
新型コロナウイルスの影響などで転職者の採用に慎重な企業が増える半面、「DX(デジタルトランスフォーメーション)人材」へのニーズは高い。そもそも「DX人材」とはどのような人を指し、文系でも挑戦できるのか。DX人材として転職するにあたってのポイントを、エン・ジャパン人材紹介事業部の藤村諭史営業統括マネージャーに聞いた。
――最近、よく聞かれるようになった「DX人材」という言葉ですが、具体的にどのような人を指しますか。
「『データを使い、ビジネスモデルそのものや社内の業務効率化を実現する人材』を意味します。デジタルやテクノロジーの様々な知識や思考が必要ですが『データの重要性をきちんと理解している』ということが最も重要です。たとえば、人の動きや体温など、技術の進歩でありとあらゆるデータを利用することが可能になりましたが、DXの出発点は『データがあること』なので、その重要性を理解していることが非常に重要です。その上で、データを実務で使うためのデジタル技術を使えるかどうかが問われます」
「企業は自らの強み・弱みを意識し、ビジネスとしての優位性を保とうと変革を進めるため、とるべきDX戦略もそれぞれ異なります。企業に応じて適切な方向に導く役割がDX人材というわけです」
「DXの分野は、外部(顧客)に向けたビジネスそのもののデジタル化と社内の環境整備という2つに分かれます。前者は、小売りのEC化や遠隔診療、フィンテックなどが該当し、後者は社内でDX推進組織を立ち上げたり、IT環境を整備してハンコを不要にしたり、リモートワークのために機器を導入したりといったことが含まれます。要は、社内外でデジタル化を推進する専門的な人がDX人材です」
「ただ、今後はすべての業種や職種がデジタルと融合していきます。営業がオンラインになるほか、経理や人事、建設現場の監督や医師もデジタルと付き合うことになり、皆がDXの基礎知識を学びデジタルリテラシーを持っておかないといけなくなる時代が来るでしょう」
――「DX人材」にはどういった仕事がありますか。
「社内でDXを進める際に必要となるポジションは、おおよそ以下のとおりです。エンジニアの仕事は狭義の『IT人材』にあたるもので、主に理系のポスト。文系出身者でもチャレンジしやすいDXの仕事としては、企画・推進のほか、営業、コンサル、カスタマーサクセス(顧客サポート)などがあり、これらでDX求人全体のポジションの5割近くを占めます」

文系のDX人材に求められる「発想力」
「ITの専門家ではない人がDXに挑戦するときにおすすめなのは、IT業界に転職することです。業界に入ることでDXの知識が身につきやすいうえ、顧客のDX支援を経験できます。特にIT業界の営業職や事業企画は入り口としては入りやすいでしょう」
「小売り、飲食、建設などIT化が遅れている業界を支援するコンサルタント会社や業界特化型のシステム提供企業へ転職することでDXに関わる道もあります。こういった業界向けの商品はパッケージ化されていることが多く、ITの開発経験がなくても提案しやすいサービスになっています」
――今後、DX人材として転職を希望する人は、どういったスキルが求められますか。
「企業側が文系のDX人材に求める要素は一にも二にも発想力です。デジタルの高度な技術があってもそれ自体で何かが変わるわけではありません。『デジタルを使ってこういう価値を実現できないか』というアイデアがあって初めて、ニーズの高い新サービスが生まれることになります」
「例えば、住宅ローンをネットで完結できるようにしたり、建設現場用に図面やコミュニケーションをデジタル化したりというように、ある課題に着目し解決していくための発想力が大切です。発想力を磨くには普段から考える機会を増やすしかありません。例えば『米アマゾン・ドットコムが展開していることを自社で始めるとしたら?』と考えたり、本やネットで読んだことを自社や異業種に置き換えたりといった練習です」
「知識を取り入れるインプットだけでは不十分です。それを元に何かに置き換えるという作業が発想力を鍛えてくれます。また、道を歩いていて、あまりはやっていない飲食店を見たときに『どうしたら人気が出るか』と考えることも良い練習になります」
「ITの専門知識もある程度必要です。代表的な専門用語は最低限知っておきましょう。DXは一見簡単そうに思える言葉ですが、自社において実際に何のことを意味しているか、しっかりと認識しておきたいところです。また、システムがどのように作られ、どう動いているかも理解する必要があります」
「システムを自ら開発できるようになる必要はありませんが、プログラマーやSE(システムエンジニア)と対等に話せるぐらいの知識があるとよいと思います。リーダーシップも重要になります。アナログからデジタルへという変革は、社内でこれまで当たり前だった常識を覆すことになる大規模な変化になるため、周囲を巻き込み推進できる強いリーダーシップが必要になります。実際、外部からリーダーシップ力の高い人材を採用するというケースをよくみかけます」
「いずれにせよ、全くの未経験の分野でDX人材への転職を目指す場合、年収を下げないと難しくなるため、何らかの経験を生かすことをおすすめします。ベストは『職種・業種の経験×IT』での転職です。業界特有のカルチャーや仕組みを知っていることは大きな強みになります。『既存のものとITを掛け合わせて業界を変革する』というのがDXの本来の趣旨なので、これまでの経験がアナログだったとしても、その経験とITを掛け合わせれば、DX人材になる可能性が高まります」
DX求人数は拡大が続く見通し
――コロナ禍以降、DX関連求人の動向は。
「DXという言葉は2020年初め、既に話題になってはいましたが、コロナ禍を機に急速に認知が広がり、いたるところでDXが叫ばれるようになりました。まず、昨年4月の緊急事態宣言の時点で『在宅勤務の制度を導入したい』や『オンライン営業で成果を上げたい』といったニーズが生まれ、それを受け、DX化を進めるための企画系の人材が積極的に採用されました」

「当社の人材紹介サービス『エン エージェント』におけるDX求人数で比べると、20年4~6月期は企画・管理系が前年同期比11倍と大幅に増えました。その後、コロナの影響が少し落ち着き、通期の業績見通しが見えてきたのを受け、採用計画を立て直した10月ごろ、『やはりデジタルが大事だ』『デジタルの売り上げを伸ばそう』との風向きになり、20年10~12月期のDX関連の営業系求人数は前年同期比10倍以上になりました」
「今後については、昨年大きく拡大した反動が少しあるかもしれませんが、基本的にはDX求人は伸び続けると思います。コロナ禍が落ち着いたとしても、リモートワークはある程度定着するでしょうし、遠隔地や海外の顧客などとの商談や打ち合わせもオンラインで十分対応できると気づいた企業が多いはずです。オンライン化やDX化の流れを背景に、今後10年ぐらいはDX求人数の拡大が続くのではないでしょうか」
(日経転職版・編集部 宮下奈緒子)

藤村諭史 エン・ジャパン 人材紹介事業部 営業統括マネージャー
2006年大学卒業後、エン・ジャパンに入社。「エン転職」の営業からキャリアをスタート。マネジャー職を経て、12年から人材紹介事業の立ち上げに携わる。関西エリア責任者、企画マネージャーを経て、2019年から現職。
[NIKKEI STYLE キャリア 2021年03月13日 掲載]