
新型コロナウイルスの感染拡大から1年以上たった。コロナ下では主に非正規女性の雇用環境の悪化が顕著だった。背景には日本の産業構造の問題点や家事・育児負担の集中などがあげられる。雇用の男女格差に詳しい日本総合研究所の井上恵理菜研究員に今後の展望も含めて聞いた。
――コロナで女性の雇用状況が悪化した要因をどのように分析しますか。
「日本は他の先進国と比べ、女性の雇用の悪化が目立つ。国際労働機関(ILO)の調査によると、昨年7~9月、25~54歳の就業人口は男性が前年同期比1.6%減だったのに対し、女性は2.8%減だった」

「日本の産業構造が要因の一つだ。宿泊や飲食、小売りなど外出制限の影響を受けやすい業種で女性の割合が高い。リーマン・ショックでは男性の雇用悪化が顕著で『男性不況』とも呼ばれた。これは男性の比率が高い製造業などが打撃を受けたためだ」
「家事・育児の負担が女性に集中したことも影響した。1度目の緊急事態宣言が出た昨春、小中学校などの休校で、休業を余儀なくされた女性も多かった。総務省の労働力調査では、昨年4~6月に末子が0~14歳の既婚女性の労働力人口が大幅に減少したことがわかる。保育園の登園自粛問題などは解消されてきたが、家事・育児分担は引き続き課題となるだろう」
――コロナ以外の要因もありますか。
「コロナにかかわらず日本の労働市場の二重構造は問題視されてきた。非正規労働者は雇用の調整弁として扱われがちで、コロナ下でも非正規の割合が高い女性が打撃を受けた。足元でも東京・大阪などで緊急事態宣言が発令され、雇用状況の悪化が懸念される」
――2月に女性雇用の問題点をまとめたリポートでは、政策効果が限定的であるとの見方も示しました。
「助成金などの支援策が非正規に届いていないことが問題となっている。自営業や単発の仕事を請け負うギグワーカーなど新しい働き方についても同様だ。労働者の所得をリアルタイムで把握できていないためだ。デジタル庁の発足に向けた動きのなかで、迅速に情報を集める仕組みづくりも求められる」
――コロナの収束が見えないなか、女性が目を向けるべきスキルは。
「デジタル関連だ。情報通信は人手が足りない分野であり男性の割合が高い。ハローワークでもスキルを身につけられる研修を行っており、政府は公共職業訓練を5割増にする目標を立てている。だが日本は他の先進国と比べ、職業訓練の財政支出割合が低い。10倍といった、より大きな幅で増やすべきだと考える」
(聞き手は荒牧寛人)
[日経電子版 2021年05月09日 掲載]