DX人材、官庁も厚待遇 年収1千万円や柔軟な働き方

東京・霞が関の中央官庁がデジタル人材の確保を急ぎ始めた
東京・霞が関の中央官庁がデジタル人材の確保を急ぎ始めた

政府がデジタルトランスフォーメーション(DX)に精通した人材の獲得を急いでいる。年収1千万円や柔軟な働き方など、これまでにない厚待遇を打ち出す。新型コロナウイルス禍でデジタル対応の遅れがあらわになり、IT(情報技術)を生かした公共サービスの充実や効率化が急務になっている。民間も有能な人材の確保に躍起で、激しい争奪戦になる可能性がある。

「『DX推進ビジネスデザイナー』募集」。転職サイト運営のビズリーチ(東京・渋谷)は1月、年収1千万円程度の人材募集要項を掲載した。出したのは金融庁だ。

同庁は決算書類の提出など約1800種類の届け出を2021年度中にすべてオンライン化する計画で、5~6人の採用枠に数百人の応募があったという。国家公務員の平均給与(月額約40万円)を上回る賃金で高度人材を狙う。

政府は9月のデジタル庁創設を踏まえ、急ピッチで体制を整えようとしている。週3日勤務など柔軟な働き方を売りに同庁職員を公募したところ、定員の40倍の約1400人が応募した。年収換算で1千万円以上を払うことを検討する。

内閣府は20年度の経済財政報告で「デジタルイノベーションに必要な人材は少ない」と記し、官庁など公的部門での人材確保の必要性を強調した。オンライン対応などデジタル化が必要な分野は少なくない。データ技術の発達を長期の予測や業務の効率化に生かせる可能性も広がっている。

だが、民間企業も人材獲得のために待遇を競うようになっており、年収数千万円を提示する企業も少なくない。IT大手のSCSKは20年に一部職種で年俸3千万円以上を払う制度を導入した。カジュアル衣料のユニクロを展開するファーストリテイリングはデータ分析技術に精通した人材の中途採用に最高2千万円を提示し、能力に応じてさらに上乗せも検討する。

日本はもともとIT人材の不足への懸念が強く、経済産業省は30年に最大79万人不足するという予測を19年に示していた。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の宮崎浩氏は「コロナの感染拡大を機にIT投資の重要性がさらに高まった。先を見据える企業は人材確保を急いでいる」と人材争奪戦が激しくなることを予想する。

IT大手の中堅社員は「待遇やキャリアなら民間の方がやはり魅力があるし、あえて官庁に転職しようという気は起きない」と語る。民間登用を急ぐ官庁からも「仕事にやりがいがなければ、採用後すぐに民間に流出する」との声が上がる。デジタル庁と金融庁の人材獲得は滑り出しの応募こそ高倍率になったが、質と量の両面で順調な採用と定着が続くとは限らない。

米国では民間のIT人材を政府の重要なプロジェクトを担当するポストに登用してきた。最先端の技術に触れる環境で経験を積み、その後のキャリアアップにつなげる流れが確立している。

NTTデータ経営研究所エグゼクティブオフィサーの三谷慶一郎氏は「DX人材の処遇をよくするだけでなく、能力を生かしきる場やスキルアップの機会があるかどうかも重要だ」と指摘する。

日本はもともと官民の人材の往来が少なく、民間人材が政府での経験を踏み台にキャリアアップを果たした例は乏しい。事務次官や局長に昇進するのは大卒時などの公務員試験で採用された人で、民間で経験を積んだあとに入省しても内部での地位や給与の上昇が限られる恐れがある。

DX人材の確保には組織の慣習や風土を見直す必要もありそうだ。

地方自治体の業務のデジタル化を支える人材確保も課題だ。総務省によると、デジタル化の責任者である副知事や副市長らの「最高情報責任者(CIO)」を実務で支える「CIO補佐官」を外部から招く自治体は37にとどまる。同省はデジタル庁と市町村の人事交流や、オンラインでの情報交換といった仕組みづくりを検討している。

[日経電子版 2021年03月03日 掲載]

転職成功アンケートご協力のお願い
日経転職版を通じて転職が決まった方に、アンケートのご協力をお願いいたします。