世界120位、企業が女性登用を進めない3つの言い訳

編集委員 石塚由紀夫

女性閣僚が少ないことも日本が男女平等度で世界下位とみなされる一因だ(2020年9月、首相官邸)
女性閣僚が少ないことも日本が男女平等度で世界下位とみなされる一因だ(2020年9月、首相官邸)

世界経済フォーラム(WEF)が3月31日に世界各国の男女平等度(ジェンダー・ギャップ指数)を発表した。日本は120位(156カ国)で世界下位グループがすっかり定着した。男女不平等は根源的な人権問題にとどまらず、こと経済に関しては人材の有効活用ができずに潜在的な成長力をおとしめる。遅々として進まない日本企業の女性活躍。前例にとらわれない大胆な手が問題解決に不可欠だ。

「先進国で最低レベル。特に経済と政治のスコアが低い」。加藤勝信官房長官は3月31日の定例会見で日本120位の現状をこう分析した。分野ごとに女性の登用をどう進めるか。6月策定予定の女性活躍重点方針に具体策を盛り込むと重ねて強調した。

ジェンダー・ギャップ指数はWEFが毎年まとめている。基になるのは経済、政治、健康、教育の4分野14項目の統計データだ。

例えば経済分野の管理職については(管理職に占める女性割合÷男性割合)で指数化する。各スコアは0が完全男性優位で1に近いほど平等度は高い。

2021年の日本は健康(スコア0.973、順位65位)と教育(同0.983、同92位)は高水準だが、経済(同0.604、同117位)と政治(同0.061、147位)が振るわない。WEFがジェンダー・ギャップ指数の発表を始めた06年当時から、経済と政治が足を引っ張る構図は不変だ。

日本の19年女性管理職比率は14.8%にとどまる。政府は03年に「20年までに30%」という目標を設定したが、半分にも至らず、昨年末に「20年代の可能な限り早期に30%」と再設定を余儀なくされた。

なぜ女性の登用が進まないのか。企業サイドに聞くと3つの理由が浮上する。①登用したくともポストに合う女性がいない②女性がなりたがらない③そもそも女性社員が少ない――だ。いずれももっともな理由のようだが、真偽をしっかり吟味し、対策を真剣に考えないと状況はいつまでも改善しない。

まずは①ポストに合う女性がいない。げたを履かせた登用は適材適所に反し、男性に対する逆差別だとする主張もよく聞く。だが、管理職世代の女性社員を育てようとしてこなかった無作為の責任が企業にはある。

日本の人材育成はOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が基本だ。新卒一括採用と終身雇用を前提にゆっくり現場で育てる。成長につながる良質な仕事をどれだけ任せてもらえるかで実力に差が開く。公益財団法人21世紀職業財団の調査では、管理職の約30%が困難であったり責任の伴ったりする仕事を男性部下に優先的に与えている。ちなみに女性優遇は皆無だ。30%は想像以上に重い数字だ。

新入社員は一般的に入社後10年程度で3つの異なる部署を異動し、仕事を覚える。男女分け隔てなく仕事を割り振る管理職と出会う確率は70%。3つの部署すべてで男女平等な上司に恵まれる確率は70%×70%×70%で34%にすぎない。初期キャリアで女性の3人に2人は同期入社男性より経験が不足する。

どうすれば経験不足に陥らずに済むか。ダイキン工業は15年にスポンサー制度を導入した。将来を期待する女性社員に男性役員をスポンサー(=支援者)としてマンツーマンで付ける。重要な会議に同席させ、意思決定の仕方を実体験させるほか、直属上司や人事部門に働きかけて成長に役立つ部署への異動やプロジェクト参加を実現する。これまで8人の女性にスポンサーを付け、うち7人は管理職に昇格した。5年以内には初の生え抜き女性役員も育てる。井上礼之会長は「げたを履かせた無理な登用は必要ない。潜在能力に男女差はないのだから、鍛える場を適切に与えれば女性は自然と育つ」と説明する。

次に②女性が管理職になりたがらない。「なりたがらない」理由を冷静に考える必要がある。同性の先輩が当たり前のように出世していく男性社員と違い、女性社員は同性の管理職に出会う機会が少なく、自分が管理職になった姿を現実的に描けない。実態が分からない不安が昇格をためらう一因になっている。

三井住友海上火災保険は昨年11~12月に「マネチャレ」(マネージャー・チャレンジ)を実施した。23人の女性社員が4日間、部下を持つ管理職の仕事と役割を丸々引き受けた。営業会議に参加して戦略を練ったり、部下に仕事を割り振ったり、部署の将来プランを立てたりした。一緒に働いていても管理職が実際にどんな重責を負い、どんな仕事をしているかは意外と分からない。管理職の生身の姿を知ってもらう狙いだ。

マネチャレ参加前、23人全員が「昇格に興味はない」と答えた。だが4日間の代行経験を経て、22人が「いずれ管理職になりたい」と意識を変えた。部下を動かし目標を達成するダイナミズムに責任の重さを感じる一方、それに見合うやりがいも発見したからだ。「男性は仕事の面白さを男性部下に積極的に伝えるが、女性部下には伝えない。マネチャレを経験し、女性部下に伝える意義を再認識した男性管理職もいた」(人事部)

最後に③女性社員が少ない。対策は単純明快。即効性はなくとも採用数を増やすことだ。丸紅は総合職の新卒採用に占める女性比率を3年以内(24年春入社)に40~50%に高めると今年明らかにした。かつては1桁台だったが、ここ数年採用を増やし、20~30%まで高めてきた。だが、まだ足りないと取り組みを加速する。柿木真澄社長は今年の年頭あいさつでその理由を「環境変化に柔軟に対応していくには同質的な集団からの脱却が必要不可欠」と社員に説明した。

金融庁と東京証券取引所は3月31日に有識者会議を開いた。上場企業の行動原則を記すコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改正案を議論した。これまでの議論を踏まえて、この日に示された改正案には女性や外国人、中途採用の管理職への登用促進策として数値目標の公表を企業に求める項目が追加された。

「目標をいつ達成するか。ピリオドも企業に求めるべきだ」。会議メンバーの一人で、世界最大規模の投資家グループである国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)のケリー・ワリング最高責任者は改正案に意見を述べた。ICGNに参加する機関投資家の資産総額は54兆㌦(約5900兆円)に上る。女性をはじめとするダイバーシティー(人材の多様性)が企業価値の向上に結びつくことはいまや世界の常識だ。機関投資家は日本企業の動向を厳しく見守っている。女性を登用できない言い訳は世界に通用しない。大胆な手を打たない限り、日本企業はますます世界の潮流に取り残されていく。

[日経電子版 2021年04月09日 掲載]

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