次世代リーダーの転職学

成長ベンチャー企業に向いている人、向いていない人

ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行

ベンチャー企業の社風や働き方はそれぞれに個性がある(写真はイメージ) =PIXTA
ベンチャー企業の社風や働き方はそれぞれに個性がある(写真はイメージ) =PIXTA

「日本の賃金水準がいつの間にかOECD(経済協力開発機構)の中で相当下位になっている」。経団連の中西宏明会長の発言が話題になっています。残念ながら、これが、製造業が柱となって経済を支えてきた日本の今の現実です。そんな中、ICT(情報通信技術)関連を中心にした成長ベンチャー企業が転職市場で人気を集めています。歴史ある大企業からベンチャー企業への人材流動は大局的にはこれからも止まりそうにありません。今回はその人材移動に焦点を当ててみたいと思います。

ベンチャー企業への転職、メリットとデメリットとは?

ベンチャー企業とひとことでいっても、実際には事業内容や成り立ち、ビジョン、理念、財務状況など、1社ごとにバラバラです。あえていえば、創業から時間がたっておらず、独自の技術やサービスなどを駆使している、成長志向の企業を指すことが多いようです。

結果的にインターネット関連サービスを使い、既存のビジネスのやり方をダイナミックに変えていく企業が多くなっています。

また、企業としての成長段階に応じて下記の4つのステージに分けられています。どのステージ段階で入社するかによって、ストックオプションや仕事のダイナミズム、ポジションも大幅に変わってきます。基本的にはハイリスク・ハイリターンだといえます。

・シードステージ 事業を立ち上げる準備段階
・アーリーステージ 事業立ち上げから軌道に乗るまでの段階
・エクスパンションステージ サービスの認知が広がり成長し始めている状態
・レイターステージ 黒字化に成功し、出資受け入れや上場が視野に入る段階

若い経営者が多く、既存の大企業と比べると、意思決定のスピードが圧倒的に速いことが一般的な特徴です。また、責任と共に、社員には大きな裁量が与えられ、基本的には自律的に仕事を進めていく姿勢が求められます。そのぶん、働き方の自由度も高く、制約が少ない環境であると言えます。

実際にベンチャー企業で働くことのメリットとしては、

1)ビジョンを共にする同志と働ける
2)結果に応じて、評価と裁量権が得られる
3)ストックオプションが得られる可能性がある
4)自分の中での経験値が高まる
5)大企業にはない経営のダイナミズムを味わえる

逆にデメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

1)事業不振で倒産するリスク
2)労働環境などが未整備
3)評価制度や報酬が大企業と比較すると低め
4)これまでの経歴が通用するか不透明
5)価値観や企業風土のミスマッチ

どれも一般的なものばかりで、かつもちろん「大企業にも倒産や廃業リスクがある」など、すべてがベンチャー企業に限ったデメリットというわけではありませんが、家族がいる人の転職の場合、このあたりのリスクを不安視した家族に転職を反対される、といったケースはよくある話です。少なくともこれらのポイントはしっかり理解した上で転職を決断することをお勧めします。

ベンチャー経営者が求める人材 5つの共通点

次に、ベンチャー企業における人材採用で、最終意思決定者である経営者が、人材に対して求める条件をご紹介します。事業全体がより速く、よりダイナミックに進化することを求められているため、人材に求める要素も、大企業とは全く異なる内容になります。

1)思考と行動のスピードが速いか?
2)いつでも現場に飛び込める泥臭さはあるか?
(どぶ板第一主義、現場主義、現地現物主義)
3)ストレス耐性は高いか?
4)マルチタスク能力はあるか?
5)一緒に未来の夢に向かうスタンスはあるか?
(今は報酬や条件が悪くても、一緒にいい未来をつくっていく姿勢はあるか?)

特に、会社と人の関係性のあり方として、幹部になればなるほど、「会社から何かを与えてもらう」という姿勢が感じられると、信頼関係の構築が難しくなりやすいのがベンチャー企業の経営者の特徴といってもいいかもしれません。

「会社としてありたい状態」「個人として手に入れたい報酬やポジション」を、自分と一緒に勝ち取りにいってくれそうな人材かどうかが最も重要な人材選考基準となることがほとんどです。

ベンチャー企業が敬遠する人の特徴とは?

また、ベンチャー企業の採用責任者が書類選考段階で警戒したり敬遠したりする人にも特徴があります。このモノサシには「本当に優秀な人材を見落とさないのか?」という課題はあると考えていますが、あくまでもベンチャー企業の一般的な「警戒・敬遠」の傾向として以下の特徴があります。

1)大手企業に勤務していて、転職経験がない
2)現在、管理職で、今後も管理職志向が強い
3)転職直後でも年収維持か年収アップの希望が強い
4)プライベート重視思考が強い
5)役職名や権限への要望度が強い

ベンチャー企業にとっては、いくら経験領域が自社の事業に近く、経歴が魅力的な人であっても、根本的な部分でミスマッチが起こると、円滑に業務遂行ができないどころか、周囲への悪影響も生まれてしまうので、そのリスクを回避したいという思いが強いようです。

そうした理由から、上記のポイントに関しては特に敏感です。もしかするといい人材を見落としてしまうことになったとしても、万全を期すために敬遠したい条件として考えている企業も多くあります。

もちろん業種やポジションによって、例外が多いことは確かですが、それだけ過去の失敗体験が多いことを示唆しているのだと思います。

ベンチャーに向いていない人のパターン

ここまで読んでいただければ、想像できると思いますが、ベンチャー企業への転職に向いていない人には、以下の傾向があります。企業風土や価値観は多様なので、自分が活躍できる場所も人それぞれです。あくまで一つの参考情報としてとらえていただければ幸いです。

1)守備重視型の考え方
すべてのベンチャー企業が同じわけでは決してありませんが、どちらかと言えばハイリスク・ハイリターン型の意思決定をする企業が多いのがベンチャー企業の一般的傾向です。部署によりますが、一般的にリスク回避型の思考習慣があるとカルチャーフィットが難しいかもしれません。

2)スケール重視
大企業での仕事経験が長いと、どうしても仕事で生み出せる規模の大きさにこだわりたいという方もおられます。特に新領域でチャレンジするベンチャー企業では、規模よりも先進性が重視されることも多いので、ミスマッチになる可能性があります。

3)予定調和志向
計画的に物事を進めたい、不確定の業務は性格的に合わないという人には、成功の方程式やビジネスモデルが「型化」されていないベンチャー企業は不向きかもしれません。

4)組織内利害調整が強み
大規模な組織で仕事をしてきた人の中には、利害が対立する組織にあって、うまく意見調整をして、壁を取り払っていくのが自分の強みという人は少なくありません。ただ、その強みを生かしていきたいとなると、ベンチャー企業との相性はあまりよくないといえると思います。

5)経験集積型
ベンチャー企業における仕事の進め方の特徴はトライアル&エラーを重ねながら、正解を探り続けていくところにあります。経験を積み上げて熟練していく仕事とは根本的にタイプが異なります。

ベンチャー企業への転職で成功するためには

事前の企業研究の段階で、業種や事業内容から、自分自身が成長できそうな環境があるかどうか、自分のスキルや経験が生かせるかは念入りに確認しておきましょう。具体的には、経営方針、サービス・商品の優位性、直近数年間の業績、中長期の成長戦略などは最低限押さえておきたいポイントです。

ベンチャー企業といっても、経営者の考え方、事業内容、組織風土は一社一社全く異なります。業界経験や職務経験がマッチしていても、つくりたい世界観や価値観が合わなければ、やりがいにも大きなマイナスになってしまいます。

納得できる転職にするためには、できる限り多くの人に会って、会社の雰囲気を知ることが重要です。在職者や退職者が書いたクチコミ情報なども、必ずチェックしておきたいところです。

黒田真行
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年02月05日 掲載]

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