次世代リーダーの転職学

採用される30代経営幹部候補 決め手はビジョンと情熱

経営者JP社長 井上和幸

30代で経営幹部候補として転職先に迎えられる人には3つの共通点がある(写真はイメージ) =PIXTA
30代で経営幹部候補として転職先に迎えられる人には3つの共通点がある(写真はイメージ) =PIXTA

新型コロナウイルス禍が続く状況にありながら、実はかなり積極的かつ活発に行われているのが幹部クラスの採用活動です。当社(経営者JP)でみる限り、2020年夏から秋口にかけては前年対比で依頼案件数が減った時期もありましたが、冬場からまた前年を上回るペースで企業各社からの幹部採用依頼が相次いでいます。特に年末年始は役員クラス(社長候補を含む)・部長クラスの基幹ポジションでの採用依頼がかなり入っていました。

その中でも今、ベンチャー企業から老舗企業、投資会社の買収先企業に至るまで、30代の若手経営幹部候補者の登用が非常に活発です。この機にマネジメント陣の若返りを図りたいということもあるでしょうし、ウィズコロナを乗り切り、アフターコロナでの新しいパラダイムに対応しようというテーマ認識も感じます。では、そこで実際に抜擢(ばってき)されている人の共通項は、どのようなものでしょう。

30代で「仕事上の、その人らしさ」がにじみ出ている人

30代の若手経営幹部候補として抜擢されている人の共通項として、まず最初に挙げられるのは「プロフェッショナリティーが明確であること」です。

こういうと、何か難しい、高尚なことが求められているように感じるかもしれませんが、要は「何ができるかがはっきりしている」ということです。

具体的にいえば、「法人営業に優れている」「マーケティングで専門性と実績を積み上げてきた」「人事・採用・教育について思い入れと一家言がある」「経理・管理会計なら任せてくれ」といった具合です。

30代というと、大卒で社会に出て10年前後。その過程で与えられた仕事に邁(まい)進し、成功と失敗を繰り返しながら、徐々に裁量を与えられ、リーダー的な役割を与えられてきたことでしょう。目の前の業務に真摯に向き合い、頑張ってきた人であれば、その仕事経験を通じて、様々な気づきや思い、あるいはこだわりなども積み重ねてきているはずです。

このような人に面接で話を聞くと、語る内容が非常に具体的です。また、取り組みプロセスでの創意工夫をありありと語ります。何も大げさな、華々しい実績でなくとも、自分なりの具体的な達成事項があり、その結果について自分なりの解釈があるものです。

プロフェッショナリティーとは、こうした経験と学びを積み重ねることによって、自然と「仕事上の、その人らしさ」がにじみ出ていることを指すのだと、私は解釈しています。

一方で、30代で幹部に抜擢されにくい人は、自分が主体的に取り組んだ業務が見えにくい、専門性が見えにくい、そしてその人が結局のところ、仕事上で何をやりたいのかが伝わってこない(やりたいことがない)人です。

大手企業の本社勤務者などでよくありがちなのが、一見、専門知識が豊富でマクロなべき論を語る「優秀な」30代です。ところが、知識は豊富でも、実地での経験が少ないか、全くないので、どうも話が伝わってこない。実際にリーダーとして泥臭い現実に立ち向かい、チームを動かしていけるかというと、どうもそう思えない。こんな人の自己認識と他者からの評価が乖離(かいり)し始めるのも30代です。

抜擢される30代は、心技体が備わっている、「ストリートファイト」をしっかりやってきた人です。失敗体験なども非常に重要です。特に人・組織面での苦労を経験している人は、これからの幹部・事業執行者としてのキャリアにとって非常に良い経験をしています。経営者はこういう経験を持つ人について、「買い」の評価をすることが多いようです。

自分なりのビジョン、パッションがあるか

30代の若手経営幹部候補として抜擢されている人の共通項のその2は、どのようなビジネスに関わっていきたいかという「自分なりのビジョン、パッションがある」ということです。

先のプロフェッショナリティー醸成の話で既にお分かりのことでしょう。こうして日々、真剣に向き合ってきた業務の延長線上にこそ、自分にも他者にも腑(ふ)に落ちる、真の自分なりのこだわりやテーマ、ビジョン、パッションが発現されるのです。

このような人と面接で話をしていると、そのビジョンやパッションを抱くに至った「なぜか」が明確であり、話がブレません。その根底にある、粘り強さややり切る力、困難から逃げないということを面接側として感じます。これこそが、30代の人に次世代の幹部として事業や組織を任せたいと採用企業や経営者に思わせる要素です。

もちろん、その人のビジョンやパッションは、現職の仕事以外からも発現されることがあります。例えば長らく没頭している趣味のテーマや、何がしかその人が興味関心を抱くに至った社会的なテーマや課題です。いずれにしても、それがその人の様々な経験やこだわりと関連して、心の根底から出てきているものか、あるいは借り物のようなものかを、採用側の企業や経営者は嗅覚鋭く感じています。

もし、ここまでの歩みの中で、コンセプトのない、またはみえにくい転職を繰り返している人、自分のキャリアしか考えていない人(転職を踏み台にしか考えていないような人)は、少なくとも30代での抜擢幹部としては採用されることはありません。そして、そのまま30代・40代と過ごしてしまうと、当人の自我とは相反して、その後を経営幹部職として歩むこと自体、難しくなっていくでしょう。

自分と応募先企業が磁石のように引き合う

30代の若手経営幹部候補として抜擢されている人の共通項、最後の3つ目は「応募先企業の事業、ミッション、ビジョンについての強い共鳴がある」ことです。

当連載ではこれまでもこのことは手を替え品を替え、述べてきていますので、「耳タコ」かもしれませんが、やはりこのコロナ禍の中で次世代幹部を迎え入れるにあたり、この部分の互いのマインドの一致は、本当に大事になっています。

「にじみ出るプロフェッショナリティーがある」「これまでの業務経験から醸成され発現された、自分なりのビジョン、パッションがある」という点を兼ね備えた30代リーダーにとって、この「共鳴できる事業、ミッション、ビジョン」を持つ企業との巡り合いというものは、実は必然ともいえるものです。なぜなら、自身が求めるものが明確であるため、どの企業がその人にとって望ましい場となりうるかも明確だからです。

これは自分でじかに企業に応募しても、我々のようなエグゼクティブサーチ会社や人材エージェントを利用しても、あるいは仕事上や個人的な付き合いの中で知り合ったご縁からのスカウトであれ、いずれにおいても、あなたに紹介されるべき企業やポジションは何なのか、初動から一定以上はクリアになっているということです。

よく「不思議なご縁で」という表現で、まさに運命のようなタイミングで新天地との縁がある人がいますが、これは実は不思議でも何でもなく、互いが引き合うマグネットポイントがしっかり設定されていたからなのです。当社がエグゼクティブサーチでやっていることは、ある面、このマグネットポイントを明らかにし、引き合う案件を紹介しているという作業なのです。

そうはいっても、現実としてはなかなかこの点が明確になっている人はそう多くはありません。そこで応募・選考に入ってから企業側はあの手この手でこの部分を確認していくわけです。

ベンチャー、老舗企業、投資会社の買収先企業という、特に30代幹部を積極的に抜擢しようとしているセクターのいずれをとってみても、これがない人が経営幹部・CxOに抜擢されることはまずありません。最近増えている社会課題解決を掲げる、注目のベンチャー企業各社では創業社長たちはこの部分の重要性を強く認識しており、どれだけ専門性やスキルが合致していたとしても、ビジョンへの共鳴や企業カルチャーとのフィットがない30代を採用することはないのです。

経営幹部職を志向する30代にとって、このコロナ禍の中にあっても経営幹部ニーズは非常に根強く、チャンスは多くあります。ぜひこの機会をつかみ、アフターコロナに向けた次の時代をけん引する経営幹部デビューを果たしていただきたいと思います。

井上和幸

経営者JP社長兼CEO。早大卒、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職後、リクルート・エックス(現リクルートエグゼクティブエージェント)のマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。「社長になる人の条件」(日本実業出版社)、「ずるいマネジメント」(SBクリエイティブ)など著書多数。

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年01月29日 掲載]

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