企業「今こそ採用」 コロナ後見据え、積極姿勢取り戻す

就活変貌

星野リゾートはコロナ下でも採用を拡大している(東京都千代田区の星のや東京で働く新入社員)
星野リゾートはコロナ下でも採用を拡大している(東京都千代田区の星のや東京で働く新入社員)

「星野リゾートで活躍している人はどんな人ですか」「どんなキャリアを歩んできたのか教えてください」。6月上旬、星野リゾート人事グループの鈴木麻里江は2022年新卒採用の最終選考の面接官を担当した。学生からの「逆質問」が相次ぎ、ウェブ選考でも熱気が伝わってきた。

新型コロナウイルス禍により深手を負った観光業界。JTBグループやエイチ・アイ・エスが22年卒の採用を見送る中、星野リゾートは過去最大の700人の採用を掲げる。代表の星野佳路は「新しいホテルの開業を迎える中、人材面での強化が必要」と訴える。

昨年の採用では苦い経験がある。4月に初の緊急事態宣言が発令され、客室稼働率が低下。すでに進んでいた21年卒の選考中止を決断し、鈴木は学生一人ひとりへの事情説明に追われた。

それがコロナがいったん落ち着いた昨年夏には宿泊客が戻った。慌てて秋に採用を再開したものの、採用できたのは当初計画の半分の300人にとどまった。

「ワクチンの普及も考えれば22年卒はかなり採用を増やさないといけない」。新卒採用チームには緊張が走った。計画を練り直し、新規開業や既存施設の稼働率が回復した時のオペレーションなどを分析。年末に700人の採用計画を固めた。

採用した新入社員は即戦力だ。4月に入社したある女性社員は研修後、東京・大手町の「星のや東京」に配属となり、客の出迎えや客室の清掃など仕事をこなす。

コロナ下でも企業の多くは採用の手を緩めていない。リクルートの調査によると、22年卒の大卒求人倍率は1.5倍だ。コロナ前の20年卒の1.83倍には及ばないが、1倍割れもあった就職氷河期に比べれば底堅い。

特に争奪戦となっているのがデジタルトランスフォーメーション(DX)人材だ。電通デジタルの20年の調査では、DXを推進する上での障壁は「スキルや人材の不足」がトップで、前年の「投資コスト」と逆転した。DX人材の確保が企業の競争力を左右する。

ミクシィは今夏のエンジニア職のインターンシップの時給を1400円から2500円に上げた。1カ月半で50万円以上を提示する企業もあり、時給アップに踏み込んだ。採用担当の佐々木忠輝は「インターンで接点を持たないと採用の土俵に上がれない」と危機感をあらわにする。

NTTデータの人事統括部で採用を担当する升田真奈美も「最先端の技術を持つ学生の争奪戦は激しさを増すばかり」と警戒する。

非IT企業の参戦も相次ぐ。三井物産は22年卒採用から人工知能(AI)開発のプリファード・ネットワークス(東京・千代田)とデジタル人材のインターンを始めた。

商社は就職人気ランキング上位の常連だが、人事総務部の広田祐は「文系のイメージが強く、理系学生のキャリア選択の第一歩から外れていた」と振り返る。インターン参加者のうち10人前後に内定を出した。「全員入社してくれるかは分からないが、何とか確保できた」と胸をなで下ろす。

激しい争奪戦を背景に採用の早期化が進む。就職情報会社のディスコ(東京・文京)の調査によると、政府ルールで採用選考が解禁となる6月1日時点で22年大卒の内定率は71.8%だった。21年卒を7.8ポイント上回り、コロナ前の20年卒(71.1%)も超えた。

九州の工業大学の大学院でシステム工学を学ぶ学生は4月までにメーカーや金融など3社から内定を得た。「こんなに就活がうまくいくとは思わなかった。想像より売り手市場だった」と驚く。

それでも3割はまだ内定がない。都内私立大に通う女子学生は3年の6月から就活を始めたが、内定はいまだゼロだ。ものづくりに携わりたくてメーカー中心に受けていたが、「周囲が内定を獲得しているのを見て、どこでもよくなってきた」と打ち明ける。コロナ下に加え、早期化で1年以上も続く就活に学生の疲労の色は濃い。

高い内定率の陰で、コロナ禍にあえぐ外食や鉄道、航空業界は採用が滞る。将来の人材確保へ、業種や企業間の格差がじわり進む。(敬称略)

[日経電子版 2021年06月20日 掲載]

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