女性をいかに戦力として活用するか、に関西の企業が知恵を絞っている。女性管理職の割合で関西6府県は関東8都県を1ポイント強上回る。関西トップの京都府は京都銀行など先端的な企業のほか、女性の従業員が多いサービス業や小売業がけん引する。一方、市町村別でみると過疎化が進む地域が上位に並んだ。人材が限られるなか、女性の能力が欠かせなくなっている様子がうかがえる。
「この10年あまりで、女性が活躍できる風土が行内に醸成されてきた」。京都銀行で人材育成を担う金融大学校の岡田寛子学校長は自信を見せる。
同行が女性の活躍推進にカジを切ったのは2007年度。育児休業を1歳までから4歳までに延長したほか、女性向けの研修を数多く提供してきた。20年度の管理職比率は20%超と当時の4倍に。他府県を中心に新規出店が増え、団塊の世代の大量退職が重なった結果、支店長や次長などのポストが増えたことも追い風となった。

同行が次に掲げる目標は30%。達成に向けて、職種による男女の垣根をなくすことに取り組んでいる。これまで女性は事務職や個人営業が中心で、法人営業は男性がほぼ独占してきた。女性が法人営業に就くための研修会を開いており、法人営業の担当数百人のうち女性は20~30人に増えつつある。

京都府内では、ワコールも女性管理職の登用に意欲的だ。目標比率は現在より6ポイント高い30%。昇進を控えた女性社員1~2人あたり「メンター」となる女性管理職1人をあて、必要なときにいつでも相談に乗れる体制を整えている。同社は女性の従業員比率が約9割に達しており、潜在能力を最大限に引き出したい考えだ。
そもそも、なぜ京都府には女性管理職が多いのか。京都、大阪、滋賀の2府1県で男女共同参画審議会の会長を務めた社会学者の伊藤公雄・京都産業大教授は「サービス、小売りなど第3次産業の比率が高いためではないか」と指摘。関西経済が活力を取り戻すには、製造業を含めたもっと幅広い業種に広がることが必要という。
大阪市に本社を置く製造業では、田辺三菱製薬の取り組みがユニークだ。病院などを回る営業担当者が会社の車で子供を保育園に送り迎えできるようにしたほか、結婚・出産・子育てなどを控えた若手女性を対象に研修を実施し、キャリアプランを作成させている。21年4月時点の管理職比率は12%で、5年前の2倍強に引き上げることに成功した。


兵庫県尼崎市で、基板製造向けの薬品を手掛けるメック。6人いる執行役員の3人が女性で、課長などを含めた管理職全体でも20%を超す。同社の場合、従業員に占める女性の割合が30%なので、ほとんど差はない。男性の育児休暇は20年は資格のある10人のうち3人が取得した。女性の上司が男性の部下に「育休とらないの?」と呼びかけることもあるという。
市町村別にみると、過疎化が進む地域が上位を占めた。目立った産業がない地域も多く、自治体の実績が大きく影響しているとみられる。
関西の市町村でトップの京都府笠置(かさぎ)町では、役場の管理職10人のうち女性が5人を占める。総務財政課長の前田早知子さんは「人材が限られるなかで、男だから女だからと言っていられない」と話す。新卒採用は多い年でも男性1人、女性1人の合計2人。若いうちに転職する男性もいて、自然な流れで女性の管理職が増えてきたという。「女性が半分を超えても不思議はない」と前田さんはみている。

関西の女性管理職比率、3次産業が押し上げ
伊藤公雄・京都産業大教授 関西の女性管理職比率は全国より高いように見えるが、中小企業やサービス・小売りなど第3次産業が押し上げている面が大きく、実態はさほど進んでいるわけではない。関西経済が地盤沈下から脱して東京に追いつくには、女性の潜在能力を引き出すことが欠かせない。
壁は一律管理の手法だ。全員を同じルールで縛ると、女性は働き続けにくくなる。子供を産みたくない人もいれば、3~4人産みたい人もいる。それぞれのライフプランに合わせて、環境を整える必要がある。実は中小企業の方が、女性に辞められると困るので工夫している。大企業にできないはずがない。
[日経電子版 2021年05月14日 掲載]