雇用制度が激変 40歳からの職業人生、どう考える?

KPMGコンサルティング 油布顕史プリンシパル

40~50歳代のビジネスパーソンはこの先の職業人生を考えたい(写真はイメージ=PIXTA)
40~50歳代のビジネスパーソンはこの先の職業人生を考えたい(写真はイメージ=PIXTA)

日本企業は長らく終身雇用制度をとってきました。しかし、企業自体の生き残りをかけた競争が厳しくなる中、雇用制度は大きく変わりつつあります。人生100年時代にビジネスパーソンは雇用とどう向き合うか。KPMGコンサルティングで人材分野を手がける油布顕史プリンシパルに聞きました。

人生100年時代のキャリアを考える

日本企業での働き方は、労働人口の減少や社会の高齢化、そして昨今のコロナ禍が加わり、大きな転換期を迎えて、従業員一人ひとりの働く価値も転換を迫られています。

日本企業の成長を長く支えてきた雇用制度や処遇の仕組みは、その時代の経済の発展段階や人口構造といった大きな外部環境に合わせて設計されてきました。

これまでの日本企業の処遇制度は、属人的な能力に見合った仕事と報酬を与える職能型人事制度が中心でした。これは「人の能力は勤続年数や経験により向上する」という前提で設計されるため、社員間で報酬に大きく差をつけにくく、経済成長・大量採用の時代には都合の良い制度といえました。

しかし、これからは、職種や職務(仕事)の価値に値段をつけ、それに見合った経験・スキルを有する人材を配置し処遇する仕組みへとシフトしつつあります。個々の職務について客観的価値に基づいた適正な処遇水準を設定し、最適な人材を配置する。つまり「適材適所」ではなく「適所適材」の考え方に代わっていくと考えられます。

外部環境が大きく変化しつつあるときには、昔ながらの雇用制度を前提に職業人生の将来を見極めることは非現実的です。特に、これから長い職業人生を過ごす40~50歳代の従業員は「人生100年時代」を念頭に置いて、これからのキャリアと働き方を考えてみてください。

キャリアと年収の考え方(再就職先で失敗しないために)

ここではキャリアと年収について、日本(職能型雇用)と欧米(職務型雇用)の考え方を比較します。日本と欧米では賃金を決める考え方が異なっており、これからシフトする考え方を理解しておくことは年収に見合うキャリア形成を実現する意味で重要です。

一般的に、欧米型(職務型)の報酬は外部の労働市場との見合いで決まります。「今このポジションを担える人材を外部から採用する場合どのくらいの報酬水準が妥当か」の見立てが賃金を決める重要な要素になります。一方、日本企業で多く採用されている職能型の報酬は企業内の特殊能力を重視して賃金を決めます。採用した新卒人材に企業が投資し、教育して育てるので若年のうちは給与が低く抑えられます。そして社内で仕事の進め方や人づき合いといった経験を重ねる中で、企業特有の職務を円滑に遂行する能力を身に付け、その対価として報酬が高くなります。

このため、日本企業で働く従業員のキャリアは社内に閉じたものになりやすく、自分のキャリアを高めるために自己投資を行う従業員は欧米ほど多くありません。

社内で「こまった中高年人材」とならないよう(写真はイメージ=PIXTA)
社内で「こまった中高年人材」とならないよう(写真はイメージ=PIXTA)

欧米企業では市場価値が自分のキャリア(賃金)に直結するため、市場価値を高めるための自己投資は個人の判断と責任のもとに行われます。自己投資によって付加価値を身につけた個人を、企業が買う(雇う)ことになります。

重要なのは、転職でキャリアアップを考えている読者の皆さんの価値基準は「社内で培った特殊能力」以上に、「外部の市場価値」で測られるということです。

この点を理解せずに安易に目先の報酬だけで転職してしまうと、(転職前の会社で得た特殊能力が転職先では通用しないために)期待されたポジションで役割を遂行できず、転職者と採用企業ともに不幸な結果になります。年収アップといった報酬の軸だけで判断せず、自分が転職先でどう貢献できるかイメージを確立することの方が、これから充実した職業人生のキャリアを積む意味では重要になります。

市場が求める価値の高いスキルを理解した上で、自分のキャリアは自分自身で高める意識を持ちながら職業経験を積むことが大切です。

中高年人材の不活性と若者の働きがいの喪失

日本企業はこれまで、社内に適応できるゼネラリストを育成するキャリア形成を志向してきました。マネジメントやリーダーシップといった教育に力を入れてきた根底には、社内の特殊能力獲得の期待も含まれています。しかし、今後は成果を創出できる知見・経験を備えた人材を求める傾向が強まるので、自ら課題とゴールを設定し、自走し成果を出せる専門力を身に付けることが求められるようになります。また、これまでの仕事で培ってきた豊富な経験や知識、高度な技術・技能・センスを生かし、社会や組織に貢献することも重要となります。

一方で、企業内部に目を向けると閉塞感がまん延しています。特に、定年後再雇用をされたシニア層で深刻です。職場内にいる、こうした「不活性シニア」が思い当たりませんか。例えば、余計な仕事を増やす、時代錯誤の経験則を押しつける、職務遂行に必要な知識が足りない、チャレンジすることから逃げ与えられた職務だけをこなそうとする、といった人たちです。

このような人材は企業のイノベーションを阻害し、現役社員のエンゲージメント(働きがい)を低下させる要因となってしまいます。このため、人事部門では取り扱いに苦慮しているのが実情です。

定年雇用制度と年功型賃金の見直しが不可欠

こうした人材が生まれた要因のひとつに、日本の定年雇用制度と年功型賃金制度があります。ある年齢に達すると強制的に退職させられ、報酬が一律に減額する仕組みでは社員の働く意欲は起きず、「ぶら下がり社員」の増加につながります。このような不活性シニアを今後も輩出しないためも、定年雇用制度を改めて、60歳以降も能力に応じて処遇される雇用の仕組みを作ることが必要です。

自律的なキャリア構築の準備を

では、ビジネスパーソンは今後のキャリアをどう考えればよいのでしょうか。これからの時代は会社での役割・職務・ポジションと報酬がセットになり、それに見合う能力・経験を有する人材を配置するような仕組みになっていくでしょう。また、年功賃金、定年制度といった日本の雇用システムが限界を迎えるなか、今のまま会社に寄りかかっている姿勢は得策とはいえません。その時になって慌てないように自律的にキャリアを見据え、以下の図のような準備をしておく必要があります。

その上で、今後何を学び、経験すべきかのキャリアプランを立案するのが効果的です。このように、自らキャリアのゴールを設定し、知識・スキルを蓄積することに加えて、どんな役割・ミッションの下でその経験を積んできたのかを明確にすれば、転職などで対外的に説明する際に大きな説得力になります。また、日本では職務横断型の労働市場が整備されていないため、職務とそれに応じた職務価値(報酬水準)が必ずしも明確でないケースが見られます。前述したように、転職後に能力のミスマッチが起きる場合も多く、注意が必要です。

油布顕史
組織・人材マネジメント領域で20年以上のコンサルティング経験を有する。大手金融機関・製造業・サービス業界の人事改革支援に従事。事業会社、会計系コンサルティングファームを経て現職。組織人事にまつわる変革支援-組織設計、人事戦略、人事制度(評価、報酬、タレントマネジメント)の導入・定着支援、働き方改革、組織風土改革、チェンジマネジメントの領域において数多くのプロジェクトを推進。企業向けの講演多数。

[NIKKEI STYLE 出世ナビ 2021年03月31日 掲載]

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