
人材サービスのビズリーチ、フリマアプリのメルカリ、そして現在はニュースアプリのスマートニュース。同社の森山大朗テクニカルプロダクトマネジャーは急成長企業を渡り歩いてきた経験を基に、ブログやSNS(交流サイト)、ボイスメディアなどで転職のノウハウを発信している。「会社は従属する対象ではなく、自分の市場価値を上げるために『使う』ものだ」と説く。
7回の転職を繰り返した
――転職エージェントや企業の人事担当者とは異なる視点の転職ノウハウがビジネスパーソンに好評です。発信を始めた背景は。
大学卒業後、リクルートに入社し、その後7回の転職を繰り返して現在に至ります。転職を「変化に自分を対応させていく行為」と定義するなら、僕はそれが得意な方だと自任しています。
一方、世の中でいう「転職論」は通り一遍に過ぎると感じます。例えば、「転職を何度も繰り返すと不利になる」とか「35歳を超えると難しくなる」とかいった通説。転職エージェントが企業側を調査すると、一定程度そういう傾向は確認できるのでしょう。ですが、本当にそうなのか。
僕が日々仕事を共にしている身近なビジネスパーソンの多くは、それには当てはまらないというのが実感です。だからこそ「こういうキャリアの築き方もある」と示していきたい。

――森山さんは「ユニコーン人材になろう」と勧めています。どういう意味ですか。
時価総額が10億ドル(約1100億円)を超える未上場企業を一般に「ユニコーン企業」と呼ぶので、ユニコーン企業に勤める会社員のことかと思われがちですが、違います。ユニコーン人材とは「事業の急成長に圧倒的に貢献しながら、会社をうまく『使う』ことで市場価値と知名度を高め、結果として自由度の高い働き方を実現している人」のことです。
例えば、僕は2016年、「検索技術に強い元エンジニアのプロダクトマネジャー」としてメルカリに転職しました。当時の同社は急成長の真っただ中で、IPO(新規株式公開)やバイアウト(事業売却)経験のある起業家、システムの開発・運用にまつわる全てに精通したエンジニアなど、ユニークな人材がたくさん集まっていた。
彼らは会社員でありながら、1つの企業に従属する働き方をしていませんでした。事業の成長可能性に着目して職場を選ぶので、成果を出せば次々に他の企業へと渡り歩いていく人も多い。副業という形で自分のスキルを他社で生かしたり、ストックオプション(新株予約権)を持ったりして、働き方のみならず経済的な自由度も手にしている。
転職に際して「企業の知名度」ばかり気にする人がいますが、重要なのは「外から見た自分の市場価値」であることに気付くべきです。将来性のある事業領域や企業を見極め、その急成長期に参画して貢献できれば、自分自身の市場価値にもレバレッジ(テコ)がかかります。
――非常にハイスペックな一部の人材のみが実践し得る戦略のようにも映ります。
全くそんなことはありません。世間での評価や知名度がすでに定着した企業や、伝統ある大手企業の方が「キラキラした経歴」を求められがちです。今まさに成長している最中で、日々どんどん新しい仕事が増える段階にある企業の方が、実は間口が広いと思っています。

僕自身、国内の大学を卒業し、キャリアの途中まではグローバル企業に勤めた経験もありませんでした。むしろ、2社目のベンチャー企業を退職してから「自分は何をしたいのか」が分からなくなってしまい、28歳で飲食店アルバイト、年収180万円の生活を送った時期もあります。エリートとは言い難い。
僕以外にもたくさんのケースがあります。例えば、メルカリでは当時、事業成長に採用が追い付かず、社員紹介からの採用を促す仕組みをつくり上げたのですが、当時それを大胆に進化させていったのはごく普通のメンバーでした。システムや業務効率化のプロというわけでもなかった。
自らの手で「仕事をつくる」
決められた範囲の職務をただこなすだけではなく、必要なのに誰もフォローできていない仕事を探す。つまり、「転がっているボールを拾いに行く」ことが評価される環境だからこそ、自らの手で「仕事をつくる」経験を積みやすいわけです。その貢献が成果に結び付いていく手応えも得られる。
事業や企業の将来性が注目されてニュースになれば、その立役者としてメディアから取材される機会に恵まれることもあります。こうしたことは大組織ではなかなか起こりません。上げた成果が組織に吸収されるのではなく、個人に返ってきやすいところも成長期の企業に身を置くメリットだと思います。
(ライター 加藤藍子)
森山大朗(もりやま・たいろう)
早稲田大学卒業後、2002年にリクルートへ入社し人事・営業を経験した後、エンジニアに転身。新サービスの立ち上げやビズリーチでの求人検索エンジン開発を経て、16年にメルカリに参画。メルカリの検索アルゴリズム改善や人工知能(AI)を活用した新機能を開発し、エンジニア組織を統括。20年からスマートニュースで、AIを活用した広告プロダクトのオーナーとして開発マネジメントを担っている。
[NIKKEI STYLE キャリア 2021年04月28日 掲載]