
口中清涼剤の仁丹で知られる森下仁丹では、「第四新卒」と名付けて中途採用した40~50代が管理職などで活躍している。中途採用では若手に目を向けがちだが、採用抑制に伴い不足していた管理職を埋めるため中高年に着目。9人が新たな企業文化を持ち込みながら、研究開発などの分野でリーダーとなっている。
ヘルスケア事業本部副本部長の川上宏智さんは第四新卒として入社した一人だ。健康食品の企業などに勤めた後、2017年に移ってきた。若手の研究員らと医薬品や健康食品の研究に取り組んでいる。転職活動をしていた当時は中高年の中途採用は経営トップ層の採用が中心で、「森下仁丹のように広く人材を受け入れてくれる会社は少なかった」と振り返る。
森下仁丹が第四新卒の採用を始めたのは17年3月。新卒で就職したが短期間で転職する「第二新卒」、大学院の博士課程修了者などの「第三新卒」に次ぐ形として、経験のある中高年を第四新卒と独自に呼んだ。最初の1年間は宣伝に資金を投じ、応募者は2200人に上った。その後も第四新卒とは大々的には打ち出しはしないものの、中高年の中途採用を続けている。

発案したのは、総合商社から森下仁丹に転職した駒村純一前社長だ。業績の悪化で00年代に新卒採用を一時抑制していたため、社内の年齢構成が崩れ「若手社員をリードする中間層が不足していた」(経営企画室)。そこで他社の中高年に目をつけたのだった。
社風を変える狙いもあった。主力の仁丹は1980年代をピークに売上高が減り、06年3月期まで最終赤字が目立った。新たな収益源を探るなか、保守的な雰囲気を変えるチャレンジ精神のある人を求めていた。
過去の経歴も年齢も不問とした第四新卒は大きな反響を呼んだ。IT(情報技術)や大学職員など多様な職歴を持つ人が応募し、なかには70代もいたという。
第四新卒での採用者は今やチームのとりまとめ役となり、「若手が自分の仕事に集中でき、研究テーマの提案も増えてきた」(川上さん)。研究論文の数も以前の2倍以上になった。
過去の人脈を生かし、外部との共同研究も増えている。関西医科大学や岐阜大学など16の大学と、腸内環境を整える細菌の研究などを進めている。新商品につながると社内で期待が高まっている。(泉洸希)
[日経電子版 2021年04月05日 掲載]