週休3日や職住接近 中部IT、人材確保へスマート勤務

中部のIT(情報技術)企業が新型コロナウイルス感染拡大を機に、相次いで働き方の見直しに乗り出している。背景にあるのはITエンジニアの採用難だ。柔軟な労働環境を用意することで人材確保につなげる狙い。都心の拠点を住環境の良い郊外に移して職住接近を促したり、定時勤務を撤廃して自由な休暇取得を可能にしたりする。

スタメンの新しいオフィス(神奈川県鎌倉市)
スタメンの新しいオフィス(神奈川県鎌倉市)

社内交流アプリ「TUNAG(ツナグ)」を手がけるスタメンは19日、東京・五反田にある関東の拠点を神奈川県鎌倉市に移す。新たなオフィスは鎌倉駅から徒歩1分の好立地だ。職住近接を促すため、同駅から20分以内の駅近くに居住すれば、月2万円を上限に住宅手当を支給する。

顧客の多い東京都心からは距離があるが、コロナ禍でオンラインの商談が多くなり大きな問題はないという。担当者は「余暇も充実するようワークライフバランスを重視した」と話す。

勤務時間のコアタイムを定めないフルフレックス制度を2021年に導入したのは、迷惑電話ブロックサービスを手がけるトビラシステムズだ。以前は午前9時から午後6時までを定時としていた。新制度では1日あたりの勤務時間を定めず、月単位で「8時間×平日数」を規定とする。1日の労働時間を長くして「週休3日」とすることも可能。長めの連休も自由につくることができる。

誰がいつ働いているかが分かるように、全社員の勤務スケジュールはオンラインカレンダーで開示する。明田篤社長は「各社員の稼働状況を共有することで、仕事の引き継ぎなどがスムーズになる」と話す。

IT企業が働き方の改善を推し進めるのは、コロナ禍でもエンジニアの採用が激戦となっているからだ。労働市場全体では人手不足が緩和したとはいえ、エンジニア不足の状況は変わってない。転職求人サイト「doda」によると、2月の職種別転職求人倍率(全国)は、技術系(IT・通信)が8.7倍で全体(1.9倍)を大きく上回る。

成長著しいIT企業にとって、働きやすく魅力的な環境整備は、優秀な人材を集めるために不可欠な要素だ。コロナ禍で在宅勤務が普及したことをきっかけに、各社は勤務制度の柔軟化に工夫を凝らしている。

在宅勤務だけでは難しい人的交流に目配りする企業もある。政府による1回目の緊急事態宣言が出された20年4月以降、平均8割の社員が在宅勤務を続けるゲーム開発のエイチームだ。4月から入社1~2年目の社員は毎日出社とし、その上司も必要に応じて出社する。企業文化や社会人の基礎の定着、新人同士の交流促進に配慮した。

在宅勤務拡大で空席が目立つエイチームのオフィス
在宅勤務拡大で空席が目立つエイチームのオフィス

同様の対応をとる企業は少なくない。就職情報大手の学情が企業の人事担当者にアンケートしたところ、82%が「新入社員は定期的に出社の機会を設ける」と答えている。

ただ、エイチームは会社全体で在宅勤務を継続する方針には変わりはない。オフィス設備に余裕が生じたことから、2月末には名古屋と大阪を縮小し、福岡からは撤退。年1億円の経費削減にもつなげる。社長室長の光岡昭典執行役員は「全員出社に戻ることはもうない」と強調する。

長びくコロナ禍のいま働きやすい制度や環境を整えることが、「アフターコロナ」で成長を続けるカギとなりそうだ。

(田崎陸)

[日経電子版 2021年04月09日 掲載]

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