次世代リーダーの転職学

新しい職場はリモート 組織になじむための5つの行動

エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子

オンラインで自己紹介する機会も増えてきた(写真はイメージ =PIXTA)
オンラインで自己紹介する機会も増えてきた(写真はイメージ =PIXTA)

まもなく新年度がスタートします。転職、あるいは異動や出向などにより、新しい組織に入る人も多いことでしょう。新しい組織になじんで、人間関係を一から構築するのは、ただでさえパワーを要するものですが、今年はさらにハードルが上がっています。新型コロナウイルス禍がいまだ収束に至らず、リモートワークを継続している企業が多数あるからです。入社・異動していきなりリモートワーク中心になる人は少なくないと思われます。今回は、リモート環境でも新しい組織になじみ、本来の自分の力を発揮するためにはどう行動すればいいかをお伝えします。

リモート環境での悩み 「新しい組織になじめない」

近年、人事や採用関連で「オンボーディング」というワードが一般化してきました。オンボーディングのもともとの意味は「飛行機や船に乗り込む」。ここから広がって採用活動における「受け入れ」~「定着・活躍」のプロセスをオンボーディングと呼ぶようになりました。新メンバーが早く活躍できるよう、人事や受け入れ組織がサポートする施策を指します。

入社・異動後、6カ月間の過ごし方により、その後の定着率が大きく変わってくるという調査データがあります。近年の採用難を背景に、「せっかく採用できた人材を逃してはいけない」と、企業の人事担当者たちはオンボーディングプログラムの強化を図ってきました。

そして、コロナ禍においても、各社は面接をオンライン化すると同時に、リモートワーク環境下でのオンボーディングの手法を模索してきました。先進的な企業ではその施策が効果を上げているケースもありますが、多くの企業はまだまだ試行錯誤の段階といえるでしょう。

そこでお伝えしておきたいのが、「オンボーディングがうまく機能していない会社」「そもそもオンボーディングに無頓着な会社」が少なくない現実です。皆さんがこの春に入っていく会社や組織が必ずしも手厚いオンボーディングを用意してくれているわけではないということです。

おそらく戸惑うこともあるでしょうし、それによってモチベーションを落としてしまうかもしれません。実際、新卒・中途採用共に、入社直後からリモートワーク中心となった人たちの中には「放置されていて、孤独を感じる」「自分が必要とされている実感がない」と悩んでいたり、早期に辞めてしまったりするケースが少なくないようです。まずは、そうした事態に陥ってしまう危険性があることを心に留めておいてください。

自分でできる「セルフオンボーディング」を意識する

そこで、新しい組織に早くなじみ、仕事がしやすくなるために、会社や上司がフォローしてくれるのを待つのではなく、自身から積極的に働きかけていくことをお勧めします。つまり「セルフオンボーディング」です。例えば、次のような行動を心がけてみてはいかがでしょうか。

・入社前・組織加入前からオンラインミーティングに参加させてもらう

実際に組織に入って稼働する前から、チームメンバーと接点を持つ機会を作っていきましょう。例えば、「私が参加しても差し支えないオンラインミーティングがあれば、参加させていただけませんか」と、人事あるいは配属先の上司に相談してみてください。

メンバーたちが議論している様子を見聞きするだけでも構いませんが、議事録の作成などを引き受ければ、より受け入れられやすいと思います。

議論の内容はまだ理解できないとしても、それぞれのメンバーの立ち位置や役割、考え方、価値観などはある程度つかめるはずです。

・詳細な自己紹介を、グループの連絡・情報共有ツールへ投稿

ビジネスチャットツールを活用している企業も多いと思います。そのグループチャットへ、なるべく詳しい自己紹介シートを投稿するのもお勧めです。

自己紹介シートには仕事上の経歴だけでなく、いくらかプライベートな情報を記します。例えば、出身地や過去の居住地、家族構成、趣味、特技、休日の過ごし方、最近ハマっているもの、好きなスポーツ・映画・ドラマ・本・アーティスト・タレント、学生時代のサークル活動などです。

このように多面的に情報を発信しておくと、他のメンバーたちは何かしら自分との接点を見つけて話しかけてきてくれるものです。「僕もサッカーやってたよ」「あなたの息子さんとうちの娘、同い年だ」といったように。

そんなちょっとした雑談から距離が縮まったり、お互いのキャラクターがつかめたりするものです。それによって、仕事上のコミュニケーションもスムーズになるはずです。

オフィスで毎日顔を合わせていれば自然に打ち解けやすいものですが、リモート環境では互いに「どんな人かよくわからないから」と感じがちで、コミュニケーションのきっかけがつかみにくいものです。そこで、自分自身が「話題のネタ」を提供するつもりで、自分に関する情報をオープンに伝えてみてください。

もちろん、仕事において得意なことも伝えておきましょう。「データ分析が得意です」「この分野のリサーチなら任せてください」などです。

そうすれば、周囲の人は「この人にこれを頼んでいいんだ」と安心して依頼ができ、あなた自身も自分の強みを発揮できます。「組織に貢献できている」という実感が得られれば、リモート環境下でも孤立を感じる状況に陥ることは起こりにくくなるでしょう。

・「バディ」を付けてもらう

新卒入社者などであれば、先輩社員が「指導担当」として付くものですが、中途入社者の場合、そうした対応のないケースが珍しくありません。わからないことがあるとき、業務に関わることであれば、上司やプロジェクトリーダーなどに質問すればいいのですが、職場のルールや習慣などについては「誰に聞けばいいんだろう」と迷うこともあるでしょう。

そこで、最初の段階で「ちょっとしたことがわからないとき、質問や相談ができる相手を決めておいてほしい」と、人事や上司に掛け合ってみてください。メンバーの中でも「面倒見がいい人」を選んで、サポート役として付けてもらえるのではないでしょうか。

新入社員のオンボーディングの施策として「バディ制度」を設けている企業もあります。バディとは「仲間」「相棒」の意。新入社員と先輩がペアを組み、新入社員がアドバイスや指導を随時受けられる体制です。

中途採用の場合は、必ずしも年齢やポジションが上の「先輩」でなくても、その会社のルールや習慣をよく知っている人がバディとなってくれれば心強いでしょう。関係を深めたバディがその後のキャリアデザインや人生においてよきメンターとなってくれるような発展があれば、まさに理想といえます。

・上司と定期的に「振り返り面談」を行う

最近は上司と部下の定期的な「1on1」(1対1の面談)を制度として運用している企業も増えていますが、組織が未熟なスタートアップやベンチャー企業では、「面談」が制度化されていないケースも多いようです。業務に関するミーティング以外に、「この会社で働いてみてどう感じるか」をじっくり話し合う機会がない。そのせいで、何かのきっかけで生まれたモヤモヤ感を抱き続けてしまうこともあります。

そこで、自分から上司に対し、「週1回、定期面談の時間をください」などと相談してみましょう。入社から「3カ月間」「半年間」など期間を決め、その期間中の面談日程をあらかじめ確保してもらうのも有効です。本来業務以外でモヤモヤ感を抱くことがあれば、この場で解消するようにしてください。

・同期とつながっておく

中途採用者の場合は「同期」がいないケースも多いのですが、近い時期に入社した人がいる場合、「同期」と見なしていいでしょう。連絡先を共有して「同期会」などを開き、お互いが持っている情報やナレッジ(知見)を共有してはいかがでしょうか。

今はオンライン化のおかげで、他拠点にいる同期ともコミュニケーションをとりやすくなっています。人事担当者につないでもらうなどして、職場のチームメンバーとは異なる「仲間」をつくることをお勧めします。

以上、新しい組織になじむための行動のポイントをお伝えしました。「放置されている」「孤独だ」と嘆くことになる前に、自分から周囲の人たちとつながりをつくっていきましょう。

森本千賀子
morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊「マンガでわかる 成功する転職」(池田書店)、「トップコンサルタントが教える 無敵の転職」(新星出版社)ほか、著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年03月26日 掲載]

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