
大和証券は4月から従業員に転職市場での価値に応じた報酬を払う仕組みを導入する。デリバティブ(金融派生商品)のトレーダーといった数学などの高度な知識と能力を必要とする人材が対象で、2030年度までに500人程度まで広げる。他業種を含めた競争が激しい中、優秀な人材の確保につなげる。
株式や債券などを自己資金で売買する部門、IT関連部門を対象とする。幅広い金融商品や数学の知識が必要とされ、数学や物理学の修士や博士課程を修了している人もいる。
コンサルティング会社などを通じ、転職市場での人材価値を精査する。市場動向に合わせて引き上げたり、下げたりする。年収は対象社員の能力と合わせて決める。市場での価値が高くても成果が低い場合は年収も低くなり、価値が低くても成果を出した場合は価値より高い年収を払う。自己売買部門のトレーダーは能力次第で5000万円を支払う。
21年度から高度専門職を対象にジョブ型雇用を導入する一環となる。ジョブ型雇用では業務内容に応じて賃金を決めるが、市場価格に連動して上下するのは珍しい。22年4月入社の新卒採用でも初任給40万円以上の採用枠を設定、30年度までに全従業員の5%にあたる500人程度に増やす。一定期間、期待した成果を出せない場合は通常の給与形態の総合職に戻す。
金融業界では外資系を中心に数千万円の年収も珍しくなく、もともと人材の流動性は高かった。それでも最近は人工知能(AI)やフィンテックの広がりで、他業種を含めた獲得競争が激しくなっている。大和の現制度では高度専門職も総合職社員と同水準の給与しか支払えず、人材のつなぎ留めが課題となっていた。
NTTデータやソニーなどIT人材の採用強化を狙い、高額な報酬を提示する会社は増えている。野村ホールディングスも個人の能力や業績に応じて給与を決める制度を導入している。
経団連は20年にメンバーシップ型とジョブ型を組み合わせた新たな雇用システムの確立を提言した。大和は従来型の雇用形態は幅広い仕事を経験することで、能力が高まる利点があると判断。ジョブ型に完全移行するのではなく、一部で導入して市場価値に見合った年収を提示することで、優秀な人材の獲得を狙う。
[日経電子版 2021年03月03日 掲載]