
三菱UFJ銀行は2022年春の新卒採用の一部に、能力に応じて給与が決まる仕組みを導入する。デジタル技術などの専門人材が対象で年収は大卒1年目から1000万円以上になる可能性がある。一律300万円程度としてきた体系を改め、IT(情報技術)企業や外資系に流れていた人材を取り込む。横並びの意識が強かった銀行も人事・賃金制度の改革を競う時代に入る。
新制度によってデジタルやシステムのほか、金融工学や富裕層ビジネスなどの分野で専門的な知識や能力を持つ若手を獲得する。新卒採用全体の約1割にあたる40人程度の専門人材を適用の検討対象とする。初任給に差を設けるのは大手行で初めてとなる。
対象者は一般の社員と同様に無期雇用だが、給与水準は人事担当役員らで構成する委員会が毎年審議する。前年に比べて下がることもある。人事部が外部の報酬調査会社や人材仲介業者に同等の能力を持つ人の報酬水準を聞き取り、労働市場の実態も踏まえて決める。
銀行は新卒一括の大量採用で、給与は支店配属後にほぼ一律で引き上げるのが一般的だった。長引く低金利や社会のデジタル化で、伝統的な金融ビジネスは低収益で高コストな部分が目立ってきた。フィンテックなどの新分野を開拓して成長力を高めるにも、優秀なデジタル人材の確保が急務になっている。
これまで三菱UFJ銀はIT企業などに比べて給与水準が見劣りすることなどを理由に、採用競争で後れを取る場合があった。日本の大手企業でもNECやソニーは初任給から差をつける制度を既に取り入れている。経団連も21年の春季労使交渉(春闘)で職務内容に応じて報酬が決まる「ジョブ型雇用」を新卒にも盛り込むよう提言した。
三菱UFJ銀は横並びの人事制度を変え、組織風土の改革を急いでいる。19年には職務に応じて若手を登用しやすくする人事制度も始めた。20年の春闘では一律で給与を上げるベースアップ(ベア)に基づく交渉を廃止し、実力次第で賃上げ幅が変わるようにした。今回新卒採用に適用する専門人材の報酬制度は、19年度に社内人材向けとして導入した。グループ内で横断的に能力を生かせるよう持ち株会社に籍を置く。
[日経電子版 2021年03月13日 掲載]