女性役員のいない企業に対し、資産運用会社が株主総会での議決権行使を厳しくする姿勢を強めている。米ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズなどは取締役の選任議案で反対票を投じる対象を広げる。日本では東証1部企業でも4割に女性役員がいない。改定される企業統治指針も女性役員の積極登用を促しており、企業は対応を迫られる。

米ステートは東証株価指数(TOPIX)500企業で女性取締役がゼロの場合、社長ら上位3人の取締役選任に反対票を投じる。従来は社長選任案にのみ反対していた。英最大級の運用会社、リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)は女性取締役ゼロの場合に取締役選任案に反対する対象を、TOPIX100企業から同500企業に拡大した。
米アライアンス・バーンスタインは2021年の株主総会から、取締役に女性がおらず任命もしようとしない企業のトップ選任に反対する。堀川篤日本バリュー株式最高投資責任者は「男性しかいない取締役会では視点が偏り、柔軟な経営判断ができなくなる恐れがある」と指摘する。
具体的な賛否基準までは示していないものの、女性取締役の登用を議決権行使基準に盛り込む運用会社も目立つ。JPモルガン・アセット・マネジメントは「中長期的な価値創造に資すると判断した場合は、取締役選任案への賛否を通じて女性取締役の登用を働きかける」とした。大和アセットマネジメントは「女性活躍推進の記載を検討中」という。
日本企業の女性取締役の登用は少ない。内閣府によると、20年7月時点で女性役員(取締役、監査役、指名委員会等設置会社の代表執行役及び執行役)がいない東証1部企業は918社と、全体の42%を占める。この時点では東レ、伊藤園などが女性役員ゼロだった。
海外企業では女性取締役の登用が当たり前だ。指数会社大手のMSCIによると、「MSCI全世界株指数(ACWI)」を構成する企業のうち、女性取締役がゼロの企業の比率は米国が0.2%、ドイツが3%、オーストラリアが2%にとどまる。同指数の構成企業でも日本企業は2割超で女性取締役がいない。

欧米では規制も強化されている。ドイツは1月、女性取締役を1人以上登用することを大規模上場企業に義務づけた。米証券取引所ナスダックは20年12月、女性のほか、黒人などの人種的マイノリティー(少数派)、LGBT(性的少数派)の取締役登用を義務づける方針を明らかにした。
日本企業も対応に動く。リクルートホールディングスやTDKが20年度の株主総会で初めて女性取締役を選任したのは、機関投資家の圧力と無縁ではない。DMG森精機が3月、熱処理装置の富士電子工業(大阪府八尾市)の渡辺弘子社長を初の女性取締役に迎え入れるなど動きが広がる。
社内の女性を昇格させる例も出てきた。電通は海外事業を担当するウェンディ・クラーク氏を取締役にした。
金融庁と東京証券取引所は近く改定する企業統治指針「コーポレートガバナンス・コード」で、取締役会の人材多様化を企業に求める方針だ。日本企業も女性取締役を登用し始めたが外部から人材を招くことが多く、社内昇格が少ないのも課題だ。
大和証券の山田雪乃氏は「グローバル企業を中心に女性取締役の登用を求める投資家の要請は強まるだろう」と指摘する。
[日経電子版 2021年05月02日 掲載]