
企業のデジタル化の進展でコンサルティング業界もデジタルトランスフォーメーション(DX)化を加速、組織が変容を遂げている。コンサルのビジネスモデルや組織がどう変わったか、どういった人材が求められているのか。コンサル大手のアクセンチュアの滝沢明良執行役員に話を聞いた。
――産業界でDX化が進み、アクセンチュアのビジネスモデルや組織は、どのように変わってきましたか。
「クライアント企業のデジタル化を支援する『デジタルコンサル』に大きくシフトしました。象徴的なのは組織の名称で、約1年前にデジタル専門の部署を発展的に解消しました。これからはすべての部署がデジタルと密接に関係するので、あえて『デジタル』と名のつく部署を置いておく必要がなくなったからです」
「当社のビジネスモデルとしては、従来は戦略立案が中心でしたが、今はその先のシステムの導入、運用まで一気通貫して手がけるようになりました。クライアント企業と最初から最後まで併走して成果を出すというイメージがより強くなったと思います」
「デジタルシフトで組織が拡大し、2020年12月時点での社員数は14年と比べ3倍の約1万5000人になりました。職種については、データサイエンティスト、デジタル戦略策定コンサルタント、UI/UXデザイナー、システムエンジニアなどデジタル関連で30職種ほどが存在するようになり、以前と比べ圧倒的に多種多様な人材が必要になりました」
――組織の多様性が増した影響は。
「多様化が進み、コンサルタントとは異なる考え方やバックグラウンドを持った人が増えただけでなく、育児や介護など社員のライフステージも多様化し、様々な人材が継続して活躍できる職場づくりが必要になっていきました。そこで数年前に始まったのが『Project PRIDE』と呼ばれる、当社独自の働き方改革です」
「当社は従来、いわば『男性ばかりの体育会系のコンサルタント集団』で、深夜までの長時間労働も珍しくなく、『顧客にさえ価値を提供できていればよい』という雰囲気。社員同士であいさつをしないこともありました。これでは、人としても社会人としてもコンサルタントとしても一流とは言えませんし、社員同士できちんとコラボレーションすることで生まれるはずのイノベーションも期待できません。激務のイメージは採用にも響いていました」
「『このままではデジタルで成功できない』と強い危機感を持った経営トップの号令で始まった働き方改革では、まず限られた時間内にこれまで以上のアウトプットをするという生産性向上と、あいさつやマナー向上、ハラスメント防止などを徹底することを目指しました。労働時間を短縮することで心理的余裕を生み出し、コラボレーションの機会が増え、多種多様な人材が持てる力を最大限発揮できる環境を整えることが目的です」
「生産性向上によって生まれた時間を自身の成長にあて、さらに優れたサービスを提供する企業に進化したいという思いがありました。改革の成果は顕著で、社内の意識がみるみるうちに変わっていきました。激務のイメージが薄れたからか、女性の入社希望者も増え、20年12月時点の女性社員数は14年と比べ5倍の5400人になりました」
採用で重視する12の要素
――中途採用を大幅に増やしていますね。
「20年度(20年8月期)は2000人程度を中途で採用しました。5年前の約4倍の水準です。21年度(21年8月期)も20年度並みの採用を続ける予定です。積極採用の背景としては、事業が急拡大していることに加え、幅広いスキルを持った人材を獲得する必要が出てきたことがあります」

「『幅広い』というのは、たとえば、業界であれば、物流業界におけるヒト・モノ・カネの流れや各国の規制を熟知している人、業種であれば、経理の専門知識に加えデジタルを活用することでサプライチェーンからのデータを読み解き可視化できる人、技術であれば、人工知能(AI)やブロックチェーンについて知識を持っている人などが一例として挙げられます。コンサルティング会社、SIer(システムインテグレーター)、事業会社、広告代理店など、前職の業界も様々です」
――採用で重視するポイントは。
「各分野における専門スキルを持つことが大前提ですが、そのほか、デジタル時代に求める人材像として、互いを生かし合えるチームこそ無限の可能性があると信じる人、背伸びしてでも目標へ手を伸ばさずにはいられない人、正解がない状況こそ楽しめる人、常に既存の概念にとらわれない新しいものを探求している人、など12の要素を掲げています。こういった採用理念への共感度やカルチャーフィットを重視しています」
「働き方改革や社内で多様性が増したことを受け、『コラボレーション力』がより重要になったと思います。社内外で様々な人と協力しないとできないことが増え、協業することで新しい価値を生み出すマインドセットが今まで以上に必要になってきました。コロナでリモートワークでの勤務が続き、仕事とプライベートとの境目がなくなりがちな状況で、チーム内で個々の事情を確認しながらいかにコラボレーションの成果を高めるかも問われています」
空きポストを公開、カムバックを歓迎
――優秀なDX人材の獲得競争が起きていますが、御社の働きがいは何ですか。
「様々なスキルやバックグラウンドを持った人がそれぞれのステージで活躍しているうえ、新しいタイプの仕事や刺激的な仕事が多く、成長したい人には働きがいがあると思います。自らキャリアを切り開く環境も充実しています。所属部署の上長のほかに、キャリアカウンセラーがつき、チャレンジしてみたい仕事など将来のポジションについて相談しながら決めていくことができます」
「グローバルに展開する大規模なコンサルティングファームならではの制度として、国内外のアクセンチュアで空いているポジションがサイトで一覧でき、自由に検索し応募することが可能です。これまでに約700人がこの制度を使って異動し、日本から米国やスペインの法人に移った例もありました。組織は各国共通なので、他国に移っても適応しやすいと思います」
「キャリアの自主性を重んじているので、何らかの事情で一度退社した人が再度、当社で働きたい場合は歓迎しており、年間100人程度が戻ってきています。新しいスキルや人脈を得た人材をとらない理由はないと、喜んで迎えており、『アルムナイ(卒業生、離職者)ネットワーク』は貴重な採用チャンネルになっています」
(日経転職版・編集部 宮下奈緒子)

滝沢明良 アクセンチュア執行役員 人事本部本部長
1997年に大学卒業後、採用エージェントに入社。その後渡米し経営学修士(MBA)取得。米国で人事コンサルティング会社に入社。2004年にアクセンチュアへ入社し、タレントアクイジション、ワークフォース・タレントプランニング、HRビジネスパートナー、M&A HRデューデリジェンス・PMI、タレントデベロップメント&トレーニング、給与・福利厚生、働き方改革、人事戦略などを経験。20年3月から現職。
[NIKKEI STYLE キャリア 2021年03月27日 掲載]