新型コロナウイルス禍は自宅でできる「リモート副業」の選択肢を広げた。本業の勤務時間が減ったり、在宅勤務で通勤時間が浮いたりして大企業でも副業を解禁する動きが広がってきた。自分のスキルや目的に適したリモート副業の見つけ方をさぐった。
「休みが増えた分、新しいことをしてみよう」。神戸市に住む会社員の稲垣香織さんは2020年10月、リモート副業を始めた。神戸市役所からSNS(交流サイト)運用の仕事を請け負い、毎月3万円ほどの副収入を得る。

業務内容は神戸市の公式インスタグラムに投稿する写真や文章の作成だ。同市内の観光スポットや飲食店を実際に訪れ、写真を撮り魅力を伝える文章を書く。市の担当者のチェックを受けたうえで月に6件ほど投稿している。
稲垣さんの本業は旅行会社の会社員だ。コロナ禍で週5日だった勤務が3日ほどに減った。副業は採用面接から写真や文章のチェックまで全てリモートで完結。「本業のメールマガジン執筆の経験も生かせる」といい、働きがいと副収入を両立している。
こうしたリモート副業はどう探せばよいのか。仲介大手のクラウドワークスで副業促進に携わる田中健士郎さんは「主に3種類ある探し方を使い分けるといい」と助言する。副業を募集する企業と求職者がお互いに広く情報を公開する「マーケット型」、専門業者に希望職種やスキルを登録して自分に適した仕事を探してもらう「エージェント型」、SNSや知人を介する「紹介型」だ。
マーケット型はいわば「集団お見合い」で、手軽に始められる一方、他の求職者との競争も激しい。エージェント型は自分で仕事を見つける負担は少ないが、求められるスキルがIT(情報技術)エンジニア、デザイナーといった一部職種に限られる傾向がある。紹介型は報酬などを自分で交渉する。

リモート副業はキャリアの幅を広げるきっかけにもなる。経理業務の外注支援などを手がけるニット(東京・品川)で法人営業をしている森勝宜さんは、19年から副業でアパレルブランドの運営に携わる。本業とは畑違いだが「消費者向けマーケティングもできるようになりたい」と始めた。
副業でアパレル販売を伸ばした実績をプロフィルに書いてマーケット型のサイトに登録したところ、マーケティング支援の副業先が3社に増えた。多い月は20万円ほどの副収入になっている。

コロナ下で業種を問わず全国的にオンライン会議などの環境が整い、東京の会社員が地方企業でリモート副業するケースも増えているようだ。仲介会社のJOINS(東京・千代田)では登録する地方企業が約800社と1年前の5倍に伸びた。
同社の猪尾愛隆代表は「特にIT関連分野は、大企業では『普通』の知見であっても地方の中小企業で重宝がられることは多い」と話す。営業支援ツールやウェブ会議ツールの導入などでは高度なIT専門人材でなくとも引き合いがある。目標や進捗をこまめに擦り合わせれば、遠隔でも支障はないという。
もっとも、副業での働き過ぎは要注意だ。クラウドワークスの田中さんは「気軽に始めてみたが本業の忙しさで続けられない人も多い」と指摘する。自身のキャリア形成も視野に入れつつ、無理なく継続して取り組める副業を探したい。長時間労働で疲弊しないよう、副業は「毎朝1時間だけ」などと最初に決めておくといい。
(新田栄作)
本業の勤務先に申告を
リモート副業という新しい働き方は、働く人も発注する企業も不慣れな点が多い。人事労務に詳しい法律事務所ZeLo・外国法共同事業(東京・江東)の味香直希弁護士に注意点を聞いた。
――本業の勤務先に申し出る必要はありますか。
「2年ほど前から大企業でも副業解禁が広がっており、副業の内容を届け出させる仕組みが多い。リモート副業は在宅で手軽に始められるが、副業を巡ってトラブルが起きた際に自分の身を守るためにも本業の勤務先にはきちんと申告しておくのが第一歩だ」
「大企業では今も実質的に副業を禁止している場合が多い。従業員は基本的に就業規則は守らなくてはならず、違反して問題が起きれば処分される可能性もある」

――労働時間の管理も難しそうです。
「企業には従業員の長時間労働、過重労働の防止策をとる義務がある。そのため副業で働く時間がどれくらいか月ごとなどに本業の勤務先に伝えるのが望ましい。副業先と雇用契約を結ぶ場合には本業で何時間働いているかを副業先にも伝えたい」
――秘密保持などの問題はどうですか。
「競合企業での副業は多くの会社が禁止しているが、副業先の取引先が実は競合企業だったという場合もある。本業の勤務先にこまめに申告しておくのが大切だ。業務上知り得た秘密を外部に漏洩すると不正競争防止法に違反する可能性がある」
「顧客リストなどは論外だが、人材育成のノウハウなどは曖昧な面もある。働き手は慎重に考えるべきで、一方の企業で得た知見をもう一方の企業でむやみに活用するのは避けたい。知人経由の仕事でも契約書を交わし、副業の年間収入が20万円を超えたら原則として確定申告をするといった基本も押さえてほしい」
――企業側が契約で気をつけることはありますか。
「雇用と業務委託の境目に注意が必要だ。リモート副業は契約上、個人事業主への業務委託になっていることが多い。コンサルティングなど裁量が大きい業務ならいいが、実質的に企業の指揮命令系統下にあると労働基準監督署から雇用関係だと指摘される可能性が出てくる。ITエンジニアが細かく指示を受けながらコードを書くような場合だ。企業は専門家に相談して体制を整える必要がある」
[日経電子版 2021年06月15日 掲載]