるスキルがどう変わっているか。以前なら、「フットワークの軽さ」「顧客と仲良くなってリレーションを深める」といった能力も評価されましたが、最近では「ビジネスプロデュース力」が注目されています。

顧客企業が抱える課題を引き出し、自社のソリューションを活用することで、どんな価値を生み出せるかを考える。その価値を相手がイメージできるようにストーリーを組み立て、プレゼンテーションを展開する。そうした力が求められるようになっているのです。

営業は「企画・開発」寄りに進化

以前、私は大学の商学部学生を対象に、営業の仕事について講義を行っていたことがあります。その会場で最初に「就職先で営業をやりたい人、手を挙げて」と投げかけると、2割ほどしか手が挙がりませんでした(現実には文系の6割程度の人が就職して最初に営業に配属されるのですが……)。

営業に対し、「キツい」「大変」というイメージを持つ人は少なくありません。しかし、営業職にはもともと、コミュニケーション、マーケティング、数字の管理など、ビジネスの基礎が凝縮されています。そして、時代の変化とともに営業スタイルも変化しつつある今、営業はより「企画・開発」に近い仕事に進化しています。

「営業ほどクリエーティブな仕事はない」――。これは、企業の営業支援を手がけるセレブリックス(東京・江東)のセールスカンパニー執行役員、今井晶也さんの言葉です。

同社では、営業パーソンに「他人に営業という仕事をオススメするか?」というアンケートを実施。すると約52%の人が「オススメしない」と答えたのに対し、「トップセールス」と呼ばれるような成績優秀な営業パーソンは、93%が「オススメする」と答えたそうです。

「売り込む」という感覚で営業を捉えると苦しいけれど、「自分ならではの発想を展開できる創造型の仕事」と捉えれば楽しい。それは、長年営業の第一線に立ってきた私自身も実感するところです。

最近は、営業パーソンが集うイベントも増えてきました。例えば「S1グランプリ(Sales No.1 Grand Prix)」。選ばれたトップ営業パーソンがプレゼンテーションとロールプレーを行い、審査員と参加者全員による採点でセールスの「トップ・オブ・トップ」を決める大会です。

主催者たちが掲げるミッションは「営業というチカラで自己実現」。営業のイメージを変え、「営業になりたい」世界の創造を目指しています。

営業職が「数打ちゃ当たる」を脱却し、「クリエーティビティー」で勝負する時代に、そのステータスは高まっていくのではないでしょうか。

「営業を科学する」視点で、成功体験の分析を

では、これまで「旧型」の営業を続けてきた人はどうすればいいか。転職を図る場合、もちろん応募先企業によりますが、過去の成功体験があまり評価されない可能性があります。

しかし、顧客と接する中で、「潜在ニーズを引き出す」「気持ちの変化を察知する」「信頼関係を築く」といった部分は、営業に必要な要素として普遍的なものです。

これらに関わる「自分ならではの成功体験」を分析し、ノウハウをきちんと言語化し、転職先でも再現できるようにしておくことをお勧めします。

トップの営業成績を挙げて表彰された方のスピーチを聞いていると、「チームメンバーのサポートのおかげです」「ラッキーでした」「いいお客様に巡り合えました」といった言葉をよく耳にします。本音では自身の営業スキルに自信を持っているのかもしれませんが、「長年の勘」「培ったセンス」といった、漠然とした自信であることも多いように思います。

そこで、営業がうまくいった要素を振り返って、理由や方法論を分析してみてください。例えば、「興味がなさそうだったお客様が、この切り口で話した瞬間、目の色が変わり、前のめりに質問してきた」といった具合です。

どんなアプローチが顧客の心に響き、購買意欲をかき立てるのか。自身の経験から分析し、それを「誰もが再現できるメソッド」化しておきましょう。

このように、「営業を科学する」ことが、これからの時代に求められていると思います。

接客業から「インサイドセールス」への転職チャンスが増加

昨今、マーケティング・営業のあり方に変化を与えたものの一つとして、セールスフォース・ドットコムで提唱・活用されてきた「The Model(ザ・モデル)」が挙げられます。

これは、マーケティング・営業のプロセスを切り分け、各部門が連携して顧客満足の向上を目指すもの。サブスクリプションやSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)などのビジネスモデルが普及していく中で認知されるようになりました。

顧客が商品・サービスをより効果的に活用して目的を達成できるように支援する「カスタマーサクセス」という職種も、この概念から生まれ、求人が増えています。

営業プロセスが細分化されたことに伴い、「カスタマーサクセス」と同様に採用が活発化しているのが、「インサイドセールス」です。見込み客に対して電話や電子メール、ダイレクトメール(DM)などでコミュニケーションを取り、関係を構築。顧客の関心が顕在化した段階でフィールドセールスにバトンを渡すポジションです。

インサイドセールスがこの役割を担うことで、営業(フィールドセールス)部隊は受注確度が高い顧客との商談に注力することができ、営業効率が高まるというわけです。

多くの企業がインサイドセールスの採用を増やしていますが、法人営業経験者からの応募はなかなか集まらない実情があります。そこで、販売やサービスなどの接客業経験者にも門戸が開かれています。

コロナ禍により、外食・宿泊・観光・アパレル販売などの業界で働く皆さんは苦境に立たされました。仕事を失った人、今後のキャリアに不安を抱いた人も多いことでしょう。

以前は、販売・サービス業から「法人営業」への転職はハードルが高かったのですが、最近は「インサイドセールス」のポジションで迎えられる事例が増えています。お客様に1対1で寄り添い、ニーズに応えてきた経験を生かすことができます。

インサイドセールスを経て、フィールドセールスやカスタマーサクセスへキャリアを展開できる可能性もあるので、このキャリアチェンジのチャンスにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、衰退・成熟産業の営業・販売・サービス従事者が、SaaSなどの成長分野に移り、営業として活躍できるように支援するサービスも生まれています。例えば、WorX(ワークス、東京・渋谷)ではセールススキルのトレーニング「オンラインセールスブートキャンプ」を提供。10月から正式にサービスを開始する予定です。インサイドセールスの基礎から実践までを約3~6カ月で身に付けてもらい、求人企業とのマッチング、インターンを経ての就職までサポートします。

インサイドセールスは「顧客訪問」がないので、時間や場所の制約なくできる仕事でもあります。育児中の女性や在宅介護をしている人にもマッチしやすいでしょう。コミュニケーション力を磨き込んできたシニア層の皆さんが「セカンドキャリア」として選択するにも適しているように思います。

このように、営業の役割・スタイルは多様化しています。従来の「営業」のイメージにとらわれず、自分の強みや志向を生かせる営業ポジションを探してみてはいかがでしょうか。

森本千賀子

morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「マンガでわかる 成功する転職」(池田書店)、「トップコンサルタントが教える 無敵の転職」(新星出版社)ほか、著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年06月18日 掲載]

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