ジョブ型人事、6割が「上司の評価力」に不安

テレワーク成功の勘所

ジョブ型の人事制度は直属の上司による評価が一段と重要さを増す
ジョブ型の人事制度は直属の上司による評価が一段と重要さを増す

ジョブ型人事制度の課題は管理職の評価能力、仕事の「ポテンヒット」防止、ゼネラリスト育成の3つにある――。ビジネスパーソンを対象とした独自調査で、このような結果が出た。特に管理職の評価能力については、ビジネスパーソンの6割が不安視している。企業は働き方改革を進めるにあたって、これら「3大課題」に向き合っていく必要がありそうだ。

調査は日経BP総合研究所イノベーションICTラボが実施した。ビジネスパーソンを対象に、テレワークの実態やジョブ型人事への意向などについて聞いた。

ジョブ型は仕事の内容をあらかじめ決めて会社と社員が合意し、達成度合いをみる人事制度だ。職務別に仕事の内容と必要なスキルなどを定義し、職務に見合うスキルを持つ社員をアサイン(割り当て)する。新型コロナウイルスの感染拡大によってテレワークなど場所にとらわれない働き方が広がり、富士通や三菱ケミカルなど大手を中心に導入が増えつつある。

調査で「ジョブ型の人事制度には、どのような短所があると思いますか」と尋ねたところ、「管理職の評価能力に不安がある場合は、適切な運用が難しい」が首位だった。59.7%と、実に約6割の人が挙げた。

「ジョブ型の人事制度にはどのような短所があると思いますか」と聞いた結果(複数回答可)
「ジョブ型の人事制度にはどのような短所があると思いますか」と聞いた結果(複数回答可)

ジョブ型は直属の上司による評価が一段と重要さを増す。上司が達成度や行動をこれまで以上に細かくみることになるからだ。直属の上司に評価されなければ、昇進や昇給が難しくなる。

上司が重責を担うことになるわけだが、ジョブ型未導入の日本企業においては管理職の評価能力を磨くための専門的な研修などを設けているところはそれほど多くない。人事部門が定めた評価ルールはあるものの、評価する人によって評価の尺度や厳しさが異なるケースがあった。

このような実態が、部下にとっての不安材料として表れたといえる。調査の自由意見でも「評価を主観に基づいて行っている会社は、従業員の不満が増える」(50~54歳、一般社員)、「成果の定義が曖昧で、評価が恣意的になる可能性がある」(45~49歳、一般社員)といった声があった。

「ポテンヒット」多発か、形骸化か

短所の2位は「職務記述として定義された仕事しかやらない人が増え、不都合が生じそうだ」だった。47.1%の人が選んだ。新人や若手の時代に上司から仕事の心得について「ここまでしかやりませんと線を引くのではなく、相手の領域までカバーする気持ちで取り組むように」と指導された人は少なくないだろう。互いの守備範囲を広げることで隙間や穴をなくす、野球でいう「ポテンヒット」を防ぐ考え方だ。

このような仕事への向き合い方をジョブディスクリプション(職務定義書)として網羅するのは難しいのではないか。そんな懸念があるようだ。

自由意見でも「日本ではジョブ型を導入したとしても、定義以外の仕事もやらされる」(55~59歳、係長・主任クラス)、「適切なジョブディスクリプションがつくれず業務が混乱する」(45~49歳、係長・主任クラス)との意見が出た。「ジョブ型と言いつつ職務定義が明確にされず、結局何が変わったの?という状況になりうる」(35~39歳、一般社員)との声もあった。

ジョブを厳密に定義しすぎるとポテンヒットが多発する恐れが生じる。あるいは見て見ぬふりをできない人が「誰かがやらなければいけない」と考え、定義されていない仕事でもこなす。そのような社員の自主性に支えられ、ジョブ型が形骸化しつつも、なんとなく仕事が進んでいくイメージだろうか。

3位は「ゼネラリストを育成する力が弱まる」で41.1%だった。専門性を持つ人材の育成を重視しつつ、幅広い経験を積んだゼネラリストの育成も並行していく工夫が企業には求められる。

例えば2020年にジョブ型制度を導入したKDDIは「いろいろな経験をしたいという希望も可能」(コーポレート統括本部人事本部長を務める白岩徹執行役員)とのスタンスだ。会社が将来の幹部候補として注目する社員が特定分野でのスキルアップを希望した場合、本人に「将来の幹部候補だ」と明確に伝えたうえで、さらに上のキャリアを目指すために新規事業や低迷事業の立て直しなどを打診することもあり得るという。

課題あれど6割超が「ジョブ型は定着する」

ビジネスパーソンはジョブ型の人事制度が日本企業に定着するとみているのか。それとも定着しないと考えているのか。調査で質問したところ、「定着する」と「やや定着する」と答えた人の割合は合計で61.6%に達した。「あまり定着しない」と「定着しない」の合計(27.8%)を33.8ポイント上回った。

「あなたはジョブ型の人事制度が日本企業で定着すると思いますか」と聞いた結果
「あなたはジョブ型の人事制度が日本企業で定着すると思いますか」と聞いた結果

課題はあれど、テレワークなど新しい働き方の浸透に伴う人事制度改革の波には逆らえないと考えているようだ。

この結果をさらに深掘りして、「仕事でデジタル変革(DX)に関与している/関与したことがある/関与する予定がある」人と「関与したことがない/関与する予定がない」人に分けてみた。

その結果、DXに関与する人(予定のある人を含む)でジョブ型が「定着する」「やや定着する」と答えた人の割合は合計で75.2%と全体平均を13.6ポイント上回った。DXに関与している人の方が、ジョブ型の定着を肯定的にとらえているといえそうだ。

ジョブ型を巡るビジネスパーソンの懸念は、管理職の評価能力、ポテンヒット、そしてゼネラリスト育成の3点にあるといえそうだ。企業はビジネスパーソンの声を参考に、これら3大課題の解決に向けた制度設計と準備、管理職への評価研修などの徹底が求められる。

(日経BP総合研究所イノベーションICTラボ上席研究員 大和田尚孝)

[日経電子版 2021年03月15日 掲載]

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