プログラミング言語の詳しい知識がなくてもサイトやアプリを構築できるノーコード技術を巡り、新興企業が学習環境を充実させる動きが広がってきた。月額制で学べるオンラインプログラムなどが相次いで始まる。利便性が高い半面、効率的に習得する手段が少なかったノーコード。専門人材の裾野が広がれば、起業家や大企業のビジネスの加速につながる。

「データベースの構築などでつまずく人は多い」。ノーコードの習得を後押しするスタートアップ、idemo(アイデモ、大阪府八尾市)の塩野涼太代表は分析する。プログラミングの難解な言語を使わないとはいえ「現実の作業は簡単ではない面がある」という。
そこでidemoは10月をメドに、ノーコード開発ツール「バブル」を独りで学べるオンライン教育サービスを始める。利用料は月額数千円を想定し、ゲーム形式で進めるなど初心者もなじみやすい設計にする。「起業家や副業人材に活用してもらいたい」(塩野氏)
プログラミング言語を使った記述(コーディング)なしにサイトやアプリを作成できるノーコードと、少ないプログラミングで済む「ローコード」。利用者は欲しい機能やデザインをひな型から選び、文章を入力しながら作り上げる。
米グーグルのツールの教材を提供へ
利便性は高いが、学ぶ際はネットに点在する情報を独自で集めるケースが多い。調査会社IDCジャパン(東京・千代田)がノーコードやローコードでアプリを開発する国内企業を初めて調べたところ、2020年8月時点で8.5%だった。
現状をチャンスと捉え、スタートアップが市場開拓に動き出した。プログラミング学習サービスのキラメックス(東京・渋谷)は6月、米グーグルの開発ツール「アップシート」を学べる教材の提供を始める。

就職支援を手掛けるFor A-career(フォーエーキャリア、東京・渋谷)は企業の新規事業担当者などを対象とする講座を用意した。料金は50万円からで、最大20人が受講できる。その後も2カ月間にわたって質問に答える。
コンサルティング会社アイ・ティ・アール(東京・新宿)の甲元宏明プリンシパル・アナリストは「ノーコードやローコードは『草の根DX(デジタルトランスフォーメーション)』を進める力になる」と指摘する。現場が簡単な業務アプリを開発できればビジネスの速度は上がる。
世界市場は23年に2兆2000億円へ
23年までに定型業務を半分に減らす目標を掲げる日清食品ホールディングスは20年4月、コーディングが不要なサイボウズの業務支援ソフト「キントーン」を導入。21年5月には、100種類あった書類のほぼ全てを電子化した。情報企画部の成田敏博氏は「業務部門自らがDXを進める武器になった」と語る。
毎月の少額出資で芸術家を支援する会員サービス「ハックタグ」を提供するアイデアブルワークス(大阪市)の寺本大修・最高経営責任者(CEO)は同サービスで「バブル」を活用した。プログラミング経験のない寺本氏が利用者登録や決済の仕組みを構築。外注すれば通常3カ月以上かかるところを、1カ月半で開始にこぎ着けた。
米調査会社ガートナーによると、ノーコードの開発やツールなどに関わる市場規模は23年に世界で203億ドル(約2兆2000億円)と、19年の2.2倍に拡大する見通しだ。マイクロソフトなど米IT(情報技術)大手は開発ツールを拡充、独シーメンスは開発基盤を手掛ける米メンディックスを18年に買収した。欧州では金融機関のアプリ開発に活用された実績もある。

もっとも、ノーコードも万能ではない。事業規模が大きくなった場合は、膨大な顧客情報を処理できるプログラミング言語が不可欠になる。簡易なアプリを誰でも開発できるようになれば「次はデザインやユーザー・エクスペリエンス(楽しく心地よい体験)といったノウハウを持つ人材の需要が高まる」(idemoの塩野氏)との見方も出ている。
(DXエディター 杜師康佑)
[日経電子版 2021年05月25日 掲載]