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プロが教える転職術 決め手は採用側目線での自己演出

転職エージェント調査(4)

面接では採用側のニーズを踏まえたアピールが肝心(写真はイメージ =PIXTA)
面接では採用側のニーズを踏まえたアピールが肝心(写真はイメージ =PIXTA)

転職準備で必要なのは、新しいスキルの習得よりもキャリアの棚卸し。日経HRが転職エージェントを対象にした調査では「転職前に準備しておくべきこと」として約8割が「キャリアの棚卸し」を挙げた。新型コロナウイルス禍で求人需要が減少するなか、自身の経験や強みを「棚卸し」で整理し、企業側のニーズにいかに応えられるかを職務経歴書や面接でアピールすることをすすめるエージェントが多い。最近増えているとされる、多数の企業への同時エントリーについては、懐疑的な見方も出た。

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同調査は2020年12月に実施し、転職エージェント75人から回答を得た。「転職する前に準備しておくべきことは何か」と聞いたところ(複数回答)、「キャリアの棚卸し」(78.7%)がトップ。「職務経歴書・履歴書の作成」(60%)、「企業・業界の情報収集」(48%)「スキルの習得」(20%)と続いた。

【自由回答】

・自分の情報をまとめることと、求人側の情報を調べることは車の両輪。職務経歴書の作成はおのずとキャリアの棚卸しとなる(JACリクルートメント)

・書類選考から内定までの採用スピードが早まっており、棚卸しをしていないと面接で良い回答ができない(インターワークス)

・キャリアの棚卸しができていないと自分の強みが分からず、転職先が見つからなかったり、せっかく書類が通っても面接で落ちたりしてしまう(アデコ)

・過去から現在までの振り返りと、それに基づく転職理由の整理ができていないと転職先選びができない

・場当たり的な判断をするのではなく、中長期で準備や情報収集をするべき

・自身の市場価値を高めるために数年後までに得るべきスキルは何か、10年後の自分は市場で評価してもらえる人材になっているか、これらを常に考えている人の転職活動は成功している

次に、転職活動で最も身近な手段の一つであるエージェントや転職サイトの「おすすめの使い方」について尋ねた(複数回答)。「自分に合った数社を厳選して利用する」が77.3%でトップ、「転職でかなえたいことの優先順位付け」が56%、「(自身の市場価値を知るため)エージェントと面談する」が45.3%だった。「登録時の経歴書を詳細に記載する」は26.7%。登録時に少し時間がかかるものの、職歴などを詳細に記入したほうがスカウトメールの来る可能性が高く、成果につながりやすいとの見方があった。

書類選考を通過しやすい職務経歴書の書き方

求職者について「こうすれば選考を通過するのに」と思うポイントを挙げてもらったところ、職務経歴書に関する意見が大半を占めた。求職者にとって厳しさを増す転職市場にあって、相手(企業側)目線で自身をいかに売り込むかの重要性を指摘する声が多かった。

【自由回答】

・自身が書きたいと考える視点ではなく「ぜひ会いたい」と読み手に思わせられるような職務経歴書を作成してほしい

・自分をアピールするのが職務経歴書だが、あくまでも採用者視点で自分をアピールできるかが重要

・大方の企業に通じるような職歴書は有効ではなく、受ける企業に合わせて、自分のキャリアを十分にアピールすることが大切

・応募企業によって職務経歴書を使い分ける。できるだけ多くの経験を書き出し、応募企業に応じてエージェントに削ってもらう(マンパワーグループ)

・複数社を受けているうちにどこの会社も落ちてしまう人がいる。企業研究が足りずに受けると通過しないので、 身の丈に合った企業数で受けることが望ましい

・どんなに現在の職位や年齢が高くても「謙虚さ」を忘れないことが選考突破や転職後の成功につながる(A・ヒューマン)

・面接は「言ったもの勝ち」のところもある。できるかできないかわからないことでも「やってみます」と言えるかどうか

・買い手市場へ変化したことで、良い求人に関してはいかに早く応募できるかが重要(JACリクルートメント)

・自信のない回答でも「思います」でなく「です」と言い切る癖をつける

転職エージェントの見方

◆ KEY ROLE 兼吉知子社長の話

コロナ禍以降、在宅勤務が広がった影響で入社後の育成が難しくなり、「少し伝えたらピンとくるような即戦力」以外は採用しないという企業側の姿勢が顕著だ。未経験者やキャリアチェンジ案件が急激に減っている。選考過程でライティングなどの実技を追加するケースも出てきており、転職希望者にとっては厳しい環境だ。こういった状況を背景に「(下手の鉄砲も)数撃ちゃ当たる」的な転職活動が増え、職務経歴書や志望動機を使い回す人も少なくない。これでは「本当にそのポジションを志望しているのか」と疑念を持たれかねない。最低でも各ポジション、各企業に合わせて修正したものを使用してほしい。

職務経歴書で意識したいのは「ニーズキャッチ力」だ。自分の視点だけで経歴などを羅列し、一方的にアピールする職務経歴書が多いが、求人票の「業務内容」や「求めるスキル」から、どのような経験や人物を企業が求めているか、どの部分が自分の経験と親和性があると思われるかなど、様々な角度から考え、それを踏まえてアピールすることが肝要だ。自分が企業側からどう見えるか、自身で俯瞰(ふかん)してみよう。自分だけでは難しければ、エージェントの助けを借りると、第三者の視点を得やすくなる。また、会社、業界ごとに特有の用語があるものだが、これまで使っていた言葉ではなく、求人票に書いてある単語を活用するのもよいだろう。

面接での模範解答を尋ねてくる人がよくいるが、中途採用面接での模範解答は存在しない。あくまで自分の言葉で自分自身のこれまでのエピソードを語り、具体的にいかに貢献できるかをアピールすることで、企業側に入社後の活躍をイメージしてもらう、そのための場が面接だからだ。コロナ禍での注意点としては、選考の場がオンラインにシフトし、求められるコミュニケーション力の質が変わってきているということ。「一人で話しすぎていないか」「冷たい印象を与えていないか」など、普段のオンライン会議での自分の様子を録画し、印象や発言(長さやタイミング)を客観的に見直してほしい。

転職は「仕事」のつもりで時間をかけて

◆ ダンネット 林正史社長の話

最近、一度に5、6社、場合によっては10社など多くの会社に一度にエントリーする人が目立つ。必ずしも実際に転職したい仕事ではなく、自分が希望する業種や職種であれば、とりあえず応募しているといった印象だ。20年秋ごろから選考ハードルが高くなり、心理的に余裕がないのは理解するが、こういった姿勢の人は大抵、転職先がなかなか決まらない。

「毎日15分、転職サイトを見る」「1日1回、エージェントと面談する」という程度で、転職活動をした気になっている人が多いが、転職を成功させるには「仕事」として時間をかけて取り組むことが必要だ。仕事で納期を徹底するように、転職活動でも「いつまでに必ず転職する」と、自分自身で目標を設定することから始めたい。そこから逆算し、例えば「仮に『4月に入社する』と決めた場合、3月中に内定が欲しい→2月前半までに5社程度の書類選考を通らないといけない→(歩留まりが5割として)1月中に最低10社の書類を準備しないといけない」というようにスケジュールを決める。

企業研究についてはまず求人票を深く読み込むとよい。不明な点はエージェントに聞き、自分の経験・スキルとマッチする職務内容かどうか、エントリーすべきかどうか、判断する。相談するエージェントは3社程度がおすすめだ。大手は求人件数が多い、中小はきめ細かいなど、それぞれ長所があるので、各社から相性のよい人を見つけよう。ただ、エージェントはあくまでも側面支援する「秘書」の役割で、最後にどの会社に入社するかなど、重要な判断を下すのは自分自身だ。

面接で一番重要なのは1次面接ではないか。組織内の情報は下から上に上がるもので、1次面接を実施した人事部の評価を後から覆すのは非常に難しい。面接には(過度に低姿勢になることなく)対等な気持ちで臨んでほしい。カルチャーやスキル面での入社後のミスマッチを防ぐ意味でも、求人票では分からないこと、人事部にしか聞けないことを積極的に質問するとよいだろう。

(日経転職版・編集部 宮下奈緒子)

[NIKKEI STYLE キャリア 2021年02月13日 掲載]

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