
厚生労働省が2019年に調査した「転職者が前職を辞めた理由別割合」によると、「仕事内容に興味が持てない」「能力・個性・資格が生かせない」とした回答の合計が男女ともに約1割を占めた。「介護・看護」も理由に挙がる。明治安田生命が導入した新制度では、親の介護に伴う転居でも職務を続けられるようにした。遠隔勤務を有効に取り入れれば、社員の潜在的な不安を解消する効果が期待できる。
一方で課題もある。厚労省の同じ調査では「職場の人間関係が良くない」と回答した割合は女性で14.8%となり、「その他の理由(出向等を含む)」を除いて首位。遠隔勤務は同僚同士がコミュニケーション不足に陥るリスクも併せ持つ。帝京大学の宿輪純一教授は「人間関係が円滑でないと業務上の大きなトラブルの原因になる。遠隔を前提にし、社員を動機づけして連携ミスを防ぐ高いマネジメント能力が重要になる」と指摘する。
生命保険会社の地方拠点で勤務するのは各地で採用した女性が多い。それぞれのライフイベントにも対応しながら、社員をいかに定着させるかが業界全体の課題の一つになっている。本社部門のキャリア形成が可能になれば別の仕事への興味が生まれ、新たなやりがいを見いだすことにもつながる。
会社都合による人員配置を進める場合でも、離職を防ぐ仕組みづくりが欠かせなくなりつつある。オリックス生命保険は4月、社員に希望する勤務地を聞き取り、それ以外の場所に配置する場合は年間で最大240万円の手当を支給する制度を導入した。コールセンターのオペレーターや新入社員を除く約600人のうち、転勤のある「全国型」を選んだ社員を対象にしている。
(四方雅之)
[日経電子版 2021年07月26日 掲載]