あしたのマイキャリア

逆風下の転職市場 動くかやめるか、見極めるカギは

転職エージェント調査(5)終

コロナ禍以降、中途採用の選考基準が厳しくなってきたという(写真はイメージ) =PIXTA
コロナ禍以降、中途採用の選考基準が厳しくなってきたという(写真はイメージ) =PIXTA

これまで4回にわたって掲載した転職エージェント調査の結果からは、新型コロナウイルス禍以降、総じて求人件数が減少し、選考基準が厳しくなるという求職者にとって逆風が吹く転職市場の実態が浮かび上がってきた。この難しい環境下で、転職すべき人、現職にとどまったほうがいい人とは、それぞれどういうタイプなのか、転職すると決めた場合、成功するためのポイントは何なのか。転職コンサルタントの黒田真行氏に話を聞いた。

<<(4)プロが教える転職術 決め手は採用側目線での自己演出

(1)コロナ禍転職、最終面接落ちが続出 進む即戦力シフト >>

――転職希望者にとって厳しい状況ですが、転職すべき人、現職にとどまったほうがいい人はそれぞれどういう特徴がありますか。

「まず、転職すべき人は大きく分けて3つのタイプがあると思います。第一に、今、すでに動かざるをえない環境にいる人。会社が倒産の危機に直面していたり、給与の未払いに陥ったりしているパターンです」

「第二に、業界全体が低迷している、または、自分が所属する会社の戦略ミスなどで近い将来、動かざるを得なくなりそうな人。売り上げの減少が続く衰退産業など、先行きが暗く改善の見込みがないのであれば、早めにアクションを起こしたほうがよいでしょう」

「第三に、(今の会社以外で)自ら実現したいことが決まっている人。起業や異業種への挑戦など進みたい方向が決まっているのであれば、(現職にとどまり)時間を浪費しても仕方がないと思います」 「逆に、もう少し考えたほうがいい人は転職目的がはっきりしていない人、目的があったとしても漠然としたキャリアアップや目先のわずかな年収アップに限られるケース。転職することによって、付加価値の高い仕事に就けるのか、じっくりと考える必要があります」

ポータブルスキルをフル活用

――いざ「転職する」と決めたとき、転職先選びのポイントは。

「現在の転職市場は、求人が減少し、選考基準や競争率が上がっている状態です。求職者としては、応募する範囲を広げる以外に転職の成功率を高める術(すべ)はありません」

「社会心理学で『認知バイアス』といいますが、人は往々にして、これまで所属した会社の環境や経験が基準になってしまい、それとは遠い環境に拒否反応が出るということがありえます。『バイアス』は転職において、自分が過去に体験したことに再び関わりたい、という思考につながり、逆に『経験がないと無理なのでは』『自分は○○しかできない』などと無意識に目線を狭めてしまいがちです」

「特に年齢が上がるほど、『自分はつぶしがきかない』と思い込んでいるケースが目立ちます。ただ、求人が少ない状況でこの思考をしていては応募先がいっこうに広がらず、転職の成功にもつながりません」

「今までは自身のレーダーに入っていなかった異業種・異職種のポジションを含め、自分のスキルや経験が活用できる仕事はないかという視点で探すとよいでしょう。視野を広げるにあたって、着目してほしいのがポータブルスキルです」

「ポータブルスキルは文字通り『持ち運びできるスキル』、業種や職種、環境が変化しても生かすことができるスキルのことで、コミュニケーション力や、交渉力、段取り力、実行力、計画立案力、課題発見力、計画性など、幅広く存在し、ビジネスパーソンとして一定期間仕事をしていれば、これらのいくつかを習得していると思います」

「営業やマーケティングなどの専門スキルに加え、ポータブルスキルをフル活用し、自分の強みを生かせる業界を見つけることが重要です。ひとたび『バイアス』から脱し、視野を広げることができれば、仕事をネットで検索するにしても大幅に選択肢が増えることになります」

採用する側のマインドで考える

――転職先の選び方が定まった後、実際の転職活動でのポイントは。

「面接にしても職務経歴書にしても、採用する側の気持ちを理解することが肝要です。生涯年収を考えると、中途採用は、企業側からして結構、値が張る『買い物』といえます」

「しかも、いったん雇用すると簡単には解雇できないうえ、場合によっては既存社員に悪影響が出ることもあり、リスクが伴います。かなり難しい『買い物』についての判断を短期間に下さないといけない企業の人事担当者、担当役員らにアピールするにはどうしたらよいかを考えましょう」

「まず、自分は『何をすることによってお金(賃金)をもらう価値がある存在なのか』を見極めてほしいと思います。たとえば、法人営業のスペシャリストや特ダネ記者など、『自分がこれによって世の中に貢献し対価をもらうに値する』と思える仕事を明確にしましょう。『自分が何屋なのか』を特定したうえで、雇用する側の目線で、人件費に見合う投資であることを分かりやすく説明するとよいと思います」

「転職の面接などで、これまでの実績を長々と自慢話のように語る人がいますが、正直なところ、企業側は前の会社での実績そのものには興味がありません。前職で何をしてきたかを質問するのは、これまでの実績を自分の会社でも再現できるか、の裏付けを問うているにすぎないからです」

「採用企業側のニーズをくみ取り、『御社には○○で貢献できると思います。なぜなら過去に△△だったからです』などと主張するとよいでしょう。職務経歴書についても同様です。企業側は経歴の中から『わが社で活躍してくれるかどうかを示すヒント』を見つけようとしています。前職での成功体験やメソッドが自分たちの会社でも再現できそうだと思ってもらえるように書かないといけません」

「20年のコロナ禍以降、求人数の減少と選考基準の厳格化という、求職者にとっては強い逆風が吹いています。徹底した『買い手目線』で自身を売り込むことが必要不可欠だと思います」

黒田真行 転職コンサルタント

ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年02月20日 掲載]

前の記事
次の記事

ピックアップ

注目企業

転職成功アンケートご協力のお願い
日経転職版を通じて転職が決まった方に、アンケートのご協力をお願いいたします。