DX部隊、過半がフリーランス SOMPO「業界脳」脱却

働き方innovation 多様性、生かせてますか

正社員だけの同質的なチームからイノベーションは生まれない――。新事業にフリーランスの力を借りる企業が増えている。SOMPOホールディングスではデジタルトランスフォーメーション(DX)を担う部隊の過半がフリーランス。専門能力を持ち「業界の常識」に染まらない人材を取り込んで、社員との化学反応を起こす。

今春から、SOMPO傘下の損害保険ジャパンが企業の従業員向けに販売する「職域保険」の申し込み方法が変わる。従来、紙に書き込む形が中心だったがスマートフォンを使ったデジタル申請が可能になる。システム上でプランの比較もできる。「複雑な契約内容が理解しやすくなり、必要に応じたプランの見直しも容易になった」と顧客からの反応は上々だ。

開発の主力メンバー、佐藤大志さん(43)はSOMPOの社員ではない。携帯電話アプリなどの分野で約15年のキャリアを持つフリーのデザイナーだ。2019年夏から業務委託の形でSOMPOの仕事を手掛ける。スペースの限られたスマホ画面に複雑な約款情報を不足なく盛り込むところなどに、佐藤さんのノウハウが発揮された。

週5日、午前9時から午後6時と正社員並みの勤務時間だが、契約期間は1年だ。佐藤さんは個人事務所も経営し地方企業など約10のクライアントがいる。「多くの企業と仕事ができる今の距離感が望ましい。頼まれてもSOMPOの社員になるつもりはない」

正社員と「化学反応」 素早く新事業生む

佐藤さんが所属するデジタル戦略部には18年に「スプリントチーム」という部隊が発足した。保険業界で加速するDXに対応するためのチームだが、ユニークなのは当初からフリーランスを軸とした組織構成とした点。38人のうち過半の21人はフリーランスだ。有名国立大学で理系の修士号を取得したエンジニアもおり、正社員と同水準の報酬を得る人もいる。

狙いはスピードだ。DXの流れは急で、社内人材をゼロから育成する余裕はない。同時に社外の人材が新しい風を吹かせることで生まれる化学反応への期待もあった。混成部隊を統括するデジタル戦略部の細慎さんは「正社員として取り込めば業界の常識にとらわれた『保険脳』になる可能性もある。異業種も知る人材と連携することで生み出せるイノベーションがある」と強調する。

チームの正社員は各事業部門から持ち込まれる課題について、解決の方向性を決める。これに基づき具体的な手法や製品を作り出すのがフリーランスだ。正社員とフリーランスの間の垣根をなくし、互いの役割を尊重し合う雰囲気をつくることも重視している。

SOMPOホールディングスがアプリ開発を委託するフリーランスの佐藤大志さん㊧(東京都新宿区)
SOMPOホールディングスがアプリ開発を委託するフリーランスの佐藤大志さん㊧(東京都新宿区)

フリーランスに依存すれば、契約終了とともに蓄積したノウハウが流出することは避けられない。このため新規事業も軌道に乗れば徐々に正社員比率を高めていく考えだ。ただ近年、エンジニアやデザイナーなどの専門職では優秀な人材ほど自由で柔軟な働き方を求める傾向が強い。「若年層では特に『正社員が全て』という考えはなくなっており、立ち上げ期にフリーランスが有効な選択肢なのは変わらない」(細さん)

日本企業でフリーランス人材の活用は限られていた。17年に経済産業省が発表した調査では、活用している企業は18.9%。情報漏洩などのリスクに加え、新卒一括採用と終身雇用の伝統が強い日本で、戦略事業を外部人材に委ねる発想自体が乏しかった。

しかし状況は変わった。DXの進展で技術やスキルの陳腐化のスピードも上がるなか、生え抜きの正社員だけの組織はイノベーションを生み出しにくくなっている。

仲介プラットフォームも急成長

SOMPOだけではない。NECが20年8月に立ち上げたサースプレスト(東京・千代田)はクラウド型のソフトウエア提供サービス「SaaS(サース)」を手掛ける専門会社だ。4年で約50人を採用する計画だが、最大で半数程度はフリーランスや副業者にする。柴田樹徳・最高経営責任者は「事業環境が刻々と変わるなか、タイムリーな人員補充にはフリーランスが適している」と話す。

近年、フリーランスと企業をネット上で直接仲介するプラットフォームが急成長し、目当ての人材を見つけやすくなった。代表格のココナラ(東京・渋谷)は、20年11月時点の登録人材が197万人と1年間で36%増えた。新型コロナウイルス禍などで副業志願の専門職の登録も増えている。

雇用関係にないフリーランスには、企業が保険料を負担する雇用保険や労災保険の適用は原則ない。専らコスト削減を目的にフリーランスを活用することには批判もある。一方、同質的な集団に限界があることは確かで、安定より自由を求める働き手も増えている。双方にメリットがある関係づくりが必要だ。

8割がフリー継続希望 「自分らしさ」に価値

経済産業省が2017年に発表した調査によれば、企業がフリーランスを活用する目的は「必要な技術・ノウハウや人材の補完」が43.6%で、「従業員の業務負担の軽減」(38.5%)や「売上高の増加」(28.2%)を上回る(複数回答)。

フリーランスには、単純な労働力というより社内にはないアイデアをもたらしてくれる触媒としての期待が大きいようだ。人材仲介サービスのランサーズの19年の調査で、企業がフリーランスを活用している職種は「デザイナー」(62%)や「エンジニア」(34%)、「動画・ロゴ作成」(31%)などの専門職が上位を占める。


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長く正規雇用が標準的な働き方だった日本でもフリーランスは増加している。ランサーズの20年の推計では副業などを含む広義のフリーランスは国内で1034万人おり、15年比で13%増加した。全就業者に占める比率も15%に達し、1年以内にフリーランスの仕事を開始した人は312万人いる。

内閣官房が20年に全国の約7500人のフリーランスを対象に実施した調査では、フリーランスという働き方を選択した理由は「自分のスタイルで働きたいため」(57.8%)と「働く時間や場所を自由にするため」(39.7%)が1、2位を占め、「収入を増やすため」(31.7%)を上回った(複数回答)。

同じ調査では78.3%が「フリーランスとして働き続けたい」と回答しており、「会社員になりたい(戻りたい)」人は3.4%にとどまる。正規雇用のチャンスがあってもフリーの継続を求める人が圧倒的に多い。不安定で社会保障制度の適用は限られるが、柔軟で幅広い裁量が認められる働き方には、それを補って余りある魅力がある。
(雇用エディター 松井基一)

[日経電子版 2021年03月15日 掲載]

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