AIで事務が消える... 明治安田生命、女性1900人を転換

働き方innovation 多様性、生かせてますか

4月から事務サービス・コンシェルジュとして働く明治安田生命の張替美紀さん㊧。営業職に同行して外勤も担う
4月から事務サービス・コンシェルジュとして働く明治安田生命の張替美紀さん㊧。営業職に同行して外勤も担う

明治安田生命保険は1900人の女性契約社員を4月に正社員へ登用する。これまで契約社員が主に担っていた定型事務はITに取って代わられている。優秀な人材に能力とやる気に応じて中核業務を担ってもらう。一時的に人件費コストは膨らむが、働き手不足が生じる未来への投資という位置づけだ。

契約社員の7割を正社員に 年収10%アップ

「社外の方との交渉機会も増える。仕事の幅が広がるが、不安より期待が大きい」。運用サービス部の酒井綾乃さん(39)は表情を引き締める。2019年7月に契約社員として入社し、有価証券管理や送金依頼など事務作業を担ってきた。正社員となる4月以降は定型事務のIT化が担当だ。どの事務をどのようにシステムに落とし込むか。仕様を考え、外部のシステム開発会社と調整し、社員向けに手順書をつくる。

04年に大学を卒業し、メガバンクに総合職として入社した。法人営業部門でシンジケートローンなどを担当したが、子育てに専念するために10年末に退社した。それから8年。子育ても一段落し、もう一度働きたいと思った。「でもブランクが長く、いきなり正社員になる自信はなかった。契約社員として1年半働き、仕事勘を取り戻せた」

明治安田生命保険では約2600人の契約社員が全国で働いている。全員が女性。このうち1900人を4月から正社員に切り替える。子育てや介護など家庭の事情で転換を望まなかったり、入社間もなかったりするケースを除き、ほぼすべての希望者を自動的に総合職地域型に登用する。転居が伴う転勤はないが、役割は総合職。責任が重くなる分、年収は平均10%アップ。退職金も支給される。

IT化やAIで定型事務はなくなる

契約社員はこれまで営業所や支店などで定型事務を担ってきた。だが、10年から業務改善に取り組み、IT化などで定型事務の55%がなくなった。残る事務も人工知能(AI)など先端技術を導入し、早晩さらに半減する。「契約社員の仕事がなくなっている。とはいえ優秀な人材も多く、せっかく社内で経験も積んでいるのだから手放すのはもったいない。正社員として今まで以上に活躍してもらいたい」(人事部)

正社員登用を会社が正式発表したのは昨年6月だ。「営業職に配置換え?」「残業をしなくてはいけないの?」。契約社員には戸惑いが広がった。定型事務が職場から消えつつあり、危機感は持っていた。失職は回避できる半面、新たな役割に不安があった。

全国で説明会 サポート手厚く「後悔させない」

事務サービス企画部の新井健一部長(中央)は全国を回り、契約社員の疑問や不安に直接答えた
事務サービス企画部の新井健一部長(中央)は全国を回り、契約社員の疑問や不安に直接答えた

「責任は重くなるが、やりがいは高まる。絶対に後悔させない」。事務サービス企画部の新井健一部長は昨夏以降、全国で説明会を開き、不安や疑問に直接答えた。そもそも会社は営業への配置転換は考えていない。新たな役割に必要な知識や能力を学ぶ研修を開くなど手厚いサポート体制を敷くと約束した。

半年にわたって丁寧な説明を繰り返し、不安解消に努めた。結果、12月の最終意思確認で約1900人が正社員化を希望した。

新たな役割となる受け皿も会社は準備した。事務サービス・コンシェルジュという職種だ。営業職に同行して顧客を訪ね、保険金が速やかに支払われるよう、現場で必要書類に不備がないかを確認する。そのほか遺産整理に関する助言や成年後見制度の紹介など高齢期の暮らしもサポートする。正社員に転換する約700人が4月に事務サービス・コンシェルジュに就く。

品川支社(東京)の張替美紀さん(43)もその一人だ。事務サービス・コンシェルジュに必要な知識を得るために昨秋以降、社内研修に参加。顧客を試験的に訪問する実施研修も5回重ね、選抜された。大学卒業後に外資系製薬会社で10年働いたが、事業再編に伴い退職。専業主婦生活を経て14年に契約社員として入社した。初めて自分の名刺を持ち、外勤に出る。「顧客と直接向き合うのはとても緊張する。どこまで自分の力で貢献できるのか。挑戦したい」

働き手不足解消へ「将来への投資」

手続きに慣れたコンシェルジュが同行すれば営業職は営業に専念できる。保険に加えて高齢期の不安に細やかに答えられれば顧客満足度も上がり、会社にもプラスだ。22年度にはコンシェルジュにチーフ職を新設する。キャリアアップの道筋を示し、昇進意欲を高める狙いだ。「チーフ職から総務課長、総務部長への昇進も可能。全国型総合職に転換すれば、さらに上を目指せる」(新井部長)

今回の正社員登用で人件費コストは億単位で増える。ただ、それは将来への投資だと捉えている。ダイバーシティ推進室の淡路なな恵室長は「人口減少でやがて人手不足に直面する。社内の女性の力を生かさない手はない。正社員化は活躍拡大の第一歩。さらなるキャリアアップを目指す女性が出てくることを期待している」と強調する。

正規雇用、20代後半がピーク 非正規や主婦の活躍カギ

女性活躍の課題を表すニューワードにL字カーブがある。年齢階層別に女性の正規雇用比率を線グラフで示すと、20代後半でピークを迎え、そこから右肩下がりで減っていく。その見た目がアルファベット大文字「L」を時計回りに100度ほど寝かせたようにみえるので、こう名付けられた。今後の日本社会のあり方を検討する内閣府の有識者懇談会「選択する未来2.0」が2020年7月の中間報告で取り上げ、問題提起した。

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日本では、女性の就業率が子育て期に著しく下がる「M字カーブ」が長年の課題だった。昨今は女性活躍の機運の高まりや人手不足を背景に女性の就業率は底上げされ、M字カーブも解消しつつある。代わって浮上した課題がL字カーブだ。

子育てが一段落した後に再就職しやすくなったとはいえ、その受け皿は主に非正規雇用。新型コロナ禍で職を失った女性も多い。能力とやる気に見合うチャンスが得にくく、女性管理職・役員が増えない原因にもなっている。

そもそも日本では家庭に優秀な女性が埋もれている。経済協力開発機構(OECD)の19年調査によると、日本の大卒以上の女性労働力率(25~64歳)は77.7%。OECD平均81.7%に届かない。データがそろう34カ国中30位と下位に低迷する。高等教育をせっかく受けた貴重な人材を日本は生かせていない。

選択する未来2.0は、女性の働き方はフルタイムの正規雇用とパートタイムの非正規雇用に二極化しており、柔軟な働き方が選べないと指摘した。働くか否かは個人の自由だが、就労意欲が高い非正規雇用と専業主婦にいかに活躍してもらうか。人口減少が進むなか、L字カーブの解消は経済活性化に欠かせない。

(編集委員 石塚由紀夫)

[日経電子版 2021年03月29日 掲載]

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