スタートアップが男性社員の育児休業を取得しやすい仕組みづくりに動き出した。関連法の改正を受け、育休中に最大70万円を支給するといった支援制度が相次ぐ。普段から複数人で同じ業務に関わるなど、同僚が抜けた穴を埋めるための工夫も凝らす。働きやすい職場環境を整え、優秀な人材を呼び込む狙いだ。

「出産前後の時期はキャッシュフローが大切だ」。ネットスーパーの立ち上げを支援する10X(テンエックス、東京・中央)の矢本真丈代表は強調する。自身の育児経験も踏まえて6月、出産前後の配偶者を抱える社員に、最大70万円を一括支給する制度を設けた。現在は3人が育休中で、取得率は100%だ。
6月、男性の育休を促す改正育児・介護休業法が成立した。子供の出生後8週間以内に、男性が最大4週間の出生時育休(産休)を取れるようにする。企業には対象社員に取得を働きかけるよう義務付ける。2022年度以降の施行に備え、スタートアップが独自の取り組みを始めている。
給料の33%分を手当てする仕組みを導入したのが企業のデジタル化を支援するROUTE06(ルートシックス、東京・渋谷)だ。雇用保険制度で育休時に給料の67%分を半年間にわたって受け取れるため、計100%分を補償する計算になる。
テンエックスやルートシックスのような支援金支給は大企業でも珍しく、スタートアップが先行している。もともとの給与水準などを含めて「労働条件が不利になることは避け、優秀な人材が働きやすい環境を意識している」(ルートシックスの遠藤崇史代表)。

一方、規模が小さいスタートアップが頭を悩ますのは、育休を取得した社員の穴をどう埋めるかという点だ。厚生労働省が従業員数を基に4グループに分けて19年の男性の育休取得率を調べたところ、500人以上の企業は12%強。対して500人未満の3グループは10%を下回った。
テンエックスでは別の社員が代行できるように「普段から業務をローテーションしている」(矢本代表)といい、数週間単位で担当者を変えることが多い。育休は約半年前から取得のめどが立つため、準備次第で影響を抑えられるという。
投資家も投資先の育休状況に注目し始めた。ベンチャーキャピタル(VC)大手ANRI(東京・渋谷)の佐俣アンリ代表は「経営者には必ず取得するよう声をかけている」。育休中はリモート会議への参加なども控えるように推奨している。
内閣府の4~5月の調査では、同僚男性の育休取得に抵抗感があるとの回答が全体の3割に達した。育休取得を推進する経営層には仕組みだけでなく、企業文化を醸成する姿勢も求められる。
(仲井成志)
[日経電子版 2021年07月13日 掲載]