中途採用求人コロナ前超える 経済正常化にらみ人材確保

新型コロナウイルス対策に伴う3回目の緊急事態宣言が発令されるなか、転職市場で求人需要がじわりと戻ってきた。過去2回の時は下回っていた、コロナ前の水準を超えた。国内ではワクチン接種が本格化している。経済活動の正常化を念頭に、人材を確保する企業の動きがうかがえる。

エン・ジャパンの転職サイト「エン転職」の求人掲載件数を緊急事態宣言の期間に絞り比較すると3回目の期間中(4月25日以降)は、5月31日までの合計で前年同期の2.1倍。19年の同時期と比べても8%増えた。

1回目の宣言(20年4~5月)では、19年の同時期に比べ半減した。宣言は全国に広がり、飲食店や娯楽施設で休業が相次いだ。経済の先行きが見通せず、企業はコスト削減へ「リーマン・ショックよりも急速なスピードで採用を見送った」(エン転職の岡田康豊編集長)

2回目の宣言下(21年1~3月)は、前年同時期比8%増まで求人が増加した。感染対策の徹底を踏まえた「新しい生活様式」が広がると、即戦力となる経験者に絞り込んだ採用が先行して回復する。在宅勤務などへの対応に企業も慣れた。

3回目の宣言中の現在は「ワクチン接種後の世界を想定した人数確保といった採用ニーズが出ている」(岡田編集長)。職種別でみると、IT(情報技術)・webなどの技術系が19年比5割増加。業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を担う即戦力人材が伸びる。電子商取引(EC)のサポート人材の求人も目立つ。

就職情報大手マイナビの転職情報サイト「マイナビ転職」に掲載された求人案件数も4月は前年同月比95%増え、19年の年間平均を上回る。

即戦力ニーズは募集時年収にもみてとれる。マイナビ転職に掲載された案件の年収をまとめた中途採用の平均初年度年収(全国)は、4月は前月比0.5%(2万3千円)上昇し452万9千円だった。企業が採用を本格化し、不足感が広がるITなどの分野は経験者の年収を引き上げて募集する動きもある。

1回目の宣言下では、企業が採用を年収水準が相対的に高い経験者に絞り込み、平均年収が上昇。20年6月以降は、未経験者採用が再び動き始め相場は下がった。

賃金を引き上げて即戦力の人材を募集する動きは、企業の採用マインドの変化を映す。事業活動再開に伴う目先の人手の充足にとどまらず、中期的な事業戦略を見据えはじめた可能性がある。

(大槻陽子)

[日経電子版 2021年06月04日 掲載]

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