
転職を考える人がまず直面するハードルの一つが職務経歴書の書き方だ。転職活動の成否を左右する重要な存在だけに、これまでのキャリアを書き連ねるだけでは不十分で、自身の強みや専門性を効果的に伝える必要がある。転職サイトへの登録でも、詳細な情報を入力した場合と最低限の情報ではスカウトされる可能性が大きく変わる。この連載では「スカウトされる職務経歴書」の書き方をいくつかのパターンごとに解説する。初回は外資系企業に提出する場合について、JACリクルートメント執行役員の遠藤亮介さんに話を聞いた。
――外資系企業に応募する上で、理解しておきたい求人企業側のニーズは何ですか。
「まず、外資系企業の中途採用というのは『未来への投資』という位置づけが非常に強いことをふまえておきましょう。求人票に書かれた職務内容はあくまで最低限。それ以上のことができなければ外資で働き続けることは難しく、内定につなげるためには組織に良い変革をもたらすためのプラスアルファが必須です」
「キーワードは『new』と『different』。『新しい人材』『(既存社員とは)異なる人材』を採用し、その人たちの知見や経験をいかし、組織が良い方向に変わることができるか、という視点で候補者をみています。また、俊敏さ(アジリティー)も不可欠です。一般的に、外資系企業の日本法人ではグローバル本社とひんぱんに交渉し、かなり難易度の高い仕事を頼まれることもあります。できることは迅速に対応する、できないものはすぐ断るといった俊敏さがないと、どの仕事も中途半端になりかねません」
「新型コロナウイルス禍を受けて経営戦略の見直しを余儀なくされる企業が増えており、IT(情報技術)企業に勤務していた人がデジタルの知見を生かして消費者向け企業でオンライン化を進めるなど、これまでの会社にいなかった存在、つまり『different』の要素を求める傾向が強くなっています。不透明な時代に先を見越して行動を起こせる突破力やレジリエンス(柔軟さ)、周りを巻き込んでコラボレーションする能力もコロナ禍以降、一段と期待されるようになりました」
「外資ではハイパフォーマーが活躍する印象があるかもしれませんが、『一匹狼では成果が生み出せない』というのが常識で、部署や職種の垣根を超えたコラボレーションが重要視されています」
英文バージョン職務経歴書のアピールポイント
――外資系企業への転職でCV(curriculum vitae:英文の職務経歴書)の位置づけは。
「CVは求職者にとって最初のプレゼンテーションの場です。提出した段階から選考プロセスが始まっていると考えたほうがよいでしょう。及第点に達しないと、面接にたどりつくこともできません。外資系企業の求人には応募が多数集まる傾向にあり、採用担当者は膨大な量のCVと向き合うので、どうやって見てもらえるようにするか、目に留まるようにするかがポイントです」

「分量はできればA4で2枚以内、多い場合でも3枚に抑えましょう。経歴をアピールしようと、とにかく量を多く書こうとする人が目立ちますが、ダラダラとした文章を書いていると、『要点をまとめる力がない』と思われ、ビジネスパーソンとしては致命的です。外資系の採用担当者は印刷せずパソコン上で見ることが多いので、長い文章は何度もスクロールしないといけない点でも敬遠されてしまいます」
「パソコンの文字フォントも相手が見やすいものを選ぶ必要があります。ArialやCalibriがおすすめです。文章の体裁については『I(私)』で始めると文章が長くなりがちなので、代わりに『(動作を表す)動作動詞』の過去形、たとえば、Improved、Implemented、Executed、Took initiativeなどで始め、箇条書きで書くとよいでしょう」
――CVはこれまでのキャリアについて書くものですが、「未来」への言及も重要だそうですね。
「経歴書なので当然のことながら、内容の大半は過去のことになります。ただ、見る側(採用担当者)の視点で考えると、最も知りたいのは、既に終わった事柄よりも『未来をどうするのか』、つまりwillで始まる部分ということになります」
「求人票を読み込むと、その会社の課題や方向性、募集中のポジションに期待することなどが見えてくるはず。さらに情報収集を重ね、たとえば『1~2年後、御社において私のこういった経験をこのようにいかせると思います』というように、環境が変わっても過去の成功体験を再現できることを、説得力のある表現で説明すると良いでしょう」
「過去と未来がつながっているという一貫性が問われています。これまで在籍した企業の社内での表彰などは未来の成果につながりづらく、あまり評価対象にはなりません」
英語力は意思疎通を重視
――CV上の英語力はどの程度求められますか。
「やはり『見る側の視点に立って』ということに尽きます。シンプルに分かりやすく、を目指してください。スペルミスは避けるべきです。ただ、完璧な英語である必要はなく、相手に伝われば十分だと思います」
「専門用語を使って必要以上に難しくしたり、特定の業界だけで使われているような言葉を使ったりすると、『相手への配慮が足りない』とみなされ、マイナス評価につながります」
「入社後に必要な英語力は会社やポジションによって開きがあります。いずれの場合も流ちょうである必要はないものの、日常業務で使いこなせないと厳しいとは思います」
「ビジネス英語力の習得については『慣れるしかない』です。まずはリスニング力の向上に努めましょう。耳が慣れれば話す近道になります。ビジネス英語では聞き取れれば、何とか成立することが多いです。外資系やグローバル企業のビジネスシーンでは英語がネイティブでない人が圧倒的に多いため、完璧な英語を話す必要はなく、きちんと伝わることが大切です」
「英語はリスニングとリーディングが基礎で、この2つに徹底的に慣れると、スピーキングとライティングは後からついてきます。最後に、特に重要なことは、気負わないこと、変に劣等感を持たないこと。『意思疎通が取れていれば(多少英語力が劣っていても)気にする人はいない』と思いましょう。自身の意思(will)と強み(can)が、言語を問わず明確になっていれば問題ありません」
――TOEICなどの資格はアピール材料になりますか。
「日本の履歴書では資格をたくさん記載する傾向がありますが、英語のCVでは行動と成果が重要で、資格は補助程度の位置づけととらえておきましょう。求人票の『Requirements』や『Skills』の項目に合致する資格があれば記載するといった程度の認識でよいかと思います。合致しない資格を羅列すると、CVに一貫性が薄れ、何をしたい人物か見えなくなり、逆効果になる可能性すらあります」
「英語に関して言えば、TOEICは日本人以外の面接官には何のことか分からない、もしくは 通用しないと思ったほうが無難です。応募するポジションの求人票に『TOEIC~点以上』と書かれている場合だけ、その点数以上であれば書くといった対応でよいと思います」
「忘れてはならないのは、資格の有無が大事なのではなく、実務で使えるスキルかどうか、ということです。外資系に応募する場合、英語力は面接時に確認されることがほとんどなので、『資格欄は気にしないマインドセット』が必要ではないでしょうか」
(日経転職版・編集部 宮下奈緒子)

遠藤亮介
JACリクルートメント 執行役員 人事最高責任者(CHRO)
香川大学卒業後、外資系人材紹介会社に入社。その後、高級ブランド、消費財メーカー、電機メーカーなど大手外資系企業のHR責任者を歴任。2019年7月から現職。
[NIKKEI STYLE キャリア 2021年07月03日 掲載]