エスパルス、ヤフー部長を副業採用 DXで集客めざす

デジタル技術を活用し集客増を目指す(静岡市のIAIスタジアム日本平)
デジタル技術を活用し集客増を目指す(静岡市のIAIスタジアム日本平)

サッカーJ1・清水エスパルスを運営するエスパルス(静岡市)がデジタル人材の採用を強化している。新型コロナウイルスの感染収束後を見据えて、SNS(交流サイト)を通じた集客策を強めるためだ。今春にはヤフーの現役部長を副業として採用した。現在もデジタル・トランスフォーメーション(DX)人材を追加募集している。

同社が採用したのはヤフージャパンで顧客から集めたデータ活用を推進してきたデータコラボレーション部の竹田正樹・元部長(47)。竹田氏は4月にエスパルスの「デジタルマーケティングアドバイザー」に就任。ヤフーには6月まで在籍し、エスパルスの仕事は副業で携わってきた。

エスパルスの運営に副業で参加するヤフージャパンの竹田正樹部長
エスパルスの運営に副業で参加するヤフージャパンの竹田正樹部長

ヤフーの仕事の合間にエスパルスのファンクラブ会員や来場者のデータを分析して集客増につなげるプロジェクトの施策を練った。夕方以降などヤフーの勤務時間外を活用した。静岡には数回来たが、打ち合わせなどはオンラインで参加した。竹田氏は「いつかはプロサッカーチームの運営やマーケティングに関わってみたいと思っていた」と語る。

1998年に設立したエスパルスには55人の従業員が勤務する。地元・静岡出身者が中心で定着率が高い。定期採用してこなかったが、SNSのようなデジタル技術を活用した集客が注目されるなどスポーツビジネスを取り巻く環境が変化する中、1月にデジタル分野の仕事を副業として委託する人材を募った。

常勤社員でなくあえて副業人材を募ったのは「東京の都心で働く人材が『静岡・清水の中小企業』に転職するのはハードルが高い」(杉山敏取締役)と考えたからだ。

約800人が応募し、竹田氏ら2人を採用した。「スポーツやJリーグに関わってみたいというニーズは大きい」(杉山取締役)と判断し、7月末までSNS活用やブランディングなどで経験が豊富な副業人材を追加募集している。同時にIT(情報技術)や外国語などに精通した常勤社員も募っている。10月に数人を採用する予定だ。

エスパルスの2021年1月期は新型コロナウイルス感染拡大の影響でホームゲームの入場者が激減し、興行収入は20年1月期比で6割減った。

20年に就任した山室晋也社長には苦難の1年だったが「新型コロナワクチン接種が進めば、事業を拡大する局面が訪れる。新たな戦力を投じて攻勢に転じる」(山室社長)構えだ。

副業人材に期待するチームはエスパルスだけではない。鹿島アントラーズは5月、新規事業立案などにかかわる副業人材を募集した。エスパルスと同様、首都圏との距離が障害となり、必要な人材獲得が難しかった。

新型コロナは地域のプロスポーツチームの経営に影を落とした。一方で、テレワークと副業が大手企業の社員に浸透し、有能な人材を活用するチャンスは増えている。

エスパルスが始めた副業人材の活用は、地域の中小企業であっても、知名度や働く魅力があれば優れた人材を獲得できる可能性を示している。

(静岡支局長 原田洋)

[日経電子版 2021年06月30日 掲載]

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