「女性活躍」首位はアクセンチュア 男性文化を改革

オンラインで打ち合わせするアクセンチュアの桜井理紗さん
オンラインで打ち合わせするアクセンチュアの桜井理紗さん

日本経済新聞社と日経BPの女性誌「日経ウーマン」による2021年の「女性が活躍する会社ベスト100」は、アクセンチュアが初の1位になった。06年に女性活躍推進を目指す社内横断組織を立ち上げ、直近3年間で女性経営幹部比率が9ポイント上昇するなど、着実な歩みが評価された。

働き方と男性社員の意識、両輪で改革

「コロナ禍での復帰の不安もすぐになくなった」。素材・エネルギー本部のシニア・マネジャー、桜井理紗さんは緊急事態宣言中の20年4月、第3子の育休から11カ月ぶりに復職した。管理職として部下をまとめる立場で戸惑いはあったが、オンライン会議などの遠隔業務にもすぐになじんだ。理由を「ベースの環境が整っていたから」と話す。

同社は06年に女性活用の取り組みを始め、15年からは「Project PRIDE」と名付けた多様性を重視した働き方の改革を始めた。生産性の高さを評価する給与システムへの改定、午後6時以降の会議の原則禁止など、風土改革につながる24の人事制度の変更を行い、実践している。

結果、実施前に比べ1人あたりの平均残業時間は1時間に減少し、離職率は約半分に。有休取得率は70%から85%へ上昇した。「働く環境が劇的に改善した」と、社員らは評価する。16年には週5日も可能な在宅勤務制度も始めた。

働き方改革と並行して力を注ぐのが、男性社員の意識改革だ。社内で少数派である女性の問題を自分ごととして捉えるにはどうすればよいか。施策の一つとして14年から「アンコンシャス・バイアス研修」を始めた。性差などに基づいて誰もが持つ無意識の偏見に気付き、適切な判断をするのが目的だ。管理職は年1回の研修で、実例を題材に部下への接し方を確認する。

少数派の「居心地悪さ」 実感させる仕掛けも

社内イベントで社員数名が登壇する際に、あえて男性の人数を1人にするなど、組織で少数派であることの「居心地の悪さ」を実感させる仕掛けもつくった。人事評価では男女の昇進割合を数値で見える化し、男性優位になっていないかチェックする。

これらの取り組みにより、女性社員の比率は07年の17.7%から21年3月時点には35.5%に、女性管理職比率は同8.7%から同17.9%に増えた。女性の経営幹部比率もこの3年間で17%(17年8%)へと大きく伸びている。

子育て社員の支援にも力を入れる。「ワーキングペアレンツサポーター」は、各部署で子育て経験のある先輩社員が育休復帰者らの相談にのるものだ。桜井さんもサポーターの一人。復職後半年の女性社員からは「時短勤務でもプロジェクト業務に入れるか」と尋ねられた。子育てとの両立に慣れ、新たな挑戦をしたい様子だった。自身の経験を基に「前もって退社時間を上司に説明し、理解を得れば問題ない」と話すと、相手は安心した様子だったという。

社内横断のチャットアプリには保育園探しや子育ての情報交換ができるスレッドもある。桜井さんは「より働きやすくなるよう経験や知識を共有する文化が心強い」と話す。

「制約がある中でどう働き続けるか、前向きに議論できる」。3月、第1子の出産後6カ月で職場に復帰したテクノロジーコンサルティング本部のマネジング・ディレクター、小森寛子さんも話す。産休直前まで担当していた顧客とのプロジェクトに戻るため、上司と復職後の働き方について話し合ったという。「夫の転勤で悩んでいた女性社員が、転居先で携われるプロジェクトを勧められた例もある。一人一人が実力を発揮するために皆で考えようという雰囲気がある」

「女性の視点、業績に直結」 江川昌史社長に聞く

――女性の活用を進める意義は何photo_SXM2021042300001165.jpgですか。
「女性の視点がなければビジネスが成り立たない。2015年の社長就任時、日本はデジタル化のさなかだった。女性のウェブユーザーの思考回路をつかむには、女性目線が必要だった」
「社内のダイバーシティが進めば業績は上がる。その方程式をつくり上げることが社長の役割だと考えた」

――活用の効果をどのように感じますか。
「15年当時デジタル業務の売上比率は数パーセントだったが、今では7割近くにまで成長した。女性や若い世代の客層を取り込んだ結果だ」

――社内改革は順調に進みましたか。
「コンサルティング業界は男性文化が根強く、批判的な声もあった。デジタル化にはダイバーシティ推進が欠かせないと説明を重ね、理解を得た」
「すると今度は、男性陣が子育て中の女性社員に早く帰るように声をかけるなど、過剰な配慮をするようになった。画一的におもんぱかった行動は、仕事を優先したい女性には迷惑になる」
「人事でも男性が高い評価を得やすく、昇進が早い傾向があった。誰もが持つ無意識の偏見を取り除くための研修を行い、会議や人事評価の現場でもマイノリティーの立場を実感できる仕掛けをつくっている」

――女性社員の変化を感じますか。
「女性管理職が増えるに従ってロールモデルも多様化し、自分もリーダーになれるとの自覚が生まれている。昇進を断る女性社員は減った」
「アクセンチュア全社で25年までに社員の男女比を同数にする目標を掲げる。日本法人でも新入社員の半数は女性だ。目くじらを立てて数値を追わなくても、経営戦略のもとで女性が自然体で活躍すれば人数も増える」

地道な研修や制度づくりがカギに

外資系の会社は女性活躍の意識が高くて当たり前では――。取材前の先入観は大きく変わった。売り上げを高めるための経営戦略で欠かせない要素がダイバーシティの視点だったという。男性中心の社内風土を現場視点で見直し、研修や制度を地道につくり上げてきた。
2016年には完全在宅勤務を可能にするなど、他社に先駆けた働き方改革が実を結んだ。外国人やLGBTQ(性的少数者)、障害者の雇用にも様々な試みをしている。足元の女性社員比率は約35%。「女性がナチュラルに活躍する会社」(江川社長)とのイメージが加速する今後に期待したい。
(松浦奈美)

[日経電子版 2021年05月08日 掲載]

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