転職活況デジタル人材 年収1割増、キャリアも構築

リクルートキャリア 山下志乃シニアコンサルタント

コロナ禍でもインターネット業界の求人需要は根強いという(写真はイメージ、PIXTA)
コロナ禍でもインターネット業界の求人需要は根強いという(写真はイメージ、PIXTA)

ビジネスパーソンにとって最も気になるのが、キャリアステップや収入の将来像をどう描くか、ではないでしょうか。目まぐるしく変わる環境の中、キャリアとお金をどう考えたらよいのでしょう。識者からのアドバイスや考えるヒントを連載します。今回はインターネット業界で数多くの転職支援を手がけてきたリクルートキャリアの山下志乃シニアコンサルタントです。

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「5~10年後には、こういう仕事をしていたい」「だから今こそ、必要なスキルを身に着ける機会のある会社に転職したい」

新型コロナウイルス禍を機に、自身のキャリアを今一度考え、目の前のキャリアだけではなく、時流を読み中長期のキャリアを考える方が増えてきています。

将来のありたい姿を明確にして、そこまでのステップを現状から逆算することが大事。そう分かっていても、「言うは易し、行うは難し」。

実際にキャリアアップに成功された人は、どのような考え方で転職したのか? 実際の例を紹介しながら解説します。

中途採用は引き続き活況なインターネット業界

私の担当するインターネット業界は、コロナ禍でも最も求人数の回復が早かった業界の1つで、現在も採用活動は非常に活発です。背景には国内外のあらゆる業種でサービス経済化、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが加速しておりBtoB(企業向け)・BtoC(消費者向け)共にサービスのすそ野が広がっていることが挙げられます。また、インターネット業界での経験のある人は異業界からも引き合いが強くなっており「社長直下でDX推進室を立ち上げたい」「社内のあらゆる業務をDXで改善したい」「デジタルを活用した新規事業を立ち上げたい」といったお話もよく頂くようになりました。そのため、インターネット業界から異業種への転職が増えてきているのも特徴です。

求職者側の動きとしては、2020年上半期までは「様子見」で転職活動を控える人が多かったものの、ウィズコロナを前提に動きも活発になってきました。

ただ、事業環境の変化が激しい業界だからこそ、中長期のキャリアを見通すことは難しいことも事実。そんな中でも自分の軸を明確に持って転職し、着実にキャリアアップを実現した方がいらっしゃいました。

事業会社で自社のデジタルサービスに携わりたい

Aさん(30代後半) 「異業種×同職種」転職
前職       :中堅WEB制作会社/WEBディレクター
現職(転職先)    :大手製造業マーケティング事業部/WEBディレクター
年収       :約600万円→約680万円(想定年収)
世帯       :夫婦と子供2人

Aさんが相談にいらっしゃったときは、「大手事業会社に転職し、その企業のデジタル企画に携わりたい」というご希望でした。

面談を通してAさんの経験や強みを棚卸ししていくと、現在は中堅企業のクライアントを中心としたWEB制作会社で、クライアントの意向にそったコーポレートサイトやキャンペーンサイト制作のプロジェクトマネジャーの経験が豊富でした。しかし、制作ディレクションやプロジェクトマネジメントが軸であり、顧客のデジタル戦略設計やマーケティング企画の経験はありませんでした。

インターネット業界全体としては求人も活況で募集が多いのは事実ですが、変化の激しい業界だからこそ、背伸びをして入社してから大変な思いをする人もいらっしゃいます。

私はAさんに「今すぐに事業会社に行くのではなく、まずは有名ブランドを持つナショナルクライアント向けに戦略提案から手がけられる会社でデジタル戦略設計の経験を積み、数年後に確実に事業会社に転職できるようなキャリアを積むのはいかがでしょうか」と提案しました。

Aさんも「子どもの年齢も考え、ある程度は家庭の時間も大事にしたい」とのことで、無理のないキャリアアップを希望されており、納得いただけました。そこで戦略設計から企画提案まで携わることのできる、大手制作会社のポジションを探すことになりました。

「ナショナルクライアント向けのWEB戦略提案から携われる制作会社で経験を積み、数年後に事業会社にチャレンジする」という「WILL(ありたい姿)」が明確になったAさん。

そこからは、Aさんの今までの経験を丁寧に棚卸しして、「CAN(専門スキル・ポータブルスキル)」を整理していきました。

その後5社の面接を受けて、最終的には事業会社でありつつ、他の大手企業の案件を手掛ける制作部のディレクター職として転職を決められました。決め手となったのは、WEBの戦略設計からクライアントに深く入り込んだ提案ができ、戦略を描く力や企画力を身に着けられる機会があること。そして、制作部から別部署である自社サービス(プロダクト)の事業部へのキャリアパスの可能性もあることでした。

少し具体的に数年後のやりたいことやキャリアを考えてみる

Aさんは年収アップが一番の目的ではありませんでしたが、結果的には経験が評価され、年収もアップする形での転職となりました。何より「今の会社ではまず積むことのできない経験を積み、数年後には事業会社にチャレンジする」というキャリアの見通しが明確になったことで、非常に前向きな転職を実現することができました。

このように、目先のキャリアだけでなく5年後、さらには10年後にどうなりたいのかという中長期スパンでキャリアを見通すことで、今どういう経験を積む必要があるのかが明確になり、必要があれば転職するという選択肢も見えてきます。

それはキャリアだけではなく、自分の「生き方」としてどうありたいかにもつながると思います。

人生100年時代。社会に出てからも、会社の中堅といわれる年代になっても、仕事で何を成し遂げたいのか、ご自身の人生の時間をどう使うのか、立ち止まって考えてみることはとても重要だと思います。

最近ではキャリアの描き方も多様化しており、本業と副業の両軸で人生のキャリア設計を描く方も増えてきています。

「キャリアをどう考えればいいか分からない」という方は、まず今までより少し具体的に、「何年後に何をしていたいのか」「それは今の会社でできるのか」を考えてみることから始めてみることをお勧めします。

我々のような転職エージェントに相談してみるのも手です。第三者からみると、自分が思っているより多くの選択肢があるということもあります。転職前提ではなくとも、「キャリアの棚卸し」もかねて、ご相談いただけるとよいのではないかと思います。

「キャリアを常に棚卸しすること」「ベテランといわれる世代になった後も将来なりたい姿を常に思い描くこと」「常に社内外を問わず選択肢を持っておくこと」

これらは、変化の激しい今の時代だからこそとても大事なことではないでしょうか。

山下志乃
リクルートキャリア エージェント事業本部 シニアコンサルタント 
リクルートキャリア入社以来、一貫してIT・インターネット業界を担当。大手IT業界法人営業、2001年以降はIT・インターネット領域のキャリアアドバイザー。その後ハイキャリア専門事業立ち上げ、シニアコンサルタントとして従事。現在はインターネット領域のキャリアアドバイザーを担当。現在までに1500人以上の方の転職支援を実現。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年03月03日 掲載]

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