次世代リーダーの転職学

転職直後は要注意 嫌われる上司になる3つの注意信号

経営者JP社長 井上和幸

転職者の気負った提案は敬遠されがちだ(写真はイメージ) =PIXTA
転職者の気負った提案は敬遠されがちだ(写真はイメージ) =PIXTA

転職はゴールではなくスタートラインです。少なからぬ時間と労力を投じて転職活動を行い、せっかく決めた新天地。好スタートを切りたいものですが、あいにくと着任後の落とし穴にはまってしまう人も少なくありません。着任後に不適応を起こしてしまった転職者からの相談を受けたり、受け入れ先の経営者や役員、社員から耳にしたりしてきた事例からは、3つの注意信号を見付けることができます。

注意信号(1) 「会議で同僚・部下からの反応が悪い」

着任後、「よし、まずは力量を見せねば」と、意気揚々と、いきなり改革案を提示するミドル・シニアがいます。

早速、メンバーを招集し、訓示を行い、「次回、企画会議を実施します」と周知。新天地着任の高揚感に包まれ、寝る間も惜しんで企画書を作成。当日の会議の段取りもあれこれ思案し、「まず、これを話して、そこで皆に感想を聞き、その上でこのプランをお披露目する。よし、これで完璧だ、俺を見る目が変わるに違いない」とほくそ笑む。

さあ、当日、あなたが事前に考えた通りに会議は進行。自信満々の企画書を、流れに沿ってプレゼンテーションしていきますが……。

途中からあなたは気がつきます。「あれ、皆、なんか食いつき悪いな」。質問はないか、感想はどうかと、投げかけてみても、返答はさっぱり。オンライン越しに参加者たちの顔を見ていくと、誰もが微妙な表情で、引き気味の様子です。

結局、初回の企画会議は、事前のあなたのイメージとは裏腹に、重い沈黙のまま終わりました。次に向けてのステップも見えなくなってしまいました。

さて、「最初が肝心」と意気込んで臨んだ、渾身(こんしん)の企画会議は、結局、気合が空回りしたとしか言いようのない結果に終わってしまいました。何がまずかったのでしょう?

今回の件、あなたにとっては渾身のプランかもしれませんが、既存のメンバーたちから見て、どうだったのでしょう?

賢いはずの戦略リーダーが案外、陥りがちな罠(わな)です。転職先の職場・チームの状況をしっかりとつかまずに、自らが思い描く「理想的提案」をいきなり打ち出しても、聞かされる側からすれば、「(いろいろな事情を)分かっていないくせに」「現場の実態からずれている」と思われるだけだということです。

「いやいや、ちゃんと組織のことや事業のことも聞き、理解した上で案を練りましたよ」。そう反論する人が見ていないのは、その職場・チームの本音のコミュニケーションです。

表向きの情報だけでなく、実際にはどのような稼働状況になっているのか。組織図通り、手順通りに業務は運んでいるのか。また、チーム内での「本当のコミュニケーションライン」はどうなっているのか。これらをしっかり掌握し、「実際をよく分かった」上で練られた企画提案でなければ、既存メンバーたちの心をつかむことはまず難しいでしょう。

功を焦って自分本位の発信から始めるよりも、まずはしっかりと、新たな職場や事業の状況を把握するのが先決です。その上で実際の状況を踏まえたプランを描き、メンバーたちに問いかけましょう。

注意信号(2) 同僚、部下が相談してくれない

専門性を買われて入社したミドルやシニアは、「よし、自分のプロフェッショナリティーを提供しよう」と意気込みます。それ自体は当然良いことで、あなたに期待されていることでもあります。しかし、ここに落とし穴があるのです。先に挙げた注意信号(1)の発生原因とも密接に関連します。

着任後、最初のミーティングであなたはメンバーに挨拶します。

「私は前職までマーケティングで実績を残してきました。いろいろと教えてあげるから、何でも聞いてください」。

この言葉を聞いて、既存のメンバーたちは、一気に鼻じらみ、しらけてしまいました。

あなたからすれば、悪意は全くありません。特に専門領域で自信がある人であればあるほど、「この会社には前職でやったあの戦略が使える」「この商品には、前々職時代に展開したあのプロモーションが効果的だろう」と思い至るでしょう。

また、今後の会社のメンバーたちの誰もが知っているであろうメジャーな商品の企画に携わっていた場合は、誰もがその話を聞きたいはずだと考えるかもしれません。このような思いから、いろいろと話してあげようと考えたわけです。

しかし、人は自分が思うほどにはあなたに興味を持ってはいません。また、そもそもは注意信号(1)でも述べた通り、あなたはまだ新参者で、この会社のことをよく知らない(はず)。だから、周りの人たちは、あなたの勝手流でこれまでの会社のことを持ち込まれても困ると思っているわけです。

先ほどのあなたの言葉を聞きながら、メンバーたちはこう思ってるでしょう。「『いろいろと教えてあげる』じゃないだろう」と。彼らが内心で思っている本音に早く気がつきましょう。

赴任したら、まず発信すべきメッセージは「教えてあげる」ではありません。「この会社のことをいろいろと教えてください」なのです。

注意信号(3) どうも同僚、部下の視線が冷たい

着任後の出だしでコミュニケーションを掛け違ってしまい、あなたの気合と情熱とは異なる方向へと周囲の受け取り方が進んでしまうと、あなたに対する人物レビューは「微妙な人」と位置づけられてしまいます。これは絶対に避けたいですね。

組織には「確証バイアス」が働きます。確証バイアスとは、その人が抱いたイメージ、仮説や先入観に合致した情報・データだけを求めるような傾向のことです。要は、いったん「あの人はこんな人」というイメージが形成されると、なかなかそこから抜け出すことは難しいのです。

まさに「第一印象が10割」。その後のイメージ回復はなかなか難しくなるわけです。

「今度来た部長、勝手に進めてばかりで誰も言うこと聞いてないらしいよ」「あの課長の主催するミーティング、微妙だよね。自分がほとんどしゃべって、外れたアイデアばかり進めている。これじゃ、半年持たないんじゃない」「あの役員は決裁が取れないから、関連するプロジェクトには巻き込まれないようにしなきゃね」

同僚、部下の視線が冷たい。言ったことをちゃんと聞いてくれていない。そんな気がするのは、こういった風評が広がってしまったからかもしれません。

新参者にまつわる風評はすぐに社内全体に巡ります。あなたが鳴り物入りで入社した幹部であれば、なおさらのことです。

早晩、社長や役員からも「彼は採用失敗だったか」となってしまったら、取り返しがつきません。幹部としての相談もされなくなるし、案件やプロジェクトも回ってこなくなる。揚げ句の果てに、短期間で再度の転職活動に追い込まれるリスクが高まりそうです。

こうなったら?「仕方がない、改めて転職し直しだ」。いやいや、そんな甘い考えは絶対にやめましょう。ここでこの課題を解決せずに、仮に次に移ったとしても、必ず次の新天地でまた「やらかす」ことになるのは間違いありません。

一度こうなってしまったら、挽回は大変だと思われます。ただ、今回紹介した通りの行動に軌道修正をできれば、周囲の同僚や部下たちは、案外、事実をちゃんと見ているものです。

「部長、最近ちゃんと現場の情報を見てものを言ってるよね」「課長、メンバーの意見をしっかり収集してから、それに対してちゃんとレビューしてくれるし、その上でのアイデアを出してくれるね」

周囲の状況把握、そのための主要な面々との密なコミュニケーション。当たりどころが分かったら、積極的に改善案などを提案。この着任初期の鉄則的PDCAをしっかり回すことができていれば、あなたの新天地での今後の展望は明るいものとなるでしょう。

転職は「内定を得て入社したら成功」ではありません。その転職が成功だったのか失敗だったのかが決まるのは、着任後のスタート次第です。ぜひ今回の転職を「成功」にするために、着任後の3つの注意信号に気をつけながら、周囲の信任を得ることによって働きやすい環境を獲得できることを願っております。

井上和幸

経営者JP社長兼CEO。早大卒、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、リクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。「社長になる人の条件」(日本実業出版社)、「ずるいマネジメント」(SBクリエイティブ)など著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年05月14日 掲載]

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