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入札転職や体験入社...「ベストマッチ」探る新サービス

画像はイメージ=PIXTA
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転職希望者と採用したい企業、双方の「納得度」向上をめざす新しいサービスが相次いでいる。入札方式で「自分にはどの程度の価値があるのか」を見える化したり、体験入社で「実際の職場」への理解を深めてもらったり。転職に不安を抱く求職者や、自社に合った人材を効率的に獲得したい企業のニーズをつかんでいるようだ。

◇  ◇  ◇

転職サイトなどを運営するリブセンスの競争入札型の転職サービス「転職DRAFT(ドラフト)」はITエンジニア向けの転職支援サービス。転職を希望するエンジニアに、採用したい企業が年収などの条件を提示して入札する仕組み。エンジニアがその提案条件に興味を持てば「選考に進む」「面談をする」といった次のプロセスへと進む。

エンジニアの佐藤大典さん(35)は2020年7月に転職ドラフトを通じて、スマートフォンを使った飲食店向けの注文・決済システムを手がけるスタートアップ、Showcase Gig(ショーケース・ギグ、東京・港)へ転職した。前職はオフォス用品を扱う大手電子商取引(EC)企業で、自社通販サイトの開発やエンジニアチームのマネジメントを担当していた。会社に不満はなかったが、担当したプロジェクトが終わり、「次のステージに進む頃合いかも」と考えた。

転職ドラフトを利用したのは「エンジニア仲間で話題になっていた」のがきっかけ。「年収アップというよりも、自分の経験が他の企業からどう評価されるかに興味を持ち、申し込みました」という。

採用の不透明さ解消めざす

通常の転職活動では、年収などの条件が提示されるのは最終面接か、内定してからという。リブセンスで転職ドラフトを担当する中西晶大ユニットリーダーは「採用の不透明さを解消したいと考えました」とサービス開発の理由を説明する。

ユニークなのは、ほかのエンジニアの経歴や入札額もわかる点。ほかの求職者と比較することで、自分の市場価値をある程度客観的につかむことができる。

ショーケース・ギグに転職した佐藤大典さんは「あえてマネジメントの経験を中心にする経歴にしました」と語る
ショーケース・ギグに転職した佐藤大典さんは「あえてマネジメントの経験を中心にする経歴にしました」と語る

佐藤さんと同じ時期にエントリーしていたほかのエンジニアは、経歴欄で技術力を強調するケースが多かったことから、「あえてマネジメントの経験を中心にする経歴にしました」という。

エントリー情報については、入札企業だけが見られるデータもある。佐藤さんは「その部分で評価が分かれることもあるのではないか」と語る。仕事の内容がほぼ同じなのに、2つの会社から異なる年収を提示されたこともあったという。「選考の段階で確認しなければわからないことも少なからずあると思います」と振り返る。

転職ドラフトでは求職者の経験やスキルを重視、エントリーに際して独自の審査を課している。技術にとどまらず、経歴などについて分かりやすく、かつ詳しく書いてあるかどうかも重要という。運営側も必要に応じて改善点などを指導している。こうした取り組みからか、「採用企業にとっては、エンジニアとの面接にたどり着ける確率が高い点も魅力だと思います」(中西氏)という。

人材サービスのスタートアップ、体験入社(神奈川県鎌倉市、松本聖司代表)は、募集企業の仕事や職場などを紹介する動画配信サービスや、半日から1日ほどかけて実際に社内の見学や業務の体験、社員と歓談できるサービスを提供している。

「転職サイトや人材紹介といったこれまでの転職手法では、企業の表面的な情報しか得ることができません。それをしっかりと伝えられる方法はないかと考えて、たどり着いたのが体験入社サービスです」と、松本代表は説明する。設立から約1年で約50社が導入した実績があるという。

大切なのは「誰と一緒に働くか」

半導体製造装置メーカーのアペックス(東京・港)に転職、産業機器部で働く斉藤優斗さん(仮名、25)はこのサービスの利用者の一人。前職はIT企業のサーバー運用オペレーター。契約社員での採用で、3年後には正社員に登用されると聞いていたが、「入社してみると10年以上契約社員のままの人もいて、正社員になれるチャンスはほとんどないと感じた」という。

「入社してみたら聞いていた話と違った」「思っていたような雰囲気ではなかった」――。転職を経験した多くの人は、思い当たることがあるのではないだろうか。斉藤さんは以前に勤めたほかの会社でも、同じような経験をしていた。

1社目の会社に勤めたときのことだ。「和気あいあいとした明るい雰囲気と聞いていたのに、実際はかなり厳しい職場で、未経験者に仕事を教える体制も整っていなかった」ことから早々に退職。「自分にとって仕事選びで大切なのは、どんな仕事をするかではなく、誰と一緒に働くか」と話す。

斉藤さん(中央)は「仕事選びで大切なのは誰と一緒に働くか」と話す
斉藤さん(中央)は「仕事選びで大切なのは誰と一緒に働くか」と話す

今回の転職にあたっては「入社前に社内を見学させてくれる会社はないか」と探していたところ体験入社のサービスと出合った。

転職に動いたのが昨年2月だったこともあり、実際に職場を訪れることができた。入社した場合の配属先となる部署の会議に出席したほか、さまざまな部署を見学。「なじみのない分野の会社でピンとこなかったのですが、各部署の仕事内容を聞いていくうちに、事業の全体像が見えてきました」という。締めくくりは社員数人とのランチミーティングで、体験入社は4時間ほどで終わった。

特に印象に残ったのは、実際に入社した場合の上司となる社員と直接話せたことだ。「商品について何も知らず不安だというと、『自分も最初は詳しくなかったから心配はいらないよ』と笑いながら答えてくれた」。ランチのときには「実は会社を辞めようと思ったことがある」と苦労話を打ち明けてくれた。「普通なら入社希望者には避ける話題なのに、何も隠さずに信頼できる人たちだと感じました」と斉藤さんは話す。

斉藤さんを採用したアペックスが「体験入社」を利用したのは「これまで多くの転職サイトや人材紹介会社を利用してきたが、手応えはいまひとつ。入社した社員が定着しない点も気になっていた」(人材採用を担当する岡村圭一さん)ためだ。

会社の魅力がうまく伝わらない

会社の魅力がうまく伝わっていないと考え、社員の紹介や推薦による「リファラル採用」も試したが、採用できる人数が限られる。体験入社では「斉藤さんの入社で手応えを感じた」といい、体験入社動画の作成も依頼。動画に登場するのはモデルだが、自社サイトや動画配信サイトなどで公開して採用活動に活用している。

サービスを提供する体験入社側も、情報の真偽には注意を払っているという。同社は「動画を公開することで『隠すことがないホワイト企業である』というブランディングにもつながると思います」(松本代表)としている。

「自らの評価の透明性」や「転職先の内情を事前に知ること」で、転職者はより満足度の高い転職を実現し、求人企業も自社に合う人材の獲得がより容易になる。転職が一般的となるなか、マッチングへのニーズは今後さらに増していきそうだ。

(ライター 山影誉子)

[NIKKEI STYLE 出世ナビ 2021年02月27日 掲載]

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