転職10年で7回 年収ダウン続いた20代で学んだ極意

経営コンサルタント 村井庸介さん

10年で7回の転職経験を持つ経営コンサルタントの村井庸介さん
10年で7回の転職経験を持つ経営コンサルタントの村井庸介さん

転職にリスクはつきものだ。成長につながる可能性がある一方で、これまで培ってきたスキルが発揮できなくなることもある。それにもかかわらず「何となく」で転職先を決める人が多いと指摘するのは、10年で7回の転職経験を持ち、転職希望者向けセミナーも手がける経営コンサルタントの村井庸介さんだ。20代の失敗経験から学んだ、転職の極意とは――。

――新卒で野村総合研究所に入社し、25歳までに2回の転職を経験しました。

今振り返ると、当時は「転職で必ず失敗する典型的なパターン」に陥っていたと思います。

1社目の野村総研ではコンサルタント職として働いていました。人間関係は良好で、待遇にも不満なし。ただ、先輩と一緒にあるプロジェクトを担当していたとき、顧客からこんな苦言を呈されたんです。「あなたたちは現場のことを知らないのに、正論ばかり押し付けてくる。高額のフィー(報酬)に見合う仕事なのか」。当時は若かったこともあり、この言葉をきっかけに「この仕事をずっと続けていて大丈夫なのだろうか」と不安に襲われるようになってしまった。誰かのビジネスの相談にのるのではなく、自分の手で企画をしたり、事業を起こしたりしてみたい。そんな思いが強くなり、入社3年目でリクルートへの転職を決めました。

「抜け出したい」が先走り

――転職理由は理にかなっているように思えます。

いえ、2つ問題がありました。

1つは、「コンサル業界から抜け出したい」という思いばかりを優先してしまったこと。次の職場にリクルートを選んだのは、「学生時代から知っていて、社風に憧れがあった」という程度の動機。「なぜインターネット業界なのか」「なぜリクルートなのか」への検討が不十分でした。

もう1つは、採用選考では新規事業の企画職を希望していたのに、リクルート側から「営業職で入社しないか」と打診があり、深く考えずに承諾してしまったこと。入社後、人材系サービスの営業部署に配属されましたが、前職でのスキルや経験を生かす余地が全くありませんでした。

コンサル時代は、割り振られた案件で顧客の要望に応えることを求められていましたが、営業職では足を動かして顧客を開拓するところがメーンになります。顧客の意見を取り入れて商品をつくるというより、「既製品」を売っていくスタイルの営業でもあったので、コミュニケーションのしかたも全く違いました。

まるで、野球選手がいきなり「ラグビーをやれ」と言われたようなもの。経験がなさ過ぎて、一向に活躍できなかったんです。日々の仕事をつらく感じるようになり、やがて出社することさえままならない状態になりました。「ここではないどこかへ移らなければ」という思いで2回目の転職を決めました。

――3社目はゲーム会社ドリコムに入社。手応えはどうでしたか。

ゲーム開発を行う事業部で、予算の策定や業務の見直しなど経営企画の仕事に携わりました。職務内容がコンサル時代にやっていたことと近かったので、幸いにも前向きな気持ちで取り組むことができました。

何となく次の職場を決めてしまって失敗する人は多い
何となく次の職場を決めてしまって失敗する人は多い

ただ、成果を上げても、組織や売り上げの規模が大企業ほど大きくないので、ポジションが少なく、役職や給与は上がりにくい。そんなベンチャー企業特有の組織体制に停滞感を覚えるようになり、長続きはしなかったんです。やはり、転職前の検討不足が否めません。漠然とした不安や後ろ向きの感情に突き動かされ、その場の流れで何となく次の職場を決めてしまったという点では、1回目の転職と同じ失敗ルートをたどっていたと思います。結果として、年収も下降傾向に。こういうビジネスパーソンは多いように思います。

「どんな貢献できるか」を第一に

――後ろ向きの感情を動機にした転職がうまくいかないのはなぜでしょうか。

転職する個人と企業、両方に課題があると思います。

まず個人は、自分が転職先の企業に対して「どんな価値を提供できるか」「どんな貢献ができるか」ということを第一に考えなければなりません。その対価として、給与をもらうわけですから。「とにかく今の職場から抜け出したい」という思考で頭がいっぱいになると、その視点が抜け落ちてしまいがちです。

そういう求職者は企業側が不採用にすればいいと思うかもしれません。しかし、限られた選考スケジュールの中で、「本当に活躍できる人材なのか」を見極めるのは難しい。さらに、中途採用の募集をかけるときというのは、企業側も人手が足りなくて切迫した状況に置かれていることもよくあります。

こうした事情が重なると、入社後のミスマッチが起こります。

――「入社後にどんな貢献ができるか」は、選考過程で必ず問われます。一方で、事前の検討が不十分でも、企業側が採用してしまう場合もある。では、「検討が十分かどうか」というのは、個人としてどう判断すればいいのでしょうか。

まずは知人・友人に相談を
まずは知人・友人に相談を

確かに、志望動機や自己PRを述べるとき、「私は御社でこんな貢献ができます」というメッセージは必ず含めますよね。まずは少し冷静になって、その宣言が自分自身として胸を張れる内容かどうかを振り返ってみてください。これまで経験してきた職務やその難易度、上げた成果の内容など。過去と照らし合わせて考えたとき、「できないこと」を「できる」と言っていないか。「やりたくないこと」を「やりたい」と言っていないか。素直に向き合うことが大切です。

とはいえ、自分を客観視するのは難しい。お勧めは、挑戦しようとしている業界や職種で働く知人・友人に、相談相手になってもらうことです。考えた志望理由や自己PRの内容をぶつけて、「率直な意見を聞かせて」と頼んでみる。「スキル面では申し分なさそうだけれど、業界のこういう仕事のスタイルは合わないのでは」など、人となりを知っているからこその助言を得られることもあります。相談できる相手が身近で見つからなければ、有料のキャリア相談やコーチングのサービスを活用するのもいいでしょう。転職活動は「独りぼっちでやらない」ことが大切です。

(ライター 加藤藍子)

村井庸介(むらい・ようすけ)
大学卒業後、野村総合研究所に入社し、通信業・製造業の経営コンサルティングに携わる。その後、リクルート、グリー、日本アイ・ビー・エムなどで、法人営業・戦略企画・人事の仕事を歴任。メガネスーパーを経て独立し、複数企業の取締役を務める。近著に『ずらし転職』(ワニブックス)。転職希望者向けのキャリアセミナーも実施している。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年03月17日 掲載]

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