職業訓練、コロナ禍で狭き門 求人ニーズとミスマッチも

ウェブデザインを学ぶ職業訓練の受講者(東京都新宿区)
ウェブデザインを学ぶ職業訓練の受講者(東京都新宿区)

新型コロナウイルス禍で失業者が増える中、公的な職業訓練への期待が高まっている。経済的支援を受けながら再就職に結びつく専門知識や技術を無料で習得できるためだ。だが受講生からは「倍率が高すぎる」「就職につながらない」などの声が漏れる。取材からは訓練と企業ニーズのミスマッチや受講希望者への支援不足といった課題が浮かんだ。(福田航大)

「プロが丁寧に教えてくれたのでやりきれた。生活できているのは職業訓練のおかげ」。東京都墨田区の女性(39)は笑顔で話す。2020年5月、有名アパレル企業の雇い止めにあった。将来を見つめ直す機会と捉え、ハローワークを通じてウェブデザインの職業訓練に申し込んだ。

同年10月から3カ月間、都が委託する早稲田電子IT教育センター(東京・新宿)でホームページ作成に必要なプログラミング言語などを学び、今はフリーランスで企業のウェブデザインなどを請け負う。「失業手当もあり経済的にも苦労せずに済んだ」と話す。

厚生労働省によると、コロナ禍で解雇や雇い止めにあった人は見込みを含め10万人を超えた。職を失う人が増える中、再就職を後押しする役割を期待されているのが職業訓練だ。

19年度の受講者は全国で12.5万人。国や自治体の直営施設、委託先の専門学校などに多様なコースがあり受講料は原則無料。雇用保険加入者には失業手当や交通費が支給される。だが、SNS(交流サイト)上には「職業訓練が不合格で転職断念」「就職に結びつかなかった」といった投稿が後を絶たない。

都が委託する専門学校では、20年4月開講の財務管理コースに定員30人の2倍の応募があったが就職できたのは修了生24人のうち10人。7割弱が就職したコロナ前から大幅に減った。都の担当者は「コロナの影響で求人数が減った上、企業が求める年齢や職歴と卒業生の経歴が合わない場合もある。『未経験歓迎』とあっても経験者が優遇される例も多い」と明かす。

都によると、ウェブデザイナーなど人気職種を目指す講座が多い民間委託の職業訓練の平均倍率は21年1月は1.65倍。前年同月の1.17倍から上昇したが、20年度の就職率は19年度(52.0%)を下回る見込みだ。

一方で、就職率が高いのに定員割れとなる講座もある。都立多摩職業能力開発センターで20年4月に開講した電気工事科1年コースは修了すれば国家資格が得られるが、定員30人に受講生は19人。修了生の就職率は100%だった。担当者は「手に職を付けるような講座は就職率が高いのに若者の関心が低い」とこぼす。

厚労省によると、修了生の就職率は国や自治体の直営施設が81.9%(20年4~8月)、委託先が66.1%(同年4~7月)で、コロナ前の前年同期と比べてそれぞれ1.7ポイント、5.3ポイント下がった。対策を強化するため、同省は今年2月、コロナの影響を受けた求職者の専門窓口をハローワークに設置し、職業訓練の情報提供や受講あっせん、就職支援をワンストップで行う計画を発表した。

東京大の川田恵介准教授(労働経済学)は「訓練運営者が企業ニーズを十分に捉えられていない」と指摘。「修了生の就職率や求人動向などを希望者に積極的に伝え、効果的な受講を促す必要がある」と話す。

日本大の安藤至大教授(労働経済学)は「訓練運営者と企業側が訓練の内容を共同で考え、一定の条件のもとで修了生の採用を保証するといったマッチングの仕組みも有効ではないか」と提案している。

米国、ネットで訓練実績公開、企業とマッチング

米国では求職者の技術や資格をインターネット上で公開し、企業とマッチングする政府主導の取り組み「ラーニング・アンド・エンプロイメント・レコーズ(LERs)」が注目されている。昨年始まった制度で求職者は職業訓練で習得した技術や学歴などを公開。企業は求めるスキルを示し、求職者に足りない技術などを助言することもできる。EUにも「ユーロパス(Europass)」という同様の仕組みがある。

リクルートワークス研究所の石原直子人事研究センター長は「欧米は職業訓練などでの学習歴を公的に認証して価値を高めて採用につなげている。日本でも訓練自体の評価を高める仕組みが必要だ」と指摘する。

[日経電子版 2021年05月22日 掲載]

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