次世代リーダーの転職学

過酷な「希望退職45歳時代」 30代から3つの対処法

ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行

45歳を超えてからの転職では希望がかなわいことも珍しくない(写真はイメージ) =PIXTA
45歳を超えてからの転職では希望がかなわいことも珍しくない(写真はイメージ) =PIXTA

45歳以上で希望退職した中高年世代が次の仕事に就いている「転職成功率」は、現実を必ずしも正確に映していません。希望の転職先を見付けられず、やむを得ずアルバイトで食いつないでいる仕事も含めた数字になっているのです。実際には過酷な状況に苦しんでいる人も多いという事実は先にお伝えした通りです。今回は30代のビジネスパーソンが、どんな備えをしておくことによって、人生後半のセカンドキャリアを充実したものにできるかを掘り下げてみたいと思います。

昨年8月、転職相談で会った56歳・男性のAさんの話です。

3年間勤務していた中小企業の取締役を突然解任され、途方に暮れて相談に来ました。貯金に余裕があるわけではなく、お子さんの学費や両親の介護にもお金がかかる中、生活の糧を失い、呆然(ぼうぜん)としながらも仕事探しを始めたばかりのタイミングでした。

Aさんと一緒に過去のキャリアを整理し、実績が説明できる経験やスキルを分解して職務経歴書に落とし込み、どんな優先順位で応募していくかを決めました。しかし、1カ月、2カ月と、転職活動を頑張って、200社に応募しても入社が決まらない状況でした。このままでは生活も立ちいかないと考えて、アルバイトや派遣も含めて応募するようになり、昨年末になってようやく、工場の軽作業のアルバイトで仕事を始めることができたと連絡をもらいました。

その後、しばらく連絡がなかったのですが、先週5カ月ぶりにメールをもらいました。内容は5月からベンチャー企業の取締役で迎えられたとの報告でした。30年以上前に新卒で入社した地方銀行で同僚だった人がベンチャー企業で副社長をしていて、Aさんの窮状を聞きつけて久しぶりに会い、直接、スカウトしたということでした。

たった一つの事例ですが、ここに現代の中高年の転職の過酷さが凝縮されています。Aさんの場合は、同僚の縁に救われた形ですが、ネットワークの質や量によって結果は一人一人全く違うものになるのが実態です。

45歳を超えた中高年の転職は、いくつかの決定ルートがありますが、その中でも比較的多いのが、Aさんのような「縁故ルート」です。昔、同じ釜の飯を食べた上司や同僚、お世話になった取引先、あるいは親族が経営する会社に後継者として地元に呼び戻された、といった事例です。

ちなみに一番多くの人の転職先が決まるルートは「ハローワーク」です。相対的に年収が低い仕事や、正社員以外のアルバイトやパート、派遣や契約社員などで決まる傾向があります。また、外資系で長く実績を残された方や、CXO(最高責任者)として経営管理の実績の多い人、事務系のスペシャリストやIT(情報技術)技術者、電気や機械、建築分野の研究者など、売り手市場の経験を持っている人は、「ヘッドハンタールート」や「人材紹介会社ルート」で決まるケースもたくさんあります。

30代以下の世代と大きく違うのは、「求人広告サイトルート」で決まる割合が極端に少なくなることです。

資格取得はどこまで効果を発揮するのか?

45歳から転身をする場合、新しいスキルを身に付けるために、資格を取得したり、スクール・講座に通ったりすることを考える人も一定数います。社会人に人気の資格には、MBA(経営学修士)や宅地建物取引士、 ファイナンシャルプランナー、簿記、中小企業診断士などがあるようです。しかし、資格取得が実際の転職にどれだけ有利になるのかはあまり知られていません。

先週、キャリア相談で会った教育関連書籍の編集者のBさん(51歳・女性)もまさに資格取得をして転職活動をしてきた人でした。

「自分が勤めてきた教育出版業界は少子化の影響を受けて、年々仕事が減っています。私自身は70歳くらいまでは働いていきたいと考えていますが、このままではあと20年働けるかどうかもわからない。2年前からIT系の資格取得を目指して勉強してきました。でも、いざ情報セキュリティーの資格を取って転職活動をしても、年齢制限のせいで書類選考すらなかなか通過できない状況です。派遣会社を通じて面接に行ける場合も、結果的に『実務経験がない』ということで採用を見送られるので、正直、何のための資格だったのかと思っています」と落胆していました。

一口に資格といっても、仕事によっては資格がなければそもそも働けないものもあれば、持っていたほうがいいというレベルのものもあります。

Bさんが語るように「資格だけ持っていても、実務経験がなければ即戦力として採用できない」と考える企業が多いのも事実です。

せっかく貴重な時間と高い学費を払って資格を目指すなら、「この資格は転職に有利になりそうだ」と自分だけで判断するのではなく、実際に、「どんな業界でどんな年齢・経験の人が、どんな資格を評価されて転職できているのか」という求人市場の現実を調べてから動くことをお勧めします。

30歳になったら始めたいセカンドキャリアへの準備

ここまで見てきたように、希望退職でターゲットとなりやすい45歳以上の転職の実態は、20代や30代の人から見ると、想像以上に厳しいケースが多々あります。そこから学べる重要な教訓は、誰もが必ず年を取るという事実と、その時が来た場合の備えは一朝一夕ではできないという現実です。

長寿化している現実や社会保険の課題から考えても、今30歳の人は70歳まであと40年働く覚悟をしておいたほうがいいでしょう。人生二毛作は当たり前と考えたときに、40歳から70歳までの後半30年の働き方に備えるためには、30歳を過ぎたら準備をし始めるくらいがちょうどいいのではないかと思います。

特に、就活以来、仕事探しの経験をしていない場合は、自分のいる業界以外の知識はほとんど持っていないことが多いと思います。

もし、順調にキャリアが積み上がって、今の業界で働き続けることになる場合は、備えが杞憂(きゆう)になるかもしれませんが、それも社会勉強のひとつと考えて、できれば、「全く別の業界や仕事をするなら、どんな働き方を選ぶのか」ということを具体的に考え、そのために必要なことを少しずつでも経験していく。

たとえば、次のようなトライアルの選択肢が考えられます。

・副業という形態で、リサーチの意味を込めて実際に実務を体験してみる
・ビジネススクール、個人や団体、法人が運営する勉強会に参加して「社外」のネットワークを作る
・ビジネス系のSNS(交流サイト)を活用して個人ブランディングを始める

今の時代だから手が付けやすい、これらの取り組みは検討の余地が大きいと思います。

自分の強みや興味を起点に何がやりたいかを考えていくと、どうしても拡散していく傾向があります。その点、「興味のある企業をバイネーム(固有名詞レベル)で目星をつける」「興味のある仕事を具体的に探しておく」という方法は現実的にキャリアを考えるきっかけになります。

いざとなったときに慌てないためには、求人市場の実際の需給状況をリアルにつかめる状態を作っておくことは極めて重要です。その手がかりとして、今すぐ転職するつもりがなくても、転職エージェントや転職サイトに登録だけでもしておき、常に情報に触れておくことをお勧めしたいと思います。

一にも二にも、正しい情報を押さえることがあらゆる戦略立案の基本であることに変わりはありません。

黒田真行
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年05月21日 掲載]

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