
イオンが事業と組織の両面でデジタルトランスフォーメーション(DX)を急ピッチで進めている。新型コロナウイルス下で利用者が急増したネットスーパーのようなサービスを伸ばすだけでなく、売上高8兆円超で約58万人の従業員を抱える「巨艦」の効率化にも欠かせない。カギを握るデジタル人材の獲得と育成について、人材育成部長の近藤良策さんに聞いた。
成長領域に欠かせず

デジタル人材の獲得・育成は経営上の重要課題です。イオンは中期の成長領域として①デジタル②健康③環境④地域⑤アジアの5つに注目しています。デジタルは最重点テーマの1つで、DXを推進する上でも専門人材が必須です。
デジタルといってもその内容は様々です。デジタル技術の導入で既存店の価値を高めることもあれば、顧客データの基盤を今以上に整備して有効活用することやスマートフォンのアプリ開発も欠かせません。
さらに英ネットスーパー大手のオカドと提携して2023年に始める次世代ネットスーパーというデジタルによる新事業があり、デジタル化による本部業務も効率化も必要になっています。広範囲の企業活動においてデジタル化を進めなくてはなりません。
14億人のビッグデータ
いずれも必要なのは専門性の高いデジタル人材です。ただ、従来イオンの採用は新卒の文系人材が中心。デジタル人材の採用が十分とは言えませんでした。そこで専門性の高い中途人材を積極的に採るべく、様々な手を打ち始めています。
まず社外のデジタル人材に向けて、イオンの認知度を高めるブランディング活動や母集団づくりに取り組んでいます。例えば20年2月にテック系人材向けの採用イベントを初開催し、デジタル領域で活躍機会があることを広く伝えました。イオンモールの年間来店客数は14億人にのぼります。そこには膨大な顧客データがあり、他社にないビッグデータ関連の仕事の可能性が大いにあります。

21年2月にも2回目のテック人材イベントを開きました。今回はオカドとのネットスーパー事業を担う会社と、DX統括会社の新設2社をテーマに参加者と議論を進めました。
人事制度も合わせて構築
イオンはグループとして高度なデジタル人材を22年2月期から2年間で、まず年300人を採用する計画です。採用活動は各事業会社が主体となりますが、専門性の高い人材が十分に活躍してもらえるように人事制度を合わせて構築していく必要があります。
たとえ人材を採用できたとしても、各事業会社の既存の人事体系ではマッチしないケースも出てくるでしょう。ここは早急に対処し、グループとしての方針を示していく方針です。既存の仕組みに課題意識を持ちながら、あらゆる人材が活躍できる土壌作りを進めていきます。
(聞き手は古川慶一)
[日経電子版 2021年04月07日 掲載]