
新型コロナウイルス感染症対策で在宅勤務が増えた影響なのか、「そろそろ35歳で、将来に備えて今からキャリアを考えておきたいが、何から手を付けていいか分からない」という相談をもらうことが増えました。今回はその質問に対応する形で、35歳から準備できるキャリア強化の方法をできるだけ具体的に考えてみたいと思います。
5歳上、10歳上の世代の働き方の現状を知る
「将来の自分のキャリアがどうなるのか不安で仕方がない」という方は多くの場合、将来が予測できないという思い込みが強く、予測するための努力を諦めていることが多いのが現実です。そういう方に勧めているのが、自分の身近にいる5歳上、10歳上の世代の先輩たちの働き方を観察することです。
具体的には、自分の会社の上司や先輩など、できるだけ自分と環境が近い先輩の状況を観察することからスタートします。
一人一人の顔を思い浮かべながら、自分らしさを生かして満足度が高く働いている(ように見える)のか、周囲からの評価も自己評価も自分の理想より低い状態にある(ように見える)のか、それぞれの共通点や傾向はどんなものがあるのか。こうしたことを観察して自分なりの仮説を立ててみてください。
もし可能なら、個別にインタビューをお願いしてみると、よりリアルに浮かび上がってくるはずです。過剰に遠慮したり、気を遣いすぎたりする必要はありません。自分のキャリアを考える上で、先輩たちが通った道のりやアドバイスが欲しいと率直に打ち明けてみると、親身になってくれる人は多いものです。
特に、もし10年前に戻ったら、どんな準備をするのか。一世代下の自分にキャリア設計についてアドバイスするならば、どんなことなのかを具体的にインタビューしてみてください。知りえなかった意外な事実を手に入れることができるはずです。
松竹梅シナリオを描き、未来の自分にインタビュー
キャリアの長期形成には予測が不可欠です。現在35歳だと仮定すると、最近話題の早期希望退職制度で標的になっている45歳まであと10年あります。10年後は2031年です。10年後の自分について、周囲の先輩たちの情報や、経済や業界の未来予測などの情報を参考に、3つのシナリオを描いてみましょう。できればメモ帳やパソコンなどに文字として書き起こしてみると、よりイメージが鮮明になります。
松シナリオ 自分にとって理想的なキャリアとは何か。いくつかある場合は最もリアリティーがあるものを選びます。
梅シナリオ 自分にとって最も悲観的なキャリアの未来を予測します。これも単なる空想ではなく、現実感を重視して描いてみてください。
竹シナリオ 松と梅の中間でもいいですし、今の延長線上でも構いません。10年後に最もありえそうなシナリオを想定してみてください。
3つの未来シナリオができあがったら、まずは松シナリオをもとに、10年後の自分になりきったつもりで、自分へのヒーローインタビューを下記の手順でやってみてください。
(1)過去10年、素晴らしいキャリアを歩んできたが、そのハイライトと言えるものは何か。
(2)なぜそれがハイライトだと考えるのか。
(3)ハイライトが実現できたのは、いつ頃どんな努力をした結果なのか。
(4)10年前の自分にアドバイスするとしたら、どんな言葉を掛けますか。
次に、上記と同様に梅シナリオを見ながら、10年後の自分に敗者インタビューをしてみてください。
(1)過去10年のキャリアの中で、一番後悔していることは何か。
(2)なぜそこが後悔の最大ポイントになっているのか。
(3)後悔していることはいつ頃どんな努力をしていたら防げたと思うか。
(4)10年前の自分にアドバイスするとしたら、どんな言葉を掛けますか。
これらの質問で出てきた答えこそが、今後のキャリアを形成していくための重要なヒントです。ヒーローインタビューで出てきた答えは、成功のために自分が潜在的に自覚している行動や備えそのものです。逆に敗者インタビューで出てきた答えこそ、「これだけは避けなければならない」という自分の行動傾向です。多くの場合、一見予測が難しく思える未来を決定づける答えは、実はすでに自分の中にあるのです。とはいえ、何もかもが描いた通りに進むわけはありません。ただ、理想に向かって何らかのアクションをスタートし、試行錯誤を繰り返すことで、「思考の質」や「行動の質」は必ず高まっていきます。
自分ができる対策、自分ではどうしようもないこと
また、キャリア設計を考える上でもう一つ気を付けておきたいことがあります。それは自分が考えて打ち手を実行できることと、自分だけではどうしようもない不可抗力のものを混ぜて考えないということです。
経済動向や天変地異など、自分自身ではどうしようもないことも不安要因になるのですが、そんなことを悩んでもどうしようもありません。あくまで自分がコントロールできることだけに絞り、対策を講じていくようにしてもらいたいと思います。
最後に、どんなキャリアを築いていくべきかの参考情報として、早期退職やリストラが加速しても、会社が手放したくないと考える人の共通点を伝えておきたいと思います。ここにもヒントが潜んでいるかもしれません。
一つ目のタイプは、企業に収益をもたらす人です。今や業務はどんどんIT(情報技術)やロボットに切り替わっています。逆に、創造力や知恵を駆使し、新しい価値を生み出して企業に利益をもたらすことができるスキルを持つ人材を企業は外部から中途採用してでも集めています。
例えば、
- 企業に収益をもたらす人材を採用したり育成したりする仕組みを考案し、形にできる人事
- 人手に頼らず、商品やサービスを電子商取引(EC)で販売し、リピート率の高い売り方の開発ができる営業企画
- 活用されていない投資やコストを見つけ、代替手段に切り替えることで新たな投資の原資を生み出すことのできる財務
などのイメージです。成果を数字で具体的に語れることが共通点です。
もう一つのタイプが、世の中の変化を捉え、自ら学び、自らの責任範囲を広げていける人材です。ビジネスに大きな影響を及ぼす構造的な変化をいち早く見つけ、自社の事業へのプラスマイナスの影響を予測し、先手を打って学ぶことで、自身の能力を高めていける人は会社にとって頼りがいのある人材となります。特に、テクノロジーの進化が事業に及ぼす影響や可能性をつかみ、自分の仕事や会社への提案に生かせる人材は重宝されやすいといえます。
ぜひ、これらの観点を参考に、どんな付加価値をどのように高めていくことで、将来をより確かなものにしていくのかを考えてもらえれば幸いです。

黒田真行
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/
[NIKKEI STYLE キャリア 2021年06月11日 掲載]