デジタル庁、民間人材が成否左右 待遇は海外に見劣り

政府は9日に閣議決定したデジタル庁設置法案で首相をトップとする同庁の構成を決めた。9月1日に発足する組織で2割以上を占める見込みの民間人材が、行政デジタル化の司令塔役を果たせるかどうかを左右する。

待遇面をみると米政府の下で働く技術者よりも給与は低いとみられ、質の高い人材を確保できるかは見通せない。デジタル庁が整備する仕組みを使ってどういう政策を実現するのかといった目標設定の議論もこれからだ。

平井卓也デジタル改革相は9日の記者会見で「デジタルによる利便性の向上を実感してもらうべく、しっかり対応していきたい」と述べた。

民間出身者の給与は現在、年収換算で最大1千数百万円程度を想定する。通常の国家公務員より高い水準の設定だが、それでも海外と差はある。

米国の場合、ホワイトハウス傘下の米国デジタル・サービス(USDS)が政府のデジタル化を助言する。採用した技術者には10万~17万ドルの給与を支払う。民間のIT(情報技術)企業ならさらに高額の報酬を望める。

政府側の懸念も強い。優秀な人材の確保を急ぐため、発足に先立つ4月から30人程度を非常勤職員として先行採用する。兼業やテレワークなど柔軟な働き方や待遇も認める。

業界内の人脈を使って採用活動を支援するデジタル庁に特化した「リクルーター」も導入し、行政機関として異例の対応をとる。

平井氏は公募状況について「多くの人が日本のデジタル化に貢献したいとの思いで関心を持ってくれている」と手応えを示した。30人の先行採用枠には1月22日の締め切りまでに1432人の応募があったという。

2020年度の経済財政報告(経済財政白書)によると、行政機関など「公務」に属するIT人材は国内IT人材の総数のわずか0.5%にとどまる。シンガポールで政府職員の7%にあたる2600人が政府のIT部門で働くのと比べ、見劣りする。

平井氏は9日の記者会見で、公的なデジタル分野の仕組みづくりに関し「役人の皆さんは本業があり、片手間にやる人が多かった」と語った。

厚生労働省が3日に発表した新型コロナウイルスの感染者と濃厚接触した可能性を知らせるアプリ「COCOA(ココア)」の不具合を例に、専用の人材を抱える必要があると訴えた。

COCOAについては「はっきり言って出来のいいアプリではなかった」と評し、提供する厚労省と連携して改善する方針を示した。

民間の専門性を生かすには人数を確保するだけでなく、アイデアを吸収しやすい組織づくりが不可欠となる。事務次官にあたる「デジタル監」を含め、民間出身者の起用をめざす局長級や課長級に強い裁量を与えるのもそのためだ。

菅義偉首相は縦割りや前例踏襲主義といった霞が関文化の打破をデジタル庁に期待する。

日本総合研究所の野村敦子主任研究員は「大事なのは国民の目線に立ったサービスの提供だ。これまでの役所仕事は政府の目標達成のための供給者目線だった」と話す。

具体的な目標設定は着手したばかりだ。現状は各府省や国と地方などの行政システムの標準化を役割の柱に置く。データ利活用に関する戦略は中長期のもので曖昧な内容にとどまる。

人工知能(AI)開発の半熟仮想(東京・杉並)社長で米エール大助教授の成田悠輔氏は「具体的な未来社会の構想がなければ、優秀な人材は集められない」と指摘する。

政府の機関で働く価値も重要視される。米国では最先端のIT技術が情報機関や軍事分野で使われ、政府での経験はその後、民間企業でも高く評価される。野村氏は「政府や自治体の仕事に携わった経験がキャリアアップにつながる環境づくりが重要だ」と語る。

[日経電子版 2021年02月10日 掲載]

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