構造的な人手不足を背景に「売り手市場」として拡大していた転職市場は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けていったん落ち込んだ。総務省の労働力調査によると2020年の転職者は319万人と前の年に比べ約1割減った。ただ足元では上向く兆しがみられる。パーソルキャリア(東京・千代田)によると、転職サービスに登録する求人数を転職希望者数で割った中途採用の求人倍率は5月に1.85倍となった。2020年9月の1.61倍を底に回復途上にある。

業種別では高速通信規格「5G」のほか、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むIT・通信(5.63倍)やサービス(1.93倍)などが高水準だ。一部の企業は新型コロナワクチンの接種が広がった後の景気回復を見越した採用活動を始めたとみられ、5月の求人数は前月比2.1%増だった。
リクルートが企業の人事担当者に実施したアンケートによると、中途採用のために取り組んだ人事施策(複数回答)として「残業削減などの働き方改革」(65%)や「テレワーク導入など働き方の柔軟性向上の工夫」(64%)などが上位にあがった。コロナ禍を機に多様な働き方を求める動きが広がるなか、中途も含めて採用を増やすため「求職者の生活や人生に配慮する企業が増えている」(HR統括編集長の藤井薫氏)という。
[日経電子版 2021年07月04日 掲載]