在宅勤務、定着阻む中高年管理職 意識改革が必要

鶴光太郎・慶応大学大学院教授

テレワークになじめぬ中高年の管理職も(写真はイメージ=PIXTA)
テレワークになじめぬ中高年の管理職も(写真はイメージ=PIXTA)

新型コロナウイルス感染症が広まり始めて1年。多くの企業が急きょ取り入れた在宅勤務は定着にほど遠い。テレワークやジョブ型雇用を推進する慶応大学大学院の鶴光太郎教授は、企業のデジタル化の遅れや、労働時間管理に関する議論の混乱が円滑な浸透を阻害していると警告する。

――中高年の管理職を中心に、在宅勤務への否定的な声が目立つ。

つる・こうたろう 1984年東京大理学部卒。オックスフォード大経済学博士。旧経済企画庁や経済産業研究所を経て2012年から現職。内閣府規制改革会議・雇用ワーキング・グループ座長など歴任
つる・こうたろう 1984年東京大理学部卒。オックスフォード大経済学博士。旧経済企画庁や経済産業研究所を経て2012年から現職。内閣府規制改革会議・雇用ワーキング・グループ座長など歴任

「昨春の緊急事態宣言で強制的に始まった在宅勤務だが、明らかになったのはデジタル化やペーパーレス化といった在宅勤務に必要なインフラや制度を整えていた企業と、そうでない企業で進展に大差があったことだ。宣言解除後、コロナ前に対応が進んでいた企業の実施比率はそう下がらなかったが、急ごしらえの企業はコロナ以前に戻ってしまった」

「若い世代は、在宅勤務を生産性が上がるシステムとして受け入れている。問題は、理屈抜きにテレワークを嫌う中高年管理職。若い頃から親しんだ(一同に集う)大部屋方式、対面主義、長時間残業が当然で、こうした日本的システムから離れることに抵抗する。これは世代間問題だ」

「中高年管理職は『リモートでは部下の管理ができない』としがちだが、デジタル技術の進歩は、4~5年前の段階でこの議論を無意味にしている。『全部リモートでできる』と答えたい」

「例えばテレワーク導入支援を行うテレワークマネジメント(東京・千代田)では、4~5年前から端末上に座席図を表示し、クリックすれば呼び出せたり、複数で議論できたりするシステムを提供していた。最近では個々の社員が『会議中』『仕事に集中中』『数時間中抜け中』というように勤務状況をリアルタイムで端末に表示し、自分のペースで効率的に働いている」

ジョブ型雇用・成果主義と在宅勤務を混同させない

――在宅勤務を、職務を明確にして契約するジョブ型雇用や成果主義など、従来の働き方の見直し策とひとまとめに考える議論が多い。

「最近、ジョブ型やテレワークを推進してきた労働分野の専門家は皆、この誤解を解かねばならないと動いている。ジョブ型雇用は日本的雇用システムの見直しのためには不可欠だが、ひとまとめの議論は(推進したい立場にとって)ひいきの引き倒しになっている」

「成果主義や、実労働時間にかかわらず労働時間を一定とみなす裁量労働を導入しなければ、テレワークはうまくいかないとの考え方は古い議論だ。目の前にいない社員の働きぶりはモニタリングできないとの前提があるからだ」

「今のテクノロジーをもってすれば社員の働きぶりや労働時間は、大部屋管理以上に正確に把握できる。こうなると裁量労働制の必要性さえ薄くなる。ホワイトカラーのインプット、アウトプットの『見える化』を徹底することで評価はできるはずだ。企業は問題点を言う前にデジタル化を進め、社員もプライバシーを守りながら自分の仕事ぶりをアピールするよう発想を変えるべきだ」

「テレワークとジョブ型の親和性が高いことは否定しないが、職務を限定しないと在宅勤務がしづらいとの発想も古いと感じる。営業なども含め、ホワイトカラーの仕事はかなりの部分テレワークでできている」

若手の業務習得、リモートでも工夫次第で可能

――在宅勤務やジョブ型雇用ばかりでは、若者が能力を磨けないのでは。

「大学1年生が友人をつくれない、新社会人が誰に仕事の仕方を聞いたらよいかわからない。こうした話を聞くたび、在宅勤務で社会の新しい環境になじむことの難しさを感じる。だが、対策もある」

「在宅勤務が浸透している企業でも、新人はあえてオフィスに出社させているところがある。テレワークマネジメントの田沢由利社長は若手を自分の『かばん持ち』と称して、他社とのネット上の会合に同席させ、業務を教える工夫をしていた。リモートで任意参加の雑談会を開き、ネット上の分身のアバターを通じて社員同士の親近感を高めるなど、できる工夫から始めてほしい」

「新卒社員をジョブ型採用する動きもあるが、今の大学教育システムでは、理系の大学院以外の新卒をジョブ型採用するのは無理だと考える。文系学生が専門職能を磨きジョブ型に移行できるのは、入社10年を過ぎた30代半ばからだろう」

――在宅では仕事と生活の両立が難しいとの声がある。

「在宅勤務には慣れが必要だ。私も大学が閉鎖され研究室が使えず、適応に1カ月ほどかかった。昨年のように小学校・保育園が休校・休園になる中での在宅勤務は本来の姿ではない。子供を預け自分が最も生産性を上げられる環境を選び、デジタルで職場とつながって仕事する。それが本来のテレワークだ」

デジタル化、仕事観捨てる覚悟を

緊急事態宣言中の昨年4月、記者の在宅勤務日数は12日だった。それが宣言解除後の10月には3日に減った。在宅で仕事はできると体感していたのに出勤が増えた原因は、鶴教授が言うように、50代のわが身に染みついた日本的職場への回帰心だろう。

鶴教授は、個人の労働時間と仕事内容をデジタル技術で正確に把握し、その人の成果と突き合わせれば、働いた場所に関係なく客観的考課が可能だとする。この数理的手法は、みなし労働時間制の一類型にとどまる裁量労働や単なる成果主義より精緻で、従来型の時間管理論議を根底から覆す力を秘める。

日本的職場信奉者の抵抗は大きそうだ。だが以前と違うのは、コロナ禍で誰もが在宅勤務を実体験し、日本的職場の非効率を冷静に見られることだ。記者を含む中高年は、仕事観を一度捨てる覚悟がいる。

(生活情報部シニアライター 礒哲司)

[日経電子版 2021年02月10日 掲載]

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